第4話 城へ

「みんな、ちかりゃをかしてくりぇ」


 ハルが皆に、小さな身体でペコリと頭を下げた。


「ハルちゃん! 当たり前じゃない!」

「そうやでハルちゃん! 水臭いわ!」

「アハハハ!」

「シュシュとカエデはハルの親衛隊だものね」

「確かにそうですね」


 再度皆に、精霊王の話をしハルは手助けを頼んだ。長老が皇帝にお伺いを立てに行っている間に皆に話したんだ。

 そうだよ、ハルちゃん。最初からそうしていれば良かったんだ。何も1人で冒険に出る必要はない。ルシカの飯も食べられなくなるぞ。


「とにかく、長老を待つんでしょう?」

「みーりぇ、しょうなんら。ほんちょは早く行きてーんらけろな」

「ハル、仕方ありませんよ。あの場所は城の中ですからね」

「直接世界樹には近寄れないしな」

「ん。しゃーねー」

「けど、ハルちゃんひどいわ!」

「かえれ、何ら?」

「シュシュを連れて行って、なんで自分は連れて行ってくれへんかったんや?」

「らってかえれは裏で訓練してたし」

「え……?」

「なんら……??」

「ハルちゃん、それだけの理由なん?」

「しょうら」

「そんなん有り得へんわ!! 訓練よりハルちゃんやん!!」

「かえれ、ありがちょ」

「ハルちゃ~ん!!」


 カエデがハルに抱き着く。賑やかなネコ科だ。

 カエデはリヒト達が奴隷商から助け出し、ハル付きのメイドになった猫獣人だ。希少種の三毛で小さな猫獣人の村で人攫いにあい奴隷商で働かされていた。まだ10歳の女の子。自分も強くなってハルを守れる様になりたいと、イオスに剣や体術を教わっている。

 イオスはハイダークエルフで、本当はリヒトの実家であるシュテラリール家の執事見習いだ。だが、長く一緒に旅をしたこともあり、今は臨時だがハル付きの従者となっていてカエデの師匠だ。何気に万能で頼れる奴だ。

 カエデの方がシュシュより早くハルと知り合ったので少し妬いているらしい。


「ちょっと、カエデ。離れなさいよ」

「シュシュかってなんで言うてくれへんかったんや」

「急いでたのよ、仕方ないじゃない? やっぱね、肝心な時に頼りになるのはあたしなのよ」

「うぅわッ、何なんそれ!?」


 本当に賑やかなネコ科2頭だ。


「あたちがいるなのれす!」


 おぉっと、ネズミ目リス科のコハルが参戦だ。


「コハル先輩、やっぱあたし達2人よね!?」

「しゅしゅは便利なのれす」

「「え……!?」」

「コハル先輩、それどういう意味かしら?」

「シュシュは乗れるから便利なのれす」

「ヒドッ!!」

「アハハハ!!」


 イオスがさっきからずっと笑っている。ある意味1番動じていないのかも知れない。


「ああ、だから今朝起きた時にシュシュとコソコソしていたのね?」


 おや、ミーレは何かに気付いていたらしい。ミーレはエルフ種でリヒト付きの侍女だ。だが、ハルの面倒もみている。ハルを寝かしつけるのもミーレの右に出る者はいない。だが、ミーレは訓練が嫌いだ。料理もできない。


「シュシュと2人でコソコソ話しているから、また何か悪戯するのかと思っていたのよ」

「みーりぇ、おりぇはいたじゅらなんてしねー」

「あら、そうお?」

「ん、しねー」


 そう、ハルちゃんは真剣に1人で冒険に出るつもりだったんだ。先ずはエルヒューレに行って精霊王の話を聞こうとしていた。

 あっという間に捕まったけど。


「ハルちゃん、自分がおったら食事もおやつも作ってあげられるで」

「しょっか! かえれもちゅくれたんら!」

「な、ハルちゃん。次に冒険する時は自分も連れてってな」

「ん、わかっちゃ」


 いやいや、もう次はないぞ? そこに長老がやって来た。


「じーちゃん、どうらった!?」

「おう。行っても良いそうだ。だが、もう明日にしような。ハルは昼飯を食べたらお昼寝するだろう?」

「お昼寝はらいじ。むり。抵抗できねー」

「アハハハ」


 またイオスが笑っている。


「明日朝から迎えに来てやるさ」

「じーちゃん、ほんちょか?」

「ああ。急ぐんだろう? いくらユニコーンで飛んで行っても何日も掛かるからな。ワシが転移で連れて行ってやろう」

「じーちゃん、ありがちょ!」


 ハルにポフンと抱きつかれご満悦な長老。ね、ハルちゃん。最初から皆に話していれば良かったんだ。


 そして、翌日。約束通り長老はハルを迎えにやって来た。


「ハル、行くか?」

「ん、じーちゃん」

「長老、みんな準備はできてるぞ」

「え? リヒト達も行くのか?」

「え……?」


 長老が部屋を見回すと……

 いつものメンバー。リヒトにルシカ、イオス、ミーレ、カエデ、シュシュが既に行く気満々でスタンバイしている。


「皆で行ってどうする」

「え? そうか?」

「長老、しかし心配です。城に行くのでしょう?」

「城へ行くのに何が心配だ?」

「長老、城には彼がいます」

「あーあぁ……」

「ん? 誰がいりゅんら?」

「ほら、ハルのお友達よ」

「みーりぇ、おりぇ城におともらちなんて……あ」

「ね、いるでしょう? いつも元気なお友達が」


 城にいる『彼』さて、皆さんはもうお分かりだろうか?

 そう、『彼』の名はフィーリス・エルヒューレ。エルヒューレ皇国の第2皇子だ。ちょっと変わってはいるが天才肌だ。エルヒューレの街をつくったのも、国に入る為のパスを発明したのも彼だ。

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