43話 普通のおじさん、したたかおじさん
「ほう、これが『るあぁ』なるものか」
「はい。ルアーです」
私の活舌が悪いのか、それともこの世界では発音がしづらいのか。
私はこの街で一番の商人の屋敷を訪れていた。
今まで貴族用の嗜好品を販売していたが、やはり国や街で愛されるものというものがある。
この国は間違いなく釣りだ。
大会が終わっても、いたるところで老若男女問わず釣り糸を垂らしている。
餌はこの街ではどこでも販売しているのだが、私はルアーに目を付けた。
魚そっくりで、それでいて質のいいものを揃えた。
広大な中庭の池をお借りし、私は釣り竿を投げ入れる。
リールを引くと、それはもう見事な魚がそこにいた。
「凄いな、魔法でも付与されているのか?」
「確かに、そう見えるかもしれませんね」
それでいて私が釣りの大会に優勝したのが良かった。
ここを紹介してもらったのも運営の人で、話しも早かったのだ。
冒険者で身分がある程度保障されているのも決め手だったのだろう。
ルアーを30個、釣り竿を10本をまずは下ろした。
細かいペンスに関しては計算をククリに任すことにした。
お互い適材適所、ちなみにククリはこの時だけは秘書みたいにメガネをかけている。
「シガ様、悪くありません。決まりです」
私がふと教えたことなのだが、彼女の成長っぷりは目を見張るものがある。
何事もまずは形からは私の好きな言葉だが、どうやらククリもそうらしい。
エヴァには申し訳ないが宿で待機してもらっている。
彼女は賢いが、流石に子連れで商談をするわけにはいかないからだ。
『行っちゃうの……?』
『すまないエヴァ、待っていてくれ』
『うう……』
ちなみにエヴァは寂しがり屋ではない。
したたかなのだ。
チョコレートか、ポテチか、それかおにぎりが欲しいのだ。
わかっている。
だが私はそう甘くはない。
『駄目だぞ、エヴァ』
『でも、退屈で……』
そうくると思った。
そして私は、私を支えてくれた
『これをしておきなさい。退屈なんて言葉が、辞書から消えるだろう』
『これ、なあに?』
『
エヴァは半信半疑だったが、私の予想通り、すぐにハマった。
宿で退屈させるのは申し訳ない。しかしだからといっておやつを食べさせるのは身体に悪い。
目を悪くしてはいけないと思ったが、エルフに目が悪いなんて言葉はなく、視力が落ちることもないらしい。
そして私はしたたかだ。
そう、エヴァに手渡したのは、ものすごく旧型のゲームボーイだ。
エヴァは最高に面白いと言っていたが、初期の初期の初期だ。
昔見た漫画っぽくいうと、『まだ変身を残している』みたいな感じだろうか。
退屈を感じたときにゲームボーイカラー、そしてアドバンス、セガサターン、いやこれは戻っているか?
もはやエヴァが成人するまで退屈することはないだろう。少しお金はかかるが、これが、大人の知恵なのだ。
「ではまずは初回販売を終えた後に連絡する。評判が良ければ、次は買い取りで頼む。いい話だった、シガさん」
「はいこちらこそ。ありがとうございました」
と、そんなことを考えつつ、商談が綺麗にまとまる。
いつも通り初めは相手を信頼するスタイルだ。
その後、大きく買い取りにしてもらう。
リスクを先に取ることにはなるが、それは私たちにとって何の問題もない。
冒険者としての仕事もあるので働けば問題はないし、いざとなれば魔物を狩ってお金になる。
しかし随分と手持ちが減ってしまった。
宿代も考えると、のんびりはしてられない。
屋敷を終えて一旦宿に戻る。
エルフはめずらしいが、この国もあまり気にしている人はいない。
だが念を入れて個室にしている。
金額は高いが、安全度は高くなる。
扉を開けるとそこにいたのは、完全なニート少女だった。
「ええい、捕まえた! う、うう……ダメだった」
ゲームボーイといえばやはりモンスターを捕まえるアレだ。
初めてだが、既にハマッているらしい。
ふふふ、すっかりと私の罠にかかったなエヴァ。
「エヴァ、行こうか。初仕事だ」
「なんでここ通ったら見つかるの!?」
「……エヴァちゃん?」
しかしどうやら耳に入っていないらしい。
よくみると目がギンギンだ。
そういえばゲームにはまりすぎてしまい、引きこもりになる人がいる。
もしかしてエヴァは、適正ありなのか?
「うう、負けた……」
だがそんなエヴァの泣き顔は可愛く、ククリと顔を見合わせながら微笑んだ。
とはいえずっとこのままではいけない。強くエヴァに言った後、セーブポイントまで待つのだった。
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