第16話 ドラゴシオンの昔話

「ハル、探してみるか?」

「じーちゃん、もちりょんら」

「ぶもぶもッ」


 ヒポポはハルを乗せたまま移動して行く。


「ヒポポ、どこに行くんだい?」

「なんら?」

「ぶもぶももッ」

「精霊樹がありゅのか?」

「ぶもッ」


 どうしてハルはヒポポの言っている事が分かるのだろう?


「ハルは不思議な子だよ」

「アハハハ。おばば様、気にしていたらその度に驚かなきゃなんねーよ」

「リヒトは、もう少し気にして考えないといかんな」


 長老に言われてしまった。リヒトはもう少し考える方が良いらしい。

 おばば様の家の裏側へヒポポが歩いて行く。家の裏にも畑があった。本格的な薬草園だ。花も沢山咲いている。以前来た時は上着が必要な季節だった。今はこれから暑くなる季節だ。大森林は雨季の真っ最中だが、この辺りでは雨季はない。

 花も今が先時とばかりに沢山咲いていた。


「いい匂いら。らべんだーら」

「ハル、よく知っているね」

「おばばしゃま、らってポーション作りゅ時にもちゅかうじょ」

「そうだったね。ハルはポーションも作るんだね」

「ん。じぇんぶちゅくれりゅじょ」

「そうなのかい?」


 そんな話をしながら、裏の花畑を抜けどんどん進んでいくヒポポ。

 畑の外れでヒポポは止まった。


「ぶもッ」

「ほんちょら、元気らな」

「ぶももッ」


 ヒポポが止まった場所は表の庭と同じ様にそこだけぼんやりと光って見える。ハルにはハッキリと精霊樹が見えているらしい。

 ハルが手の甲を見る。やはり印が光っていた。


「しゅげーな。おばばしゃまんとこには2本も精霊樹がありゅんら」

「知らなかったよ。全然気が付かなかった」


 おばば様自身も驚いている。


「ぶもぉッ」

 

 と、ヒポポが鳴くと上空から鳴き声が聞こえてきた。


「チチーッ」

「あ、鳥しゃんら」


 ヒポポが呼んだのだろう。上空から小さな鳥が飛んできた。

 雀より少し大きい位だろうか、真っ赤な長い嘴に綺麗なコバルトブルーの体で胸の辺りは鮮やかなオレンジだ。


「ああ、あの子も精霊獣だったのかい」

「ぶもも」

「裏庭にいつもいる鳥なんだよ。変わった色をしていると思っていたんだ。そうかい、精霊獣なのかい」

「きりぇいらなぁ」

「どうやらおばば様の庭は居心地が良いらしいな」

「長老、嬉しい事だよ」


 そこにある精霊樹も元気だった。早くも2本目だ。おばば様の庭は宝物だ。

 美しいコバルトブルーの翼をパタパタと羽搏かせ、鳥さんがハルの肩にとまった。


「チチチ」

「なんら、かぁわいぃなぁ」

「ぶも」

「あははは」


 全く分からない。話をしているのだろうか?


「ひぽも鳥しゃんも元気ら。2本とも良い精霊樹ら」

「そうかい、そりゃあ良かったよ」


 鳥さんは精霊樹へ飛んでとまった。いつもそこにいるのだろう。精霊樹にとまると同じように光って見える。


「綺麗らな」

「ハル、元気な精霊樹で良かったな」

「ん、じーちゃん。けろ、おばばしゃまの庭らから元気なんらろうな」

「そうだろう。アンスティノスでは生きているのかも分からんぞ」

「しょしたら精霊獣もかわいしょうらな」

「早く助けてあげよう」

「ん、しょうら。たしゅけてあげなきゃらな」


 さて、その日はおばば様の家にお泊りだ。

 ルシカの作った美味しい夕食を食べ、ハルもそろそろお眠だという時間におばば様が皆を庭に呼んだ。


「ハル、もう少し起きていられるかい?」

「おばばしゃま、らいじょぶら」


 今の世界には大小2つの月がある。

 庭にでると、雲ひとつなく晴れた夜空に、月がくっきりと浮かんでいる。

 1つは大きくオレンジの様に黄色く、力強く輝いている。もう1つはオレンジの月よりもずっと小さく輝きも優しい。淡いグリーン色した月だ。

 

「これもドラゴシオンに伝わる昔話なんだけどね」


 と、おばば様が語りだした。

 大きくオレンジ色の月は世界樹を、小さなグリーン色の月は精霊樹を現すと言われている。

 普段は黄色く見える大きい方の月が一定の時間だけ金色に輝いて見える時間がある。

 その時間は季節によって異なる。

 精霊獣に認められ、一緒にいる者には光の道筋が見えるのだと。オレンジの大きな月が精霊樹のある場所を示すのだそうだ。

 

「それがね、今の季節だと今頃だと思うんだよ。ヒポポ」

「ぶもも」


 ヒポポは自分の出番だとばかりに数歩前にでる。そして、一声鳴いた。


「ぶもぉ~」


 すると、不思議な事が起こった。大きなオレンジ色した月がより一層輝き出し、まるでゴールドの輝きの様に見えた。そこから、幾筋もの細く淡い光の筋が地表を指した。まるでゴールドの光の柱が立っているかの様だ。


「驚いた、こんな事が起こるなんてね」

「おばばしゃま、あの光の先に精霊樹がありゅのか?」

「そう言い伝えられているんだよ。長老、ワールドマップをハルは持っているかい?」

「はい。ハルもワシも持ってますぞ」

「それに照らし合わせると良いよ」

「なるほど」

「じーちゃん、おりぇわかりゃんじょ」

「ハル、ワールドマップと思ってみるんだ」

「んッ」


 ハルが何故が両手を胸に揃えて目を閉じている。そのキチンと揃えられたお手々は意味があるのか? ただ可愛らしいだけだろうか?

 ハルの手の甲にある印が光り導く。少し意味があったようだ。


「じーちゃん、わかったじょ」

「そうか、ワシもリンクさせて登録しておいたぞ」

「おばばしゃま、ありがちょ」

「オレンジの大きい月の方が世界樹を、小さなグリーンの月が精霊樹を現すんだ。なのに、なぜオレンジの大きな月が精霊樹のある場所を示すと思う?」


 おばば様が昔話の続きを語る。

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