47話 普通のおじさん、縁日おじさん。
「いやはや、とんでもないことをした気がするな……」
「でも、皆さん喜んでいるみたいです! 特に子供さんたち、嬉しそうですし!」
「シガ、ばんばんっ!」
エヴァが、手にもった
といっても、威力が大したことはないのでダメージはない。
それより、なんでその効果音を知ってるんだ……。
街に目を向けると、ストラストの子供たちは同じ小さな水鉄砲を持っていた。
これは、私が
Nyamazonで縁日セールをしていたのでまとめ買いをしたのだが、思いのほか売れ行きがいいらしい。
これに関しては貴族ではなく、街の商人にまとめて下ろした。
それなりのお金にはなかったが、この流行り方だと、全部売れたのだろう。
だが耐久性に少し難があるだろうし、壊れてしまうと使えなくなるのは少し可哀想だな。
そしてその時、商人と雑談していたのだが、お祭りというものの文化を伝えたところ、凄く楽しそうと喜んでくれた。
それからストラスト民たちはなぜか乗り気になって、今まさに世は――大縁日時代に突入していた。
「水串肉だよー!」
「こっちは肉水まんじゅうだよ!」
「水鉄砲、まだあるよー」
私が色々と教えたのもあるが、住民たちはしっかりと聞いて屋台を横に並べてまさに縁日みたいになっていた。
どうせならと私も縁日をしてほしくなったので、ポイを大量購入し、商人に販売。
小さな魚はこのストラストに多くいるので、やり方さえ伝えればすぐに用意してくれた。
「よおシガさん! あんたのおかげで大盛況だよ。それにこのポイ、すげえいいな! ――破れやすくてな」
「はは、ははは」
商売上手なのは困るが、まあ造りが造りなので仕方ないだろう。
しかし私は旅人だ。いつまでもここにいないと言ったら、いつか自分でポイを作るといっていた。
商売人の根性は見習うものがある。
「ねえシガ、わたしもやりたい」
「おお、そうかエヴァ。ククリもしてみるか?」
「え、いいんですか?」
気づけば子供たちが大勢集まっていた。
片手にはポイ、長方形の桶の中には、小さな魚が沢山。
魚を入れる袋はなかったので、みんな小さな桶を持っている。
持ち運びに苦労するだろうが、元々水の都で釣りも流行っているので、特に気にしている様子はない。
それどころか、みんな関心していた。
もしかすると、この文化はこの街で流行るかもしれないな。
おっと、それより――。
「すみません、ポイを二ついただけますか?」
「お金なんていらないよ。ほら嬢ちゃんたち、楽しんでな」
そういって、屋台のおじさん、もとい商人のおじさんが、ククリとエヴァにポイを手渡す。
「ちゃんと、
「ありがとうございます」
五号は破れにくく、六号は破れやすい。
一応伝えたのだが、順応性が高すぎる。
まあでもありがたい。
ククリとエヴァは子供たちにまじってしゃがみ込み、魚をジッと観察しはじめる。
二人とも目がとても良い。
動きを予測しているのだろう。
そして二人はそれぞれ小魚に狙いを付けて、ポイで掬う。
見事に、同時にゲットした。
「やりましたよ、シガ様!」
「おお、凄いな。エヴァも天才か?」
「えへへ、楽しい」
ぴちぴちと泳ぐ小魚を油で揚げると、酒のツマミに良さそうだ。
あれ? 子供の中におじさんが混じっているかもしれない。
「シガ様、やりました!」
「いいじゃないか」
「シガ、また釣れた」
「凄いなエヴァ」
だが二人のポイは一向に破れる気配がない。
見たところ魔力を流している様子もない。
商人のおじさんは、ついにヒヤヒヤしはじめた。初めは笑顔だったのに、今は「やぶれろ……」とつぶやいているように見える。
まあ彼からすれば商売なのだから当然だろう。
そういえば、どれだけ釣っても二匹まで、という最強の文言を伝えるのを忘れていた。
二人のような
ついには小魚を全部釣りそうになったが、流石にポイの限界を超えて、二人同時に破れてしまう。
だがとても嬉しそうだった。
「えへへ、壊れちゃいました」
「わたしも、でも、楽しかった」
「良かったな。いっぱいじゃないか」
軽い桶に移してもらったが、40匹はいそうだった。
おじさんは、「ええと、ええと」と言っていたが、私は「ありがとうございました」と伝えた。
お礼は大事だ。うん、お礼は大事。
それから屋台を回って色々と食べ歩きをした。桶は少し邪魔だったので長居はしなかったが、とても楽しかった。
そしてその夜、私たちは水の都、ストラストを
思いのほか長居してしまった。他にも国を見てみたいのだ。
それに、お金も十分に溜まった。
半日ほど歩き、近くで野営をする。
随分と久しぶりだが、なぜだかこの世界に来たときのようにワクワクした。
まあそれには理由があるが。
「シガ、これはなに?」
「これは油だ。下がってなさい」
私は少し奮発した。
鍋と油を購入し、焚火で熱する。
そこに、既に下準備を終えた小魚を投入させた。
油がパチパチとなり、カラっと上がると皿に移す。
塩とマヨはお好みだ。
「すごい、こんなの初めて見ました」
「食べてみてくれ、きっとハマるぞ」
ククリは塩で一口、マヨで二口、本当に嬉しそうだった。
もちろん、エヴァもだ。
「美味しすぎます! 何ですかこれ!?」
「天ぷらだよ。火の扱いにも慣れてきたからな。そろそろ食べたいと思ったんだ」
「シガ、わたしこれ好き」
「ははっ、そういってもらえると私も良かったよ。どれ、一口」
小魚の天ぷらを塩で口に放り込んだ後、ビールで流し込む。
久しぶりの贅沢だ。
……美味しい。
「幸せだな」
「はい、幸せです!」
「シガ、もっと食べたい」
「ああ、すぐに揚げるよ」
旅の食事ってのは、やっぱりいいものだな。
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