51話 普通のおじさん、ホッとおじさん。

「これは、ここでいいんですか?」

「はい。木はその向きで。あくまでも侵入の邪魔をするだけですから」

「シガさん、これはどうしたらいいですか?」

「それは――」


 私は、町民たちに比較的安価な値段で傭兵として雇われることになった。

 この世界、タダより高いものはない。


 お互いに利益があるほうがいいだろう。

 

 ククリは飲みこみが早く、私が教えた方法で入口を塞いでいた。

 エヴァはまだ怪我人の世話をしている。


 2人とも優秀過ぎて言うことがないな。


「本当にいいんですか? 私たちは見ているだけなんて」

「任せてください。うまくやりますよ。ただし、例のアレ・・だけはお願いします」

「わ、わかりました。頑張ります!」


 村長さんが、申し訳なさそうに言った。

 できるだけヘイトは私たちに向けたほうがいい。


 人間の感情は分かりやすい。ゆえに誘導もできる。


 相手は傭兵だ。

 プライトで戦っているわけじゃない。


 なら、やるべきことは一つ。


 割に合わない仕事だと思わせればいいだけだ。


   ◇


 誰もが寝静まったであろう深夜。

 森の中で蠢く人影と殺意に気づく。


 私は、ククリとエヴァと屋根の上に隠れていた。


「シガ様の言う通りですね。どうして今夜来るとわかってたんですか?」

「確信があったわけじゃない。だが時間を掛けたくないとわかっていた」

「どうして?」


 エヴァが、私に尋ねる。


「私たちは遅れて村人たちを助けただろう。つまり、雇われているわけでないとわかったはずだ。そこで傭兵側に思考を傾ける。時間を掛けると仲間になるかもしれない。他に仲間が来るかもしれない。なら、早く仕事を終わらせよう、と」

