31話 普通のおじさん、ぴょんぴょん大会に出る。

 私が訪れた国は、ここで三つ目だ。

 一つ目は、オーリア。ククリと出会った大切な思い出がある。

 二つ目は、オストラバ。エヴァと出会い、今もなお続いている護衛任務。

 

 三つ目、それが今この場所、ビルトヴァだ。


 街並はそこまで他と大きく変わらないが、なんというか若者が多い。

 それはよいことだが……。


「ぎゃっはは、まじかよ、バビーのやつ殺っちまったのかよ」

「まあいいんじゃね? どうせ死ぬ予定だったし」


 少し、治安が悪いみたいだ。

 兵士はいるが、立っているだけでやる気もなさそうに集まって談話している。


 調べによると統括している王はここにおらず、ミルファン領土内にある国ということらしい。

 税金関係も緩く、その代償として……まあ、こんな感じなのだろう。

 

 そもそもここは国というより、街に近いのかもしれない。


「ククリ、エヴァ、あまり離れないように」

「はい、ご心配なさらず」

「わたしも大丈夫」


 そういう二人の頭の帽子は、ウサギちゃんとクマちゃんだ。

 以前の帽子も良かったが、もっと可愛くしてみようと馬車の中で着替えていた。


 耳がぴょんっとしてて可愛い。


「冒険者ギルドはあるらしい。一応予定通りに依頼を確認してみるが、大したことがなければ一泊だけしてすぐに出よう」


 あまり長居するのも良くない、そう感じるくらいにはなんだ違和感を感じる街だ。


 冒険者ギルドは、ほとんどの国で中心地に建てられているそうだ。

 造りもできるだけ似せており、初めて来ても迷わないように、とのことらしい。


 小さな配慮だが、私たちのような初心者ルーキーにはありがたい。


 扉を開くと、そこはやはり若者が多かった。

 ただ全員が悪そう、というわけではない。


「行くぜ、勇者の翼!」

「おおー!」

「いくぜぇ!」


 なんだか微笑ましくなるような高校生ぐらいの三人組もいる。

 名付けている名前もなんだか懐かしい感じだ。


 全員がピカピカの装備で、まさにこれから冒険が始まるのだろう。


 ……おじさんは応援しているぞ。


「よお、新参か?」


 おお、これまた珍しいタイプの受付の人だ。

 今までお姉さんハキハキタイプだったが、渋い頑固おやじみたいな感じ。


 私はむしろこっちのほうが落ち着くかもしれない。


「はい、今朝到着しました。滞在届けと依頼の確認に」

「そうか、なんだ祭りに参加しに来たんじゃねえのか」

「祭り、ですか?」


 祭りとは……そういえばふと視線を向けると、みんな帽子を被っている。

 なぜ気付かなかったのだろうか。いや、違和感は感じていた。


 よく見ると受付のおじさんも、頭に鹿の角みたいなのを付けている。


「知らねえのに連れは頭に耳つけてんのか?」

「あ、いや、これは――そうですね」

「ふむ、まあいい。なら教えてやる。今日は年に一回の耳祭りだ。七日間はどんな悪い奴も耳をつけて過ごす。魔物でも動物でも耳は何でもいい。喧嘩はご法度だ」

「は、はあ。どういうお祭りなのですか?」

「歌って踊って、酒飲んで、ツマミ食べて、飯食って、ガキは菓子を食うんだよ」


 よくわからないが、とにかく騒げ宴みたいな雰囲気なのだろうか。

 再び勇者の翼に視線を戻すと、確かに耳をつけている。うさ耳ぴょんぴょんだ。


「で、おめえの名前は……シガか。耳は?」


 冒険者登録票を確認したのち、私の頭に視線を戻す。


「な、ないです」

「ったくよお。ほら、俺の貸してやるよ」


 手渡されたのは、おじさんの使い古しの耳だった。ところどころ汚れている。

 まあでも、頂けるのはありがたい。


 いや……ありがいたいのか?


