第7話 誰が行く?
「それはもう世界各地にあるのだ。精霊女王でさえ全ての精霊樹を把握できていない」
「たいへんら」
「その精霊女王がどこにいるのかも分からないんだ」
「え? 超ピンチじゃん!」
精霊女王も精霊樹を見回りに行っている内に戻って来られなくなっていた。どこかの精霊樹に行って戻れなくなっているらしいのだと精霊王が言った。
「それでは、何を頼りに探せば良いのでしょう?」
「ハルにアイテムを渡しておく」
精霊王が片手を出すと掌から光の玉がポウッと浮かんだ。それを精霊王がトンッと指で前へと押し出す。するとフワリフワリとハルの片手へと移動していく。
「お、なんら?」
ハルの手に留まり消えていく。
「ハルの手の甲に印をつけた。精霊樹が近くにあると反応するようになっている」
「おぉ~」
ハルが自分の手の甲をジッと見た。そこには、葉の模様で何かの紋章の様なものが浮かび出ていた。
「しゅげー」
ハルがエクボのあるプクプクな手の甲を皆に見せる。ちょっぴり自慢気だ。
「こ、これは……」
「長老、この模様は……」
「遺跡にあった模様と同じだ」
「ろっかで見たと思ったじょ」
「そして創造神の神使よ」
「はいなのれす」
「其方には精霊樹の実を預けよう」
精霊王がまた手を前にし掌を上に向けると、ポゥッポゥッと幾つものクリスタルのりんごが現れた。それを、コハルに向かってトンッと静かに押し出した。
「確かに預かるなのれす」
コハルが短い両手を広げると、そこに消えていく。不思議な光景だった。
「こはりゅ、どうなってんら?」
「あたちの亜空間に仕舞ったなのれす」
コハルも亜空間を持っていたのか!? それは初耳だ。
「どんぐりやクッキーと間違えたりゃだめらじょ」
「大丈夫なのれす」
おや、コハルは亜空間にどんぐりやクッキーを入れているらしい。可愛らしい。
「もう枯れている精霊樹を見つけたら代わりにそれを植えて欲しい」
「ん、分かったじょ」
「ハル、面倒を頼んですまんな」
「気にしゅんな」
「ふふふ、有難う。頼んだぞ」
そう言って精霊王は光と共に消えていった。
「かんじんの場所を教えてくんねー」
「ハル、それは探さないと無理なのだろうよ」
「じーちゃん、しょう?」
「ああ、そのようだ」
だが、何も手掛かり無しでどうやって探すんだ?
「よしッ! いくじょッ!!」
ハルが張り切って拳を上げる。お腹が少し出ている。ハルちゃん最近よくシュシュに乗っているから運動不足かもよ。
「ハル、後先考えずに探しても無駄だろう。取り敢えず、近場から探してみるか?」
「リヒト、なぜ近場なんだ?」
「本当、リヒトって相変わらず考えていないわね」
「アヴィー先生、ヒデーな!」
「ハッハッハッハ! しかしリヒト、あの話しを聞いて普通は違う場所を思いつくだろうよ」
「しょうらな」
「じゃあハルは分かんのか?」
「分かんねー」
「ほらみろ」
「ワシは取り敢えずアンスティノスじゃないかと思うんだが?」
「そうよね」
「え……」
「なんだよ、どうしてだよ」
「そりゃあそうだろう」
確かにそうだ。何故ならあの魔物出現の騒ぎで精霊樹が少なくなったという事なのだから。おや? ハルの反応が鈍いぞ。
「そうか?」
「やっぱりひと、頼んねー。ちょいおバカ?」
「ちょいって何だよ!」
リヒトはハイリョースエルフの皇族だ。しかも最強の5戦士の1人だ。なのに、いつも締まらない。前回、ハルがハイヒューマンの最後の生き残りであったスヴェルト・ロヴェークを助けに飛び出した時、リヒトは自分の身体でハルを守った。そこはとてもかっちょ良いんだ。
それほどリヒトもハルの事を大切に思っている。本当の弟の様にだ。だが、普段のリヒトがなんとも頼りない。
「りゅしかの方がたよりになりゅな」
などとハルに言われたりしている。そういうハルは、ハイリョースエルフとハイヒューマンのクォーターだ。ハルの両親は普通のヒューマンだった。だが、今のハルの身体にヒューマンの血は流れていないとコハルは言う。遺伝子もないのだそうだ。この世界に来る時に作り替えられてちびっ子になってしまった。その時にヒューマンの血統は削除されたのだろうという長老の予測だ。コハルが何も言わないところをみると、当たっているのだろう。
さて、ハルはもう行くつもりで張り切っているが。
「ハル、また皆で行くか?」
「じーちゃん、らいじょぶら」
「何がだ?」
「おりぇとシュシュとこはりゅで行くじょ」
「だからハル。それは無理だと話しておっただろう」
「こんろは、りゅしかの飯をたくしゃん無限収納に入れて行くじょ」
「ハル、そんな問題じゃねーだろう」
「らってりひとはべーしゅの仕事がありゅ。りゅしかが側でみてねーとしゅぐにサボりゅ。らから……」
「また代理を頼むさ」
「リヒト、お前行きたいんだろう」
「長老、俺はだな! ハルが心配で!」
「はいは~い! 今回は私が付いて行くわ」
「ばーちゃん」
「だってどうせアンスティノスがメインになりそうだもの。私がいないとね」
アヴィー先生も行く気だ。ハルとよく似ている。突っ走ってしまうところがそっくりだ。
確かに、アンスティノスといえばアヴィー先生だ。ハイリョースエルフなのに何十年もアンスティノス大公国に住んでいたという変わり者。
そこでアヴィー先生は何人の命を救った事だろう。本人は全く意識していないが。
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