48話 普通のおじさん、グルメおじさん。

「シガ様……これは、そんな危険な食べ物なんですか?」

「ああ、ククリ、エヴァ、離れてなさい」

 

 私たちは野営を繰り返しながら、次の国へ向かっていた。

 最初に比べると旅も慣れたものだ。


 魔物を倒し、Nyamazonに換金しながら食事も楽しむ。


 そして今はお昼。


 私は、元気にはじけ飛ぶおやつを作ろうとしていた。

 

 まずは熱したフライパンの上にバターを乗せる。

 いい具合溶けてきたら、コーン・・・を投入。


 ジリジリと熱されたコーンがやがて――


 ――ポンッ! ポンッ! ポンッ!


「シガ様、凄いです。これがプップコーンですか!?」

「ああ、これがポップコーンだ」

「凄いコーンでポップなコーンしてる」


 そう、ポップコーンだ。

 幼い頃は、はじけ飛ぶのが怖かったが、ちゃんと蓋をつけているので問題はない。


 まあ少し腰が引けているが、バレてはいないみたいだ。


「シガ様、腰が……」

「いや、これが正しいスタイルだ」

「そ、そうなんですね! コーンポップって、奥が深いですね」


 そして異世界人にポップコーンは覚えづらいのか、いやそれともエルフの言葉では難しいのか、何度言ってもポップコーンとは返してくれない。

 まあ私も面白くて適当に答えているが。


「ペップコーンおいしそう」

「エヴァちゃん、コーンパック食べながら一緒にゲームする?」

「する!」


 私は寛容だ。色々なことに対してそこまで強く言うことはない。

 だが私は、たまらず制止する。


「ダメだ。塩とゲームは相性が悪い」

「え、そうなんですか?」

「ああ、ベタベタするからな。これは常識なんだ」

「ベタベタ……常識……」


 完成すると蓋を取って、塩を振る。

 最後は紙で出来た長方形の箱に入れていく。わざわざ購入しておいたのだ。

 もちろん三つ用意している。


「なんか変わった器ですね?」

「ああ、これが正式なスタイルだ」


 これで映画でもあれば完璧だ。

 一応頑張れば見ることもできるが、あまり現代のものにハマるのも良くないだろう。


 シリーズものの人気アニメを再生しようものなら、どうなるのかは安易に想像がつく。

 

 二人に出来上がりのポップコーンを手渡すと、凄く不思議そうな顔をしていた。


 確かに見た目は凄くめずらしいかもしれない。そもそも真っ白い食べ物なんて見たことがない。

 私が異世界人なら、ちょっと不安になるか。


「これはどうやって食べるんですか?」

「そのまま口に入れるだけだ。――ほらこんな風に」


 私は、二人の前でポップコーンを投げ食べる。

 少し塩がきついか? いや、ちょうどいいか。

 

 バターの香りがほのかに残ってとても美味しい。


 二人は見様見真似でおそるおそる口に放り込むと、すぐ笑顔になった。


「プップペン美味しいです、シガ様!」

「はは、だろうだろう」

「私もプッペパーン好き」

「ポップコーンな」


 それから何度か歯の隙間にはさまって取れないというあるあるをしながら、三時のおやつを終えた。

 ちなみにククリは、鮭おにぎりの具に入れたいと言っていた。よくわからないが、とりあえずやめといたほうがいいとは伝えておいた。


 食べ終えると旅の続きだ。小さな森を超える事は多い。

 魔物もそれなりにいるので、警戒は怠らない。

 

 今日は、ゴブリンの群れに遭遇した。


「ククリ、エヴァのそばで戦ってくれ。私は――ボスを倒す」

「はい!」


 何度か戦ったことがあるが、群れでは大体デカい奴がいる。

 

