22話 普通のおじさん、認められていく。

「こ、こちらが報酬金でございます」


 冒険者ギルド内、私とククリは、大勢が見守る中、大金を受け取っていた。

 本来であれば危険なことなのだろうが、そのなんだ……自分のことでなんだが、みんな私に感動の眼差しみたいなのを送っているのでおそらく大丈夫。


 サイクロプスの亜種を一人で倒したことは、私が思っていたより凄い事だったらしい。

 

 だがそのとき、あの大柄の男がまた近づいてきた。

 足はまだ怪我をしているみたいで引きずっている。

 

「おい」

「なんだ――」

「す、すまなかったああああああああああああああああああああ」


 突然、勢いよく土下座をしはじめる。私より何倍もある大きな体躯、広い背中が丸まって縮こまる。

 思わず唖然としてしまう。何が一体、どうしたというのだ?


「あんたは命の恩人だ! なのに俺ってやつは……すまねえ! 色々と絡んで申し訳なかった」


 謝罪にしても清々しいほどの勢いだ。

 そもそもこんな人前でしなくても……。


「ガンディが土下座って、おいなにがあったんだ?」

「命を助けられたんだ。凄かったぜお前、みてねえのかよ?」

「しかしあのおじさん、どこかの暗殺者なのかな?」


 ヒソヒソと、いや時には声も大きく。

 いや、ひとまず彼のことだけを考えよう。外野を気にするのは後だ。


「顔をあげてくれ」

「ひっ、ひっ、ひっ、すまねえ」


 号泣だ。思い切り泣いている。

 ……結構いいやつなんだな。


「人助けは当然だ。それに関しては気にするな。冒険者が人に舐められてはいけない仕事だとは理解している。とはいえ、君の方法は間違っていた。それがわかればいい。それに、君のその感謝を伝えられる心は素晴らしいと思う」

「ひ、ひっひっ、お、おじさあああああああああああん」

「え?」


 巨体の男性からの熱い抱擁、いや、ガンディくんか。

 ククリは笑顔で私たちを眺めていた。


 するとパチパチ、パチパチパチと拍手が起きる。

 全員がそれに続く。よく見ると何人泣いている。


 な、なんだこれは……。


「シガ様は、やはり素晴らしいです」

「あ、ありがとう――」

「おじさあああああああああああああああああああああん」


 ……まあでも、褒められたことを素直に喜ぼう。


 やはり私は、この世界が好きだ。


 ▽


 サイクロプス亜種、討伐から数日が経過した。

 私のおかげで外交が上手くいった、みたいなことになってしまい、色々な人から声をかけられるようになった。

 別に私は討伐隊に参加しただけなんだが……。


「よおシガ、今日の調子はどうだい!」

「悪くない、そっちはどうだ?」

「シガさんだー、今日も魔物をやっつけにいったの?」

「ああ、ちょっとだけだけどね」


 恥ずかしいが、嬉しくもある。

 だが、一番嬉しかったことは――。


「あ、エルフのククリちゃん、今日も可愛いなー」

「うふふ、ありがとう」


 ククリが、帽子を被らなくても良くなったことだ。

 私の想像以上にガンディくんはオストラバの有名人で、彼は何でも頼ってくれと言った。

 それで私は、ククリのことを相談してみた。だったら俺が何とかすると胸を張ってくれた数日後、確かに変わってきている。


 国を助けたおじさんとその相棒、凄腕の魔法使いのエルフ、みたいな噂が広まっているらしい。


 ……なんか、かっこよすぎるな。


「シガ様はやっぱり凄いです。もっと誇ってください」

「だが……私はただ恵まれていただけだ。ハッキリ言えば努力をしたわけではない。ズルみたいなもの――」


 しかしククリは立ち止まって、精一杯足を延ばし、私の頬をぷにっと掴んだ。


「たとえそうだとしても、シガ様だからこそ身に付いたんです。他の誰でもない、貴方だからです。誇ってほしいです」

「……ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」

「はい! 私は最強おじさんの相棒、エルフのククリですから!」


 幸せだ。

 こんな幸せは、ずっと続いてほしい。


 その時――。


「冒険者七等級、シガ様、ククリ様で間違いないでしょうか?」


 目の前に、兵士五人が現れた。

 丁寧な言葉遣いだが、何やら物々しさも感じられる。

 ちなみにサイクロプスのおかげで、等級が上がった。


「そうですが、何かありましたか?」

「国王陛下がお呼びです。今すぐに来てもらえますでしょうか?」

「……はい?」



 そして私、普通のおじさんは、なんと国で一番お偉い人に会うことになったのだった。


 



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