「どうした?」

「あ、いえいえ。ありがとうございます」


 ピタッと装着。意外に耳心地がいい。

 するとククリとエヴァが褒めてくれた。


「シガ様、か、かわいい」

「シガ、似合う」

「そ、そうか? そうか。私は耳が似合うのか」


 まんざらでもない。むしろちょっと嬉しくなってきた。


 耳ってのはいいものだ。よくわからないが。


「ありがとうございます。それで依頼はありますか?」

「ない。当分は祭りで休止だ。来週までな」

「そんな……」


 当てが外れてしまった。依頼が全くないということは流石に想定していなかった。

 幸い宿はまだ保留してもらっている。


 相談してみようとククリに話かけようとしたが、その場から消えていた。

 後ろから声が聞こえる。振り返ると、ククリとエヴァが兎飛びしていた。


 凄い悪そうな人たちと。


「やるじゃねえか! がはは!」

「ぴょんぴょんです!」

「ククリ、わたしもぴょんぴょん」


 ……楽しそうだな。


「シガ、金がねえのか?」

「え? あ、そうですね」


 見破られてしまった。いや、冒険者なんて大体金がないのだろう。


「だったら大会に出たらどうだ?」

「大会?」

「ああ。七等級ならそこそこ動けるだろ。この先にある闘技場で、耳取り大会がある。優勝すれば金がもらえる上に、黄金の耳がもらえるぞ」

「黄金の耳……」


 いや、それに関しては正直興味はない。

 だが前者、金がもらえるのには興味がある。私はどうやら、現金おじさんになってしまっているようだ。

 Nayamazonの売買は時間がかかるのが難点だ。下手に信用できない人に売る事も出来ない。


「なるほど、気になりますね。賞金はおいくらぐらいですか?」

「100万ペンスだ」

「ひゃ、ひゃく!?」

「ああ、だが登録に1万かかるがな」

「なるほど……そういう感じなんですね」


 とはいえ勝てば99万ペンス。悪くはない。

 いや、ルールを聞いていなかった。


「耳取りというのは?」

「闘技場で戦うのさ。何でもあり、魔法でもなんでもな。だが殺しはダメだ。で、耳を取れば勝ちさ」

「耳を取れば勝ちというのは、相手の耳を取るんですか?」

「そうだ」

 

 ……運動会を思い出す。

 騎馬戦の個人戦みたいなものか。


 しかし私はおじさん、何度もやったことがある。

 今の時代は危険だといって省かれているらしいが、私はおじさん、そういう危険なことは沢山してきたのだ。


 昭和は、ある意味強い。


「大会はいつですか?」

「後――数時間後だな」


 数時間後!? 悩んでる暇はない。


 ……やるか?


「黄金の耳が欲しい奴は山ほどいるからな」

「? どういうことですか?」

「あ? そうか、知らねえのか。100万ペンスってのはおまけだ。本命はそっちだ。その耳をつけていれば、残り六日間、好き放題にこの国で暮らせるのさ。飯も宿ものんびりし放題だ」


 な、なんと……。

 凄まじいことだ。流石に六日もいるつもりはないが、少なくとも二日は滞在したかった。

 依頼がないとのことで節約もしなければならない。

 だが、私が勝てば、全て無料タダ!?


「三人まで有効だよ。連れの二人もな」

「行ってきます。私はこの耳で勝ちます」

「お、やる気まんまんじゃねえか。よっしゃ、俺の耳が勝つところがみてえから一万ペンス出してやるぜ」

「え、いいんですか!?」

「ああ、俺は見る目がある。お前はなんだか勝ちそうだ。この決闘、賭けもあってな」

「……損はさせませんよ」

「がはは、頼むぜ」


 そういうと受付おじさんは、道案内をしてくれることになった。

 まさかの決闘、だが、私は負ける気がしない。


 ククリとエヴァに説明しようとしたが、今度はまた別のめちゃくちゃ悪そうな五人組と兎飛びをしていた。


「ぴょんぴょんだ! がはは!」

「強いですね! エヴァちゃんもおいでおいで」

「ぴょんっぴょんっ」


 ……あれ、この耳祭り。


 私も好きかもしれない……。


「ほら、ぴょんぴょんだ、嬢ちゃん!」

「はい、ぴょんぴょん!」

「シガもぴょんぴょん!」


「ぴょ、ぴょんぴょん」



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