 おそらくネームド、と呼ばれる種類の類だろう。

 サイクロプスの時と同じだ。


 魔力が強いのか、こん棒をぶんっと振り回すと風を切る豪快な音が響く。


 だが――遅い。

 無駄のない動きで回避すると、がら空きの心臓を一突き。


「ギガァアッア――……」

「よし――そっちは――」


 後ろを振り返ると、二人は全員を倒していた。

 返り血を浴びながらも、無傷のようだ。


「問題なしです」

「こっちも!」


 まったく、優秀すぎていうことがない。




『計算中、計算中、――3800円にゃあ』


「おお、凄いな。最近で一番高いゴブリンボスだ」

「当たりですね! これで鮭おにぎりが沢山買えますね!」

「チョコレート、ポテチ、ゲームソフト、ペップカーン!」


 どうやら私は甘やかせすぎたらしい。

 なのでエヴァを現代っ子にさせすぎないように、自炊をすることにした。


 不満そうだったが、聞き分けは良い。


「まずは卵を割ってくれるか、ククリ、エヴァ」

「はい! エヴァちゃんできる?」

「大丈夫、得意」


 得意は絶対嘘だが、でも確かに上手だった。

 ちなみに卵は売っていないので事前に購入して収納魔法で取っておいたものだ。


「じゃあ、この鶏肉と絡めていこうか」


 肉は鶏を見つけたのでそれをあらかじめ捌いていた。


 醤油、塩、ショウガ、ニンニク、酒(なくても良し)を適量入れたものをボウルに入れている。

 卵を混ぜ合わせて、小麦粉をちょんちょんと付ける。

 最後に油でカラっと揚げれば完成だが――。


「二人とも、油が跳ねるから気を付けるんだぞ」

「え、油って空を飛ぶんですか?」

「いや、天ぷらの時も言ったような……」

「冗談ですよ、シガ様、私たちも成長しています!」

「本当かな……」


 鶏肉が入ると、パチパチと音が鳴る。

 食欲のそそる音だ。


 今日は唐揚げ・・・だ。


「味は天ぷらのような感じですか?」

「似ているがちょっと違うな。多分、二人はこっちのほうが好きだと思うぞ」

「楽しみ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるエヴァ。うむ、かわいい。


 きつね色になったらトレーに乗せていく。

 油を切ると、出来上がりだ。


 そしてもちろん、それだけじゃない。


「シガ様、なんか音がでていますよ!?」


 ククリが、焚火にかけていた飯盒・・に驚いていた。

 前にも食べたが、あの時は完成しかみていなかったからだ。


「はじめチョロチョロ 中パッパ ジワジワ時に火をひいて 赤子泣いても蓋とるな、だ」

「え、赤子!? 赤子がいるんですか?」

「たとえだ、たとえ」

「怖いたとえですね……」


 中を開けると、ミネラルウォーターで作った米が、焚火でいい感じに出来上がっていた。

 それを見たククリが、口を手で覆って涙を流す。


「すごい、まるで米が宝石のようです。――この中に鮭は、鮭はいませんか!?」


 いつもエヴァとククリの謎の語彙力には驚かされる。

 二人とももしかして異世界転移してきたのではなかろうか。

 そして私をからかっているのかと錯覚するときあがる。


「面白いが、とりあえず今日は鮭なしだ」

「ええ!?」


 とても残念そうだったが、出来上がりの唐揚げと白米を口に入れた途端、すぐ笑顔になった。


「お、おいしすぎます!」

「ははっ、そうだろう。唐揚げおにぎりはあんまり見たことはないが、抜群に合うんだ。マヨもつけてみなさい」

「シガ、凄い美味しい。でもちょっと熱い」

「ふーふーして食べるんだ」


 それから私たちは、たっぷり唐揚げを堪能した。

 しかしククリは少しだけ悲し気だった。こんなおいしそうな白米と鮭を食べたら、と想像していたのだろう。


 だが私はやはり甘い。


 ドンッと、瓶を手渡す。


「これは……!?」

「鮭フレークだ」

「しゃ、鮭フレーク!?」


 こんなこともあろうかと、用意していた。

 ククリとエヴァは白米に乗せて食べると、また新たな笑顔を浮かべる。


 ククリに至っては、ヒト瓶全部を食べかねない勢いだった。

 さすがに塩分がやばそうなので止めたが。


 全てを平らげた後、いつものように片付けをする。

 鮭フレークを収納するとき、ククリは涙を流していた。


 魔物がいないのを確認し、テントを広げて、私たちは眠る準備をした。


 だがそのとき、満天の星に気づく。


「凄いな、綺麗だ」

「そうですね、あ――リガリア!」

「リガリア?」

「流れ星ですよ!」


 なるほど、ここでもあるのか。

 だが願いごとをいう習慣はなかったらしく、私はその文化? を教えた。

 すると二人は、ずっと空を眺めていた。


「もう寝るぞ」

「もう少しだけお願いします!」

「絶対、見つける」


 二人の意思に根負けして、結局、寝袋にくるまりながら、外に寝ることになった。

 もちろん、空を見上げたままで。


「来ないな」

「はい……」

「こない……」


 それから数十分、三十分、二人はずっと待っていた。

 

 そしてその時、ついに空が光る。


 私はすぐに願いごとを言った。

 すぐに二人に声を掛けると、聞こえてきたのは寝息だった。


「――おやすみ、ククリ、エヴァ」


 願いごとはもちろん、この三人でずっと一緒に旅をしたい――だ。


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