第6話 精霊王

「もうッ! 酷いわッ!!」

「本当よね、忘れるなんて酷いわ」

「ね、シュシュもそう思うわよねッ!?」


 ああ、シュシュ。余計な事を言わなくても良いのに。この2人何故か気が合うらしい。


「ばーちゃん、ごめんな」


 ハルがアヴィー先生の足に抱き着く。これもある意味ハルの必殺技だ。ハルに抱き着かれると何も言えなくなる。少し体温の高い幼児特有なポヨンポヨンとしたムチムチの身体の感触が何とも言えない。何より可愛い。


「ハルちゃん、良いのよ。でも私にも色々話してほしいわ」

「ん、わかっちゃ」

「もう、ハルちゃんったら可愛いんだから!」

「ブハハハ」


 リヒト、そこは笑いを堪えよう。


「リヒト、何笑ってるのよ」

「あ、いや。すんません」


 ほらみろ、叱られた。


「じゃあハル、良いか? 話しかけてみるか」

「ん、じーちゃん」


 仕切り直してハルが世界樹に向かう。


「しぇいれいおー、来たじょ」


 おやおや、ハルちゃん。タメ口か? 良いのか?

 すると、空間が白く光り出し光の粒子が集まり人型となった。

 そこには、成人した大人の姿で現れた世界樹の精霊。世界樹自身の精霊であり精霊王が立っていた。いや、宙に浮いていた。

 ハルと良く似た、エメラルドの様なグリーンが入ったゴールドの髪が地に着く程長く、まるで星が美しく光り輝く様なゴールドの瞳。宙に浮くその姿は神々しく、淡く優しくそして力強く輝いている様だった。


「なんと……!? 精霊王様!!」


 長老が思わず跪く。アヴィー先生やリヒトも同じ様に跪いている。


「長老、アヴィー。見えるのか?」

「はい、陛下。見えますぞ」

「恐れ多い事だわ……なんて神々しいのかしら」

「アヴィー、私には見えぬ」

「あたしは聖獣だもの、余裕よ」

「あ……ち、父上」


 そう言いながら、フィーリス殿下も跪いた。シュシュも何だかんだと言いながらちゃんと前足を揃えて伏せをしている。やはり、敬意を払っているんだ。そのシュシュの頭の上にコハルはきょとんとして座っていた。コハルちゃん、マイペースだ。


「……フィーリス!?」

「僕にも精霊王様のお姿が見えるのだぞぅ」


 皆が驚く中、ハルはというと……


「なんもみえねー」


 と、言いながら宙を見て立ちすくんでいた。

 決して精霊王が見えないのではなく……


「ちょっと待ってくりぇ。ほんちょに前がみえねー」


 あらあら、小さな精霊達に囲まれちゃって前が見えないらしい。ハルは精霊に愛されている。


 ――ハル〜!

 ――ハル〜、来たの〜!

 ――ハル〜、会いたかった〜!


 精霊がフワフワと飛びながら口々に話しかける。


「ありがちょ! おりぇも会いたかったじょ。けろ、みんなちょっ……ぶぶふっ」


 ――ハル〜、カワイー!

 ――ハル〜、遊ぼぅ〜!


 ハルの周りにはいつの間にか沢山の精霊達が集まっていた。それこそ、ハルの周りが光って見える位に集まってきていたんだ。


「精霊れ、マジなんも見えねー」

「コレコレ、ハルが困っているだろう」


 ――はぁ~い!

 ――ハル、後で遊ぼぅ~!


 精霊王が一言言ってくれたお陰で、精霊達が離れてくれた。


「ふゅ~、超焦った」

「ハル、此度は世話を掛けるな」

「しぇいれいおー、気にしゅんな」

「そう言ってくれるか?」

「しぇいれいじょうおーがピンチなんら。たしゅけなきゃな」

「ありがとう」


 ハルちゃん超タメ口だ。周りが固まっているぞ。今回は、長老とアヴィー先生、それにリヒトとフィーリス殿下には精霊王の姿が見える様だが?


「しぇいれいおーの粋なはかりゃいか?」

「今回はハルの縁者と、一定の魔力量以上の者には見える様にしておるのだがどうだ?」


 なるほど、ハルの言う通り精霊王の粋な計らいらしい。


「じーちゃん、ばーちゃん見えりゅのか?」

「ああ、ハル。見えるぞ。精霊王様、ワシはハルの曽祖父でラスター・エタンルフレと申します」

「私はハルの曾祖母でアヴィー・エタンルフレです」

「俺は、ハルの保護者でリヒト・シュテラリールです」

「僕はハルの……友達なのだぞぅ!」


 フィーリス殿下が胸を張って堂々と言い切った。しかし、それは縁者と言うのだろうか? 意外にもフィーリス殿下は精霊王の言う一定の魔力量以上らしい。


「第2皇子のフィーリス・エルヒューレなのだぞぅ」

「お目に掛かる事ができて光栄にございます」


 長老が頭を下げる。そうだよね、普通はそうなる。後ろに控えていたルシカやイオス、ミーレも跪いている。精霊王の姿は見えていない様だが、片方の手を胸のところに持っていき最上級の敬意を払っている。


「フィーリス、お前見えるのか!?」

「見えるのだぞぅ。凄く美しいのだぞぅ!」

「恐れ多い! コラ、礼儀正しくしなさい!」


 あらあら、皇帝に叱られちゃった。


「ハハハ。構わん、見えなくても声位は聞こえるはずだ」

「はい、精霊王様。聞こえておりますぞ。私はこの国の皇帝をしておりますレークス・エルヒューレ。こちらは皇后のラティラ・エルヒューレ。そして、第1皇子のレオーギル・エルヒューレにございます。この様にお声を聞く事ができ嬉しく思います」

「此度はハルに無理を言う。申し訳ない。皆もどうかハルを手助けしてやってほしい」

「はい、それはもう勿論でございます」


 そして、精霊王が話を始めた。

 概ね、ハルが夢で見た通りだった。ただ、その肝心の精霊樹の場所が分からない。

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