第2話 世界樹の精霊、精霊王
ハルはこの世界にやってきた転生者だ。その時、3歳児になっている。が、前世は20歳の大学生だった。精霊眼というスキルを持っている。ちびっ子だが、魔力量も多く度胸や行動力もある。それが偶に暴走する時がある。
今回もそうらしい。そのハルが見た夢だ。
エルヒューレ皇国の中央にある世界樹の精霊、精霊王。その精霊王がハルの夢に出て来て頼み事をしてきたらしい。
「精霊女王を助けてやって欲しい」
そう精霊王が言ってきた。
「精霊女王って何だ?」
「リヒト、知らんのか?」
リヒトはハイリョースエルフで最強の5戦士の1人だ。鑑定眼を持つ。それに皇族だ。リヒトの父が現皇帝の弟にあたる。ブルーブロンドに煌めく長い髪に爽やかなブルーゴールドの瞳で眉目秀麗。なのにベースにいる時は、綺麗なストレートの髪を細かく編み込みポニーにして束ねていてドレッド風にしている。おしゃれなヘアバンド(紐)までしている。このお話ではカッコいい枠のはずなんだが、いつもどこか締まらない。
「長老は知ってんのか?」
「当然だろう。世界樹の袂に精霊樹があるだろう」
「そうなのか?」
「リヒト様……教わりましたよ」
おや、やはり少し残念なリヒトだ。
世界樹が余りにも圧倒的で大きいので忘れがちになっている様だが、確かに世界樹の袂に精霊樹がある。世界樹に寄り添うように生えている。その精霊が精霊女王だ。
「ほう、それで?」
「しょの、しぇいれいじょうおーをたしゅけてほしいってしぇいれいおーが言ってたかりゃ」
「あんだって?」
どうした、リヒト。またどこかのおじさんみたいになっている。
「リヒト様、精霊女王を助けて欲しいと精霊王が言っていたからという事ではないでしょうか?」
「しょう。やっぱりゅしかは、たよりになりゅな」
リヒトの執務室でルシカに果実水をもらいコップを両手で持ってコクコクと飲んでいるハル。足が床に届いていない。小さな足をプラプラとさせながら座っている。
ルシカはハイダークエルフでリヒトの従者だ。従者なのだが料理が得意だ。ハルも『ルシカの飯は1番美味い』とお気に入りだ。リヒトのサポート役なのだが、ハルのおかんポジでもある。
「ハルは可愛いのぉ」
長老は、ハルが何をしても何もしなくても可愛いらしい。ハルの隣に座って目尻が下がりまくりだ。
長老はハルの曽祖父でハイリョースエルフだ。その呼び名の通りエルフの国の中で1番の長生きだ。2500年以上生きている。魔道具製作や魔法に関する事は長老が1番秀でている。魔力量も1番多いらしい。長老はハルの持つ精霊眼の上位種、神眼というスキルを持っている。
さて、ハルの夢の話の続きだ。
その夢に出て来た精霊王が言うには、精霊樹は世界各地にあるらしい。だが、精霊樹はヒューマン族など魔力の少ない者達には見えない。ドワーフ族でも無理なのだそうだ。だから精霊樹があってもお構いなしで開発されてしまう。その為、世界に点在していた精霊樹の数が少なくなってしまった。
ほんの数本少なくなった程度なら影響はないそうだ。だが、魔物がヒューマンの国アンスティノス大公国で暴れた事もあり急激に精霊樹が倒されてしまった。その上、瘴気も濃くなった。
「あの事件の時か?」
「しょうら」
あの事件とは。ハイヒューマンの最後の生き残りであったスヴェルト・ロヴェークがハイヒューマンを絶滅に追いやられた事への復讐で魔石から魔物を出現させるという暴挙に出た。その時にアンスティノス大公国の貴族街が壊滅状態になったんだ。そこにも精霊樹が生えていた。ヒューマンの目には見えていないが、確かにそこにも生えていたんだ。
だが、見える筈のエルフのリヒト達でさえ気が付かなかった。何故なら、アンスティノス大公国には瘴気を浄化する魔石が設置されていなかった。その為、精霊樹に負担が掛かり元気な精霊樹は少なかった。そこにあの魔物騒ぎだ。タイミングが悪すぎた。
その影響で各地にある精霊樹まで元気がなくなってしまった。
このままだと、世界各地にある精霊樹が枯れてしまう。そうなると、精霊樹の精霊である精霊女王も消えてしまう。
それを、ハルに助けて欲しいと夢に出てきたそうだ。
「ハル、その世界各地にあるという精霊樹がどこにあるのか分かっているのか?」
「しりゃねー」
「ならどうすんだ?」
「じーちゃん、らから話を聞きにいこうと思って」
「なるほど、エルヒューレを目指していた訳か」
「しょうら。りゅしか、クッキーねーのか?」
「さっき朝食を食べたばかりでしょう?」
「ん、しょうらった。けろ、おりぇちょこっと冒険に出てたかりゃ、ちょっとらけクッキー食べよっかな」
「少しだけですよ?」
「ん」
ハルちゃん、クッキーはいいからね。冒険ってほどでもなかったし。本当、呑気だね。
それでもルシカはクッキーを取りに出て行った。ルシカもハルには甘い。
「しかし、世界樹に近寄るのはダメだ」
「じーちゃん、しょう言われりゅと思って」
「だから、黙って冒険か?」
「しょうら」
聞いていたリヒトが呆気に取られている。
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