第2章 どりゃごしおん王国ら!

第12話 ドラゴシオン王国へ

 翌日、ハルはルシカと一緒に回復薬を作っていた。調薬作業台の前に椅子を持ってきてその上に立っている。まだちびっ子だからね。届かないんだ。


「ハル、これもお願いしますね」

「ん」


 ハルちゃん、ちゃんと役に立っているのかな? 意外にも慣れた手つきで小さな手を動かしている。


「ハルが手伝ってくれると助かりますよ」

「ん、大したこちょねー」


 相変わらず、一丁前な言い草だ。

 しかし、ハルは魔法でも製薬でも万能だ。長老とリヒトの母に教わりマスターしている。

 それに、ハルは聖属性魔法が使える。それを使えないハイダークエルフのイオスより、回復薬を作るのには向いているらしい。


「私はあまり向いていないのですよ」

「しょんなこちょねー。りゅしかもちゃんと作りぇてりゅ」

「そうですか?」

「ん、じょうじゅ」

「ハハハ、ありがとう」


 3歳児に上手と言われてもだ。まあ、ハルは別格だが。

 ハルは曽祖父である長老と、研究者であるリヒトの母に製薬だけでなく色々教えこまれている。3歳児なのに、もう既に上級魔法も使えるくらいにだ。

 ハルがなんでも直ぐに覚えるので2人はアハハ、ウフフと教えたらしい。

 ハル自身も楽しかったと言っているから良しとしよう。


「りゅしか、毒消しもちゅくりゅ?」

「そうですね。念のために作りましょうか」

「ん」


 2人の手元を見ていても、一体何をしているのか全く分からない。

 一瞬の内に、薬草が粉砕されエキスになり調合されていく。エルフの精霊魔法を使って調合しているから、ヒューマンの製薬方法とは全く違うのだそうだ。


「ハル、これができたら少し休憩しましょうね」

「甘いの食べゆ?」

「そうですね、お昼前ですから少しだけですよ」

「ん」


 微笑ましい。ルシカといるとハルもちゃんとしている。お利口さんだ。


「りひとはちゃんと仕事してりゅかなぁ」

「フフフ、リヒト様も大人ですから大丈夫ですよ」

「しょうか?」

「はい、そうです」


 いやいや、怪しいぞ。


「リヒト、だから集中しなさいよ」

「なんだよ、シュシュ。うっせーな」


 おや、シュシュがお目付け役らしい。


「それくらいの量なら集中してやれば直ぐじゃない」

「書類仕事は面倒なんだよ」

「それがリヒトの仕事じゃないの」

「もう、シュシュはおかんかよ」

「やだ、酷いわね」


 ほら、やはりリヒトは不安だ。

 そんな一行だったが、やっとリヒトの代わりのミエークも来ていよいよ出発するようだ。


「気を付けて行ってこい。こっちは心配すんな!」

「ミエーク、いつもすまん」

「良いさ。もう慣れたしな」


 以前もリヒトが留守にする時にミエークは代わりに来てくれている。

 その時に、ハルと一緒に大陸にある全部の国を回った。遺跡の調査をしたり、アヴィー先生を助け出したり。

 そして、海中にある国にも行った。セイレメールだ。人魚の女王が治める国だ。4ヵ国協定を結ぶにあたり、正式名称が判明した。正式には、セイレメール女王国というのだそうだ。代々人魚族の女王が治める国だ。

 そのセイレメールと4カ国協定を結ぶ切っ掛けがルシカのおやつだ。ルシカが作るおやつを女王と王女が気に入った事から話が進んだんだ。

 なんとも微笑ましい限りだ。


 さて、今回先ず向かうのはドラゴシオン王国のおばば様の元だ。

 おばば様もハルを可愛がってくれている。ハルが来るのを心待ちにしている事だろう。

 

「ハル、気をつけて行ってこい!」

「みえーくしゃん、ありがちょ」

「ヨシ、行くか」

「皆、近くに寄ってくれるか?」


 長老が魔法杖を出した。どうやら転移で行くらしい。

 4カ国協定が結ばれてから各国の入門近くに転移の地点を置いてある。今後、エルフが各国の遺跡を管理する為だ。相応の魔力量がないと使えないし、見る事もできない。必然的にエルフ専用になってしまうが、エルフと一緒なら魔力量の少ないヒューマンでも転移できる。

 長老はそんなものがなくても、1度訪れるか認識できればどこへでも転移できる。

 そんな事ができるのは今のところ長老だけだ。リヒトでさえ長距離の転移はできない。

 その長老の転移でドラゴシオン王国の近くに出てきた一行。

 周りの樹々も広葉樹から針葉樹に変わっている。大森林では雨季の真っ最中で少しジメジメしていたが、この辺りは雨季がない。空気も爽やかだ。

 目の前に聳え立つ山々には背の高い樹々は少なく、中腹を過ぎた辺りからは森林限界線になるのだろう。高木は見当たらない。以前来た時は山の頂にはもう白い冠雪が見てとれたし、リヒト達も上着を着こんでいた。今回はそんな事もない。


「けろ、しゅじゅしいな」

「大森林よりはな」

「過ごしやすいですね」


 と、季節的には良いらしい。

 入門を終えると以前も案内してくれた侍従のナングが出迎えた。


「お久しぶりでございます、長老」

「おう、ナングか。また世話になる」

「事情はお伺いしております。1度城へお願いします。おばば様もお待ちですよ」

「おばばしゃま!」

「はい、ハルくん。久しぶりですね」

「あい、ナングしゃん」


 侍従のナングに案内され、また前回同様城へとやって来た一行。


「じーちゃん、おばばしゃまの家に行きたいんら」

「ハル、分かっているぞ。だが、竜王には挨拶をせんといかん」

「しょっか、しょうらな」


 前回同様、白龍王でもある竜王が部屋で待っていた。


「長老、ハル久しぶりだ」

「ハル! 元気だったかい!?」

「おばばしゃま!」


 おばば様がハルを抱き上げた。腰は大丈夫か?


「おばばしゃま! 来たじょ!」

「ああ、よく来たね。嬉しいよ」


 本当の祖母と孫の様だ。


「おばば様、また世話になります」

「話は聞いたよ。精霊王の依頼なんだって?」

「そうなのです。ハルが」

「ハル、精霊王と会ったのかい?」

「ん、えりゅひゅーれの城で会った。しぇいれいじょうおーのピンチなんら」

「そうかい、そりゃ大変だ」

「おばば様、とにかく座りましょう。ハル、美味しいおやつを用意してあるぞ」

「おやちゅ! ありがちょごじゃましゅ!」


 言えてねー。

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