45話 普通のおじさん、中二病おじさん。

「シガさん、六等級、ククリさん、六等級、エヴァさんが九等級になりました」


 海賊みたいな連中を倒した数日後、私たちは冒険者ギルドの更新にきていた。

 依頼の達成数と貢献度によって等級が上がっていくのだ。


 まだ低級なので特に何かあるわけでもないが、三等級からは試験というものがあるらしい。


「ありがとうございます。良かったな、エヴァ」

「うんっ! これで立派な冒険者」

「ふふふ、そうだね」


 エヴァも初任務を終えて、満面の笑みだった。


 私たちの会話を微笑ましく見ていた受付のお姉さんが、ああっと声を上げる。

 ちなみに犬耳だ。ちなみにお顔も綺麗だ。


「一つ忘れていましたっ! すみません、六等級からはクランの作成が可能となります!」

「クラン……ですか?」

「はい! パーティと違って、クランは冒険者さんたちが作る組織となります。別途登録料は必要ですが、共有の倉庫が使えるようになるのと、他国へ行ったときに冒険者間での送金などが便利になります!」


 と、言われたのだが、私には空間魔法がある。

 すべてを収容できてしまうので、必要がない。


「ええと、後は何がありますか?」

「情報共有ですね。特別な魔法の連絡網がありますので、他国のクラン員にメッセージを送ることができます!」


 と、言われたのだが、今のところ必要はない。

 私とククリ、エヴァは常に一緒だからだ。


 組織を大きくする必要もない。


 ククリと顔を見合わせたが、特に必要ないですねえ、という表情を浮かべていた。

 登録料もそんなに安くはなかった。


 なおさら必要がない。


 しかし――。


「……今なんと?」

「え?」

「今、なんとおっしゃいましたか?」


 とんでもないことを聞いた気がする。

 気のせいでなければ、とても重要なことだ。


「ええと、クランに名前を付けることができます」

「名前を……自分で付けれるんですか?」

「ええ、はい」

「作ります」

「……え?」

「クラン、作ります」


 私の180度違うテンションと意見に、犬耳がピンとなってお姉さんが驚く。

 だがその瞬間、ククリに腕を引っ張られる。


「し、シガ様!? どうしたんですか!?」

「いや、必要だと思ったのだ」

「ええ!? でも、登録料、そんな安くないですよ? それにまだ『るあぁ』のお金も入ってないですよね!?」


 ククリの至極当然のアドバイスに、私は――ため息を漏らす。

 そして首を横に振る。


 エヴァはもう疲れたのか、近くの椅子に座って足をプラプラさせていた。


「クランに名前を付けるのは、男の夢なんだククリ」

「え? どう意味ですか?」

「例えばだが『†漆黒の堕天使†』は、どう思う?」

「しっこくのだてんしですか? なんだか、凄いネーミングだなって思いますが……その十字架みたいなのはなんですか?」

「十字架に意味はない。カッコイイ・・・・・だろう?」

「カッコイイ……ですかね?」

「†光の戦士†、でもいいな」

「は、はあ……シガ様?」


 ククリは呆れているというか、よくわからないみたいだ。

 しかしこればかりは譲れない。


 エヴァに聞いてみたが、「何でもいいよー」と言われてしまった。


 そして私は、どんなクランがあるのか、お姉さんに参考までに尋ねてみた。


「そうですね。勇者の軌跡、だったり、栄光の架橋、暁の英雄伝、などですかね」

「……す、すばらしい……」

「え?」


 私は思い出していた。

 中学生の頃にビッシリとノートに書いた格好いい名前の羅列を。


 黒歴史だと思っていたが、もしかするとこの時の為にあったのかもしれない。


 けれども随分と昔なこともあって、なかなか思い出せない。


 ものすごく格好いいのがあった気がするのだが……。


「シガ様、とりあえず考え直しませんか?」

「すまないククリ、今日ばかりは私の意思は固いのだ」


 ククリに何度言われても、私は顔を縦に振らなかった。

 今回だけは頑固おじさんだ。


 そしてエヴァは「ゲームしたいなー」と言い始める。

 こうなると時間はあまりかけられない。だが、妥協はできない。


 それに私は後日にしたくないおじさんだ。


 決めたい、今日決めたい。


 それからもうんうんと唸り、なんと気づけば日が落ちていた。


「あ、あのぅ、もう後日にしませんか?」


 お姉さんがついに痺れを切らす。

 ククリとエヴァはテーブルでコーラを飲んでいた。


 そのとき、私の脳内に電流走る。


「思 い 出 し た」


 ――――

 ――

 ―


「ありがとうございます。この魚があればお母さんが喜びます」


 翌日、クランの申請を済ませた私たちは、新しい任務を完了させていた。

 魔物が多く目撃されている海の近く、数時間の釣りをして目的の魚を捕まえたのだ。


 ブルーギルみたいな見た目で青々しいが、味は凄く美味らしい。


 それよりも――。


「それじゃあ、行きましょうかシガ様。――シガ様どうしたんですか?」


 大事なことだ。

 今日、この瞬間の為に生きていたといっても過言ではない。


 私は、依頼者にサムズアップする。


「いえ、これからも私たち、黄昏トワイライト黙示録アポカリプス創世記ジェネシス竜騎兵ドラグーンをよろしくお願いします」


 最高だ、最高の名前だ。


 ああ、ありがとう。中二病の私――。



「――え、却下されたんですか?」

「はい、申し訳ありません。さすがに長すぎるということで本部から言われてしまいまして、キャンセルになりました。ただ、特例として一年間の猶予を頂いたので、また決めてもらえますでしょうか?」

「一年……」


 冒険者ギルドに呼び出されたかと思えば、衝撃的なことを言い放たれた。

 ククリは「やっぱり」と一言、エヴァは「何でもいいよー」と言っていた。



 その日、私は眠れない夜を過ごしたが、結局名前は決まらず、一時的に保留にすることにした。


 名もなきクラン、それが、私たちのクラン名だ。



「ククリ、皇帝エンペラー時間軍団タイムレジオンはどう思う?」

「私たち、皇帝も時間も関係ない気がしますが……」



 もちろんエヴァにも訪ねてみたが、「何でもいいよー」と言った。




 

 




 

 

 


 

 

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