「……流石シガ様ですね。元の世界で戦術を習っていたのですか?」

「そうだな。古いラノベとFPSでな」

「よくわからないけど、シガ、凄い!」


 そんな話をしていると、ついにアラーム・・・が響いた。


 ――ニャニャニャニャニャニャニァ。


   ◇


「な、なんだこの音は!?」

「お、おい静かにしろ!?」

「ク、クソ。うお、まぶしっ」


 闇夜から姿をあえて晒す。

 殺さない。殺さないが、ただでは帰さない。


「この村は私が守ることにした。悪いな」


 男たちが剣を取り出す。

 だが、後ろからとんでもなく光が一斉に放たれた。


 私は背にしているのでまぶしくないが、相手は違う。


 目を瞑ってしまい、ただのカモだ。


「さて、お休みの時間だ」


 その後、男たちの鈍い悲鳴が木霊した。


 村まで戻ると、ククリとエヴァが走って来る。


「シガ様、大丈夫ですか?」

「無傷だ。10人ほどの足の骨を折ってきた。今頃必死に逃げているだろう」

「シガの言っていた通り、音凄い」

「だろう。さすが、防犯・・用だ」


 Nyaamzonブランドオリジナル、猫アラーム。

 税込み1980円。

 森の中に侵入者感知のアラームを設置していた。


 そして、村長たちが『超強力懐中電灯』を手に歩みよってきた。


「す、すごいですこの魔法具」


 魔法具ではないが、説明が大変なのでそうしておこう。

 ちなみに電池が別売りだったので、ちょっとだけ、ちょっとだけだが久しぶりに思う所があった。できればお試しでいいので同封してほしかった。


 あるあるではあるが。


「今日だけではありません。きっと明日も来るでしょう。ですが、2-3日です。再び頑張りましょう」

「は、はい!」


 それから私の予想通り、翌日も傭兵たちは夜中にやってきた。

 ニャブザーが鳴ったら村長たちが懐中電灯で照らす。眩しい上に姿が丸見えだ。


 明るい時間に来ないのは、村人たち以外の傭兵、つまり私に姿を現すのを躊躇しているのだろう。


 だが三日後、ようやく傭兵たちは鳴りを潜めた。

 いや、割に合わないとわかったのだ。


「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

「いえ、これからですよ。ククリ、エヴァ、二日ほど村を開ける。大丈夫だとは思うが、もし奴らが来た場合、私の役目をしてもらうことになる。――頼んだぞ」

「もちろんです。シガ様ほどうまくはできませんが、必ず遂行しますよ」

「私も、がんばる」


 傭兵の心を折った後、あらかじめ当たりをつけていた傭兵たちのアジトまでたどり着いた。

 そのうちの一人に狙いを付け、後をつける。


 すると、北側の国に辿り着いたのだ。

 それを見届けた後、私は更に南側の国まで向かった。


 手土産に『サケ』を持って。


 南側の国で話しはスムーズだった。

 傭兵を倒す際に情報を少しずつ得ていたのだ。


 名前、服装、持ち物をくすねていた。


 『サケ』の卸先である『王家』側の人の商人と相談し、『中立』であることをそのままに護衛を回してもらうことになった。


 村人が困っていたのは、どちら側が『敵』なのか把握できなかったことだ。

 だがこれで確定、護衛を連れて私は再び村へ戻った。


 計算違いだったのは、一度だけ傭兵たちが来たらしい。


 だが、ククリがまさに私の代わりをして、大勢を相手に立ち回ったそうだ。

 強くなっていることはわかっていたが、随分と頑張ったらしく、エヴァが治癒もしたらしい。


「よくやったククリ、そしてエヴァもだ。ありがとう」

「えへへ、嬉しいです。任されたので、頑張りました」

「いつも頼ってばかりだから、できて良かった」


 こうして私たちは、初の傭兵としての仕事を終えた。

 

 帰りには手土産で『サケ』をもらうこともできた。


「ありがとうございました。シガさん」

「とんでもない。こちらこそ良かったです。しかしこんなに大量に頂いて良いのですか?」

「はい。どうぞどうぞ」


 そして私たちは、交渉で護衛を回してもらった北側の国へ行くことにした。

 走って数日、歩いたら三日ほどでのんびりで着く。


 交渉しかしていないので、国のことまだ何もわからないが、人がよさそうだった。


 先にちょっとだけ知っているので、ククリとエヴァに得意げに話すこともできて、おじさん心もくすぐられそうだ。


「しかし、『サケ』が楽しみだ。今夜のおかずは何にしようか……」

「私の飲みたいです! どんな味なんですか?」

「私も」

「ダメだダメだ。これは、大人・・しか飲んではいけないんだ」

 

 私のは、『サケ』ならぬ『酒』を手にしていた。

 いつもの感じなら、全然違う『サケ』でガッカリパターンかと思っていたが、まさかの地酒を作っていたのだ。


 一升瓶ならぬ、一升木筒をもらった。


 だが、二人は残念そうだった。

『鮭』であれば大好きなおにぎりも食べれただろうに……。


 ――そうか。


「よし。今日はダブルサケでいこう」

「え、ダブルサケエッグベネディクト?」

「どんな聞き間違いだ……」

「ダブサケ!」


 その夜、私たちは野営しながら胃に温かいものを入れていた。


 それは『鮭』茶漬けだ。


 少々値はしたが、Nyamazonで『鮭』ほぐしを購入した。

 もちろん私は『酒』のお供に。


「シガ様、これ凄くホッとします! なんというか、体調が悪い時に幸せになりそうな感じです!」

「先見性がありすぎる言葉だな。だが、その通りだ」

「ホッとする味」


 二人の語彙力には日々驚かされるばかりだ。


 身も心も温まる、そんな夜になった。


  ――――――――――――――――


 このたび新連載を始めました。

 異世界ガイドマップというスキルを得た主人公が、クチコミや様々なスキルで旅をするお話です。

 今までの培った面白い部分が出すことができたらなと思います。


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退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたりする話 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei

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