50話 普通のおじさん、護衛おじさん

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「気にしないでください。――エヴァ、怪我を診てあげてくれ」


 結局私は、多くの兵士を叩き潰した。

 だがその圧倒的な力を見せつけたおかげで、兵士たちは蜘蛛の子を散らすがごとく去っていったのだ。


 とはいえ、理由もわからず手助けをした。


 いや……違う。どんな理由があっても、幼い子供に手をかけるなんてあってはならないことだ。


 それがたとえ異世界の常識だとしても、私だけは正常でいるべきだろう。


「シガ様、村長さんから話を聞かせてもらうことになりました」

「ああ、エヴァ、頼んでいいか?」

「わかった」


 町は未だに怪我人が多い。だが死人はいないみたいでホッとした。


 すべてをエヴァに任せるわけではないが、まずは話を聞きに急いだ。


 村長さんは、温和そうな腰の低い白髪のおじいさんだった。


 まずはお礼をと言ってきたが、それよりも私は、なぜ襲われていたのか、そして彼ら兵士は誰なのかを尋ねた。


「彼らは厳密にいうと兵士ではないんです。――傭兵なんです」

「傭兵、ですか?」


 傭兵とは、お金をもらって戦う兵団のことだ。

 そう思うと、確かに彼らの言葉は洗練されている感じではなかった。


 創作物では盗賊上がりもいると聞いたことがある。


「この町を襲っている理由は私たちにもわかりませんが、なんとなくわかっています。おそらく、この土地を狙っているのです」

「土地? 何か特別なものがあるのですか?」

「この町は、東国と西国の間にあるんです。私たちは昔から中立ということでどちらにも属していないのですが、昔から特産物の『サケ』を両国に卸しているんです」


 その言葉で、私は気づく。

 中立であれば手は出せない。だが傭兵は金で動く。

 つまりどちらかの国が『サケ』を独占したがっている。


 自軍を動かすことができず、秘密裏に遂行がしたい、それで傭兵、か。


「なるほど、つまり両国のどちらかが雇っている可能性が高いのですね」

「その通りです。戦闘だけじゃなく、頭も良いのですね」

「それほどでもありませんが、少しはあります」

「シガ様、真面目に」

「一応本気だが……」


 だが冗談と思われても仕方がなかった。

 おじさんは言葉選びが下手なのだ。すまない。


 しかし逆にホッとした。とどのつまり雇い主は明かせないということだ。


 それならば、私たちに矛先が向かう事は考えづらい。


「彼らは今まで何度か来ていたのですが、今回は本気でした。私たちも対抗したのですが、シガさんがいなければと思うと、ゾッとします」

「とんでもない。差し出がましい真似をしたと思い、私も焦っていましたから」


 しかし解決しているわけじゃない。

 とはいえ、手を出したのなら最後までやるのが私の性格だ。


 町に非はない。何か良い手が――そうか。


 私たちの仕事を忘れていた。


 それにこの世界、善意で動くだけでは生きていけない。


「村長さん、一つ提案があります」

「提案?」

「はい、私たちを雇いませんか?・・・・・・・


 冒険者として任務を受ければいい。

 素性を明かせない相手の事情を逆手に取る。


 後、『サケ』についても聞かねば……。


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