51話 普通のおじさん、ハロウィンおじさん
前回までの簡単なあらすじ。
次なる国を目指し、北へ向かうシガ、ククリ、エヴァ。
護衛任務で頂いた地図を確認しながら山道を歩いていた。
――――――――
異世界の旅で気づいたことがある。
それは暗いことだ。
日本にいたときは街灯があったし、よっぽどの田舎でなければ暗闇を歩くことはなかった。
だが今いる場所は違う。真の暗闇を味わうことが多い。
といっても――。
「シガ様、このライト凄いです! なんていうか、バッチバチに明るいですね!」
「シガ、これ明るい」
「そうだろう。なんたってNyamazonハロウィンキャンペーン、暗闇なんて怖くない! 懐中電灯 2000000ルーメンだからな」
二人は、俺が買ってあげたヘルメット型懐中電灯を装着していた。
工事現場や洞窟で業者が使っているようなアレだ。
今いる場所は山道で、周囲から何かが飛び出してきそうな雰囲気がある。
「これが 2000000ルーメンなんですね。凄い」
「 2000000ルーメン」
「そうだ。これが 2000000ルーメンの力だ」
二人とも何を言っているのかわかっていないだろう。
だがそれでも目の前の開けた視界には驚いている。
ちなみに俺もわかっていない。
ルーメンとはなんだ? ラーメンのが美味しそうだぞ。
「――敵だ」
そのとき、魔物の気配を感じた。
気配察知は夜だと鈍る。理由はわからないが、五感も大事なのだろう。
右奥、現れたのは骸骨だった。
「シガ様っ!」
次の瞬間、ククリが前に出て一撃で魔物の首を落とす。
ライトに照らされた金髪を揺らしながら振り返った。
「どうされたのですか? 身体が、固まったかのように見えましたが」
「な、何でもない」
俺はなんでもないような声と顔をした。
すると手に何かが当たる。
「ひゃっぁっ!?」
「シガ、震えてる。どうしたの」
「な、何でもないぞ何でもない」
「シガ様、どうしたのですか」
今度は反対手の手にククリが手を触れた。
思わず悲鳴を上げてしまう。
二人は眉をひそめていた。暗闇でもしっかり見える、疑いの目。
さすが2000000ルーメン。
いや、それより……。
「シガ様、もしかして」
「な、なんだ」
「……怖がりなのですか?」
シガ――いや、俺に戦慄走る。
「シガ、怖いの?」
「な、なにがだ。何の話だ。何を言っているんだ。怖いとはなんだ? 2000000ルーメンだぞ」
自分でも訳の分からないことを言っているのはわかっている。
だが言葉が紡ぐことができないのだ。
そう、既に二人は気づいているだろう。
かくいう私は怖がりなのである。
今までは暗闇すぎたのと気を張っていたおかげで大丈夫だった。
しかし2000000ルーメンを手に入れたことで視界が変にハッキリしてしまったこと、アンデットモンスターという存在を知ってしまい、それが日本のお化けに似ていることが原因だった。
もちろん身体は動く。怯えても戦闘は問題ないだろう。
さっきはククリに遅れを取ってしまったが、次に現れたらすぐに対処できる。
だがしかし、しかしだ。
怖いものは怖い。
「シガ様、大丈夫ですよ。私たちがいますから。――ほら、こんなに明るいですから」
するとククリが自分にライトを当てた。
それはまさにホラーを強調させるような光の当て方で、暗闇の中にボォっと彼女の顔だけが映し出されてしまう。
ひゃっぁっぃやあん! と声を上げそうになるも押し殺す。おじさん、見栄だけは強いのだ。
だが――。
「シガ、私もここにいるから」
続いてエヴァが同じように顔を照らした。二人の顔が映し出されてしまい、俺は思わずしゃがみ込んだ。
「……怖い。夜怖い。アンデットモンスター怖い」
「シガ様!? 大丈夫ですよ!? どうしたのですか!?」
「シガ、崩壊」
だが認めてしまえば少し気が楽になった。
ククリはこの山道だけは先頭で歩いてくれて、エヴァは俺の服の袖を掴んでくれている。
これが、仲間。
ありがたき幸せ。
「シガ様、何かあったら何でも言ってくださいね。誰だって苦手なものはあるんです恥ずかしいことではありません」
「私も怖いものいっぱいある」
二人は本当に優しい。でもやっぱり恥ずかしい。
しかし山道は険しくなっていき、ここらで一夜を過ごそうとなった。
空間魔法からテントを取り出してセッティングする。
簡易的なものなのと流石に手慣れているのでばっちりだ。
毛布を引いて、ライトを置いて、夜食にインスタントラーメンを解禁した。
それもシーフードだ。
「シガ様、美味しすぎますよ。これ……」
「たまらない味してる。もう一杯」
「夜食は太るからまた明日だ。でも、気に入ってもらえてよかったよ」
そのまま就寝――にしようと思ったのだが、いつもより少し早い。
体内時計は合わせておきたいと思っていたのだが、俺はふと思い出す。
「……目には目を、ホラーにはホラーか」
「シガ様? どうしたのですか?」
「いや、このまま二人に迷惑をかけ続けたくない。闇夜の旅は、今日だけじゃないからな」
そうして私は久しぶりに高い買い物をした。
『お買い上げ、ありがとニャーン!』
「シガ、これなに? ゲーム!?」
「違う違う。これはプロジェクターのだよ」
「プロジェクター? それは何ですか?」
「いい質問だ。13日の金曜日か夢の中の悪魔、どっちがいい?」
「「え?」」
◇
深夜のテント内。
そこは――ホラーだった。
「ひ、ひ、ひ、ひ」
「シガ様、良いところですよ! 怖いお面をつけたジェイマンが、チェンソーでビュイイインするところです! これは本当に怖いですね……」
「なかなか刺激的」
テント内、簡易的なプロジェクターを購入(Nyamazonハロウィンキャンペーン)し、映画上映をしていた。
さすが二人は異世界の住人、ホラーなんてまったく怖くないらしい。
作りものというのも伝えたが、実際にこういうのあるよね、と言い合いっていた。
こ、こわい。
しかし二人の様子を見ていると少しだけ和んできた。
この世界にホラーはない。いるのは魔物だけだ。
頭を切り替えれば問題ないはず。
「シガ様、クライマックスみないんですか!?」
「いや、これはやっぱりホラーのほうなので……」
「凄い。夢の中の悪魔、強い」
翌日の夜、ホラーを見たおかげでアンデットモンスターは怖くないとなり、無事に撃退した。
だがその夜、二人はまたウキウキしていた。
「シガ様、このテレビの中から白装束の女性が出てくるやつ気になります!」
「私はこのピエロが襲ってくるやつ」
「なあ、人がいないとおもちゃが動くやつにしておかないか? どうだ?」
その夜、二人を騙す事に成功した私は、無事に笑顔で眠ることができた。
やっぱり、トイ・ストーリーは最高だ。
「シガ様、次はこのおもちゃが動くやつにしましょう!」
ククリ、似て非になるものはダメです。
それはチャッキーですぞ。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたりする話 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei
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