19話 普通のおじさん、初めてのダンジョン

「これが、ダンジョン……?」

「みたいですね……私も情報だけしか知らないのでわかりませんが、思っていたよりも陰気な感じですね」


 冒険者ギルドにダンジョン入場申請後、専用の木札カードを頂いた。

 国が管理しているらしく、入口には兵士が二人。カードを見せると中に入ることができた。


 死んでも文句言いませんみたいな口頭尋問があったが、テレビで見たバンジージャンプを思い出した。


 この世界でも責任問題とかあるのだろうか。

 普通に考えれば国があれば法律がある。それもそうか。


 中は暗い建物のようだ。

 

 ククリ曰く、色々な種類のダンジョンがあるが、ここはオーソドックスらしい。


 今のところ魔物の気配はないが、ピチュンと水の音が滴っている。


 廃ビルに迷い込んだ気分だ。


「そもそもなぜこんなのがあるんだろうな」

「一説によると、魔族が生み出した産物だと言われています。その理由として、冒険者が死ぬと、魂が魔物に成り代わるからです。宝箱や魅力的な法具が出るのは、人間を誘い込む為だと」

「ふむ、しかし魔物になったとして、魔族にどんなメリットがあるんだろうか」

「ダンジョンに魔物が多くなると崩壊し、魔物が外に溢れます。そうなるとスタンピード、魔物徘徊が起こって死者が大勢出るんです。欲を上手く使っているなと思います」

「なるほど……」


 流石はククリだ。

 魔族がいることにも驚いたが、それよりも説明に納得がいった。


 宝箱があれば人間は入る。冒険者が死ぬと魔物になる。魔物が溢れると人間を殺す、何とも凄い循環だ。


「魔族は今も生きてるのか?」

「まだ存在していると言われていますが、そこまでは私にも……すみません」

「いや、いつもありがとう。よく考えると、私も欲にまみれた一人か」


 揚げ足を取ったようになってしまって、ククリが慌てて弁解する。


「い、いや、そ、そういう意味では!?」

「あ、いやすまない、ククリを責めてるわけじゃないんだ。ただ、人間というものをよく理解しているなと。もしそうなら、魔族は相当頭が良いのだろう」


 元の世界のネズミ捕りを思い出す。甘い匂いを出し、獲物を誘う、まさにそれだ。


 現代の人間ほどの知識を持つ魔族……か、想像するだけでも恐ろしいな。


 いかんいかん、冒険八等級は制限時間が決まっているんだった。


「行こうか、ククリ。私が気配察知で前に出る。後方支援を頼む」

「はい!」


 それから私たちは前に進んだ。


 最初に現れたのは、子供ぐらいの背丈の骸骨だった。

 アンデット系というのだろうか、しかしなんだかデフォルメされているというか、可愛くも見える。

 

 とはいえ右手には鋭い剣を持っているので、油断してはいけない。


 そんなことを考えていたら、骸骨が襲ってくる。


 しかし……遅い。なんだかゆっくりだ。


 私はヒラリとかわし、骸骨の足を崩した。

 ククリがとどめを刺すと、悲痛な叫び声が反響する。


 なんか……弱いな?


「シガ様、凄いですね。見えたのですか?」

「え? 何がだ?」

「凄い早かったじゃないですか、びっくりしましたよ……」

「……え?」


 聞けばククリの目からは、アンデットは高速で移動していたらしい。

 

 おかしい、私の目にはスローに見えた。


 ステータスを確認していると、『観察眼』がスキルに追加されていた。

 なるほど、ジロジロと見ていたおかげだろうか。

 しかし相手の動きがゆっくりに見えるとは……まさにチートだ。


 ちなみに死体をNyamazonに投げ入れると500円だった。


 これは……がっぽがっぽだ。


「ククリ、これで鮭おにぎり三つ買えるぞ」

「……な、な、な、な、な」


 わなわなわなと身体を震わせる。武者震いならぬ、鮭震い。


「シガ様、行きましょう!」

「そ、そうだな」


 人の欲望はやはり底知れぬ。



 ダンジョンを終えた私たちは、魔物を多く倒したことで返り血がすさまじかった。


 だがククリは、私が今まで見たこともないほど笑みに溢れていた。


 鮭欲望は、何よりも恐ろしい。


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