18話 エルフ族ククリの密かな想い
私は忘れようとしていた。
現実から目を背けようとしていた。
エルフの里から追いやられ、奴隷商人に拾われ、生きているだけで幸運だと自分に言い聞かせていた。
だけど、本当は違う。
人間が憎い、奴隷になった自分が悲しい、どうして、なんで、こんなところにいるの――。
そのとき、シガ様が私を見つけてくれた。
『実はその……君を解放する為なんだ』
私はてっきり……性的な目的の為に買われたと思っていた。
だけどそれは、間違いだった。
シガ様は聡明で優しく、気配りに溢れている。
そして、少し可愛い。
一番驚いたことは、世界の歴史を考えてもありえないほどの凄まじい能力を手にしていること。
望めば、それこそ強大な権力を手にすることも可能だろう。
だけどもシガ様は、私のようなエルフに優しく手を差し伸べてくれる。
温かい心と、手で、私を導いてくれる。
それが、心地よくてたまらなかった。
私の拙い言葉も最後まで聞いてくれて、大好きな鮭おにぎりも食べさせてくれて、頭をなでなでしてくれて……。
だけど、甘えてばっかりはいられない。
私は、シガ様の剣だ。
もし何かあれば、私がシガ様を守る。
そして私は、ずっと魔法が使えないと思っていた。
だけどなんとシガ様は、魔法を使えるようにしてくれた。
そして、深い……深い底に沈んでいた心を解き放ってくれた。
どこまで優しいのだろう。
何でどうして、無欲のままでいられるだろう。
私は本当は……人間が好きじゃなかった。
いや、どうしても好きになれなかった。
両親を殺したこと、差別的な目をする彼らを許せなかった。
だけどシガ様は教えてくれた。
人種なんて関係ない、その人の心が全てだと。
ああ――なんて素晴らしいお人なんだ。
神様はいない。それはわかってる。
だけど、シガ様のように素晴らしい人はいるのだ。
これからどんなことがあっても、私は彼の剣であり続けたい。
どんな事が起きても、私はシガ様の味方だ。
「お待たせ、ようやく火がついたよ」
「あ、す、すみません! ぼーっとしてました……」
「気にするな、ここは自然が綺麗だからな。――さて、鮭おにぎりを食べようか。今日は、味噌汁も付けよう」
「味噌汁?」
「ああ、相性がばっちりなんだ。私と――ククリのようにね。……なんて、すまないなおやじの寒いギャグみたいになってしまった」
「ふふふ、私、シガ様の言葉の一つ一つが好きです! あ、でもたまに教えてくれないのは困りますけど……」
「そ、それは色々あるんだ。――じゃあ、Nyamazonを出すよ」
「はい!」
例え世界を敵に回すことがあっても、私は決して揺れない。
どんなことがあっても、例え同胞が敵に回ったとしても、私は迷わない。
彼を、死ぬまで守り続ける。
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