15話 普通のおじさん、スカウトを受ける?

「冒険者八等級、それに……一ヵ月前?」


 てっきり、いや、もしかしたら王の間に案内されたりして、王様に「凄いな、騎士団に入らないか?」

 みたいな感じになったりして、それで「どうしようか、ククリ」みたいな展開になるのかと淡い期待していた。


 だが実際は、兵士たちが滞在している小屋のような場所で、尋問のような質問を繰り返されただけだった。


 おじさんの小さな欲望、砕け散る……。


「――聞いてるのか?」

「ああ、すみません。そうです、田舎から出てきたので、まだ都会について色々疎くて」

「ふーん、そうか。まあいいだろ、連れのエルフにも怪しい所はなかった。後、これを渡しておく」

「これは?」


 手渡されたのは、木板のカードだった。冒険者の等級カードに似ているが、少し違う。

 だがこの数字、見覚えが――。


「お前たちが倒した賞金首だよ。ギルドで支払う事になってるから、できれば今日中に行ってくれ。宿が決まったらちゃんと報告しといてくれよ」

「畏まりました。ククリ、行こうか」

「はい」


 立ち上がって、その場を後にしようとする。

 だが――。


「それと、その耳、出来るだけ隠してたほうがいいぞ」

「耳?」

「私、ですね」

「……そうだ。俺が言うのは申し訳ないが、厄介な奴らも少なからずいるからな」

「わかりました。ご忠告ありがとうございます」


 時間を置いて、ようやく気付く。

 そうか、ククリの耳は私たちよりも尖がっている。

 

 ――エルフの証か。


「シガ様、すみません。何か布などお借りできないでしょうか?」

「いや……ちょっと待ってくれ」


 憲兵小屋から外に出ると、物陰でステータスバーを操作する。

 ククリは少し申し訳なさそうだ。


 Nayamazonを呼び出し、ファッションの項目を選択。


『お買い上げ、ありがとニャーン♪』


 ぽんっ、と出てきたのは、赤い帽子、バケットハットだ。

 ククリの頭は小さい、耳の先端を入れれば問題ないだろう。

 端正な顔つきまでは隠せないが、流石に綺麗だからといってエルフとはバレないはずだ。


「これ……私にですか?」

「そうだ。せっかく変装するなら、可愛いほうがいいだろう」


 ドキドキしながら、ククリは装着した。

 照れる様子も可愛い。

 空間魔法で収納していた手鏡を出し見せると、わっと声を上げた。


「凄い、可愛いです!」

「布で隠すよりはいいだろう?」

「とっても! はい!」


 よし――と、前を向く。

 馬車から直接オストラバに入ったのでわからなかったが、オーリアよりも随分と栄えているみたいだ。

 

 見たこともない屋台が立ち並び、活気で溢れている。

 エルフはいないが、見たこともない種族も大勢歩いていた。


 変な話かもしれないが、他種族同士が交わうとどうなるのだろうか。


 ハーフ、クォータハーフのように言われる……のだろうか。


「シガ様?」

「ああ、すまない。またいつものように考え事をしてしまった。まずは宿泊先だけ決めて、カードをギルドでお金に代えよう。そういえば、いくらだったか聞くのを忘れていたな」

「わかりました。でしたら、宿は私が決めてもいいですか?」

「構わないが、もしかして有名なところがあったりするのか?」

「いえ、こういうのは、コツがあるんです」

「コツ?」


 はい、と答えるククリに着いて行く。

 宿屋は大勢ある。安いところから普通くらい、もちろん高いところもある。


 すっごく高いところは、大体最奥にあって、富裕層が住むエリアに多い。

 治安はいいが、当然高い。

 冒険者等級が高くなれば依頼も多くなるし、宮廷魔法使いなどは給与がいいので、大体はそういった人たちから好まれる。


 私たちはもちろんまだまだ見習いでお金もない。


 だが安価なところは賑やかだ。いい意味でも悪い意味でもだが、飽きることはない。

 オーリアでも毎日がお祭り騒ぎのようだった。


 その時、色々な宿を見て歩いていると、ククリがじぃっと一つの宿の入口を見ていた。

 眼光が鋭い。鮭おにぎりを食べている時とは違う、真剣な顔だ。


「シガ様、あそこにしましょう」

「構わないが、理由があるのか?」


 決めてかどうかはわからないが、ククリが断言する瞬間、女性六人組のパーティーが入っていった。

 身なりからすると冒険者だ。


「女の人は宿に気を遣います。男性は……その、差別ではないですが襲われること自体は少ないです。ですが、女性は違います。特に冒険者であればそういった情報は必須です。もちろんこれが合っているとは言えませんが……」

「いや、納得した。私の住む日本でもオートロックというのがあってな、同じ考えを持つ女性は多いだろう」


 宿の値段は1500ペンスだった。オーリアより少しだけ高いが、ククリの予想通り清潔で、なおかつ部屋も綺麗だった。

 初めての国でゆっくりしたいこともあり私たちは個室を選び、上乗せで1700を支払う。

 ふかふかのベッドとは程遠いが、満足ではあった。


 少しだけ休憩したのちギルドへ移動し、滞在票に名前を記載した。


 冒険者というだけで国に移動するのは楽だが、キチンと宿を取って名前と宿主から頂いた数字を記載する必要がある。

 流れ者がそのまま居つくことを避ける為だ。


 この世界でも移民は問題視されている。


 それ自体が悪いことではないが、お金がなくなると犯罪は増える。これに関しては事実だろう。


 驚いたことに、彼らの賞金として頂いたお金は非常に多かった。

 彼らの中に手練れが一人いたらしく、ほとんどがその男の分だった。


 私たちは懐、いやNyamazonが潤った状態でギルドを後にして、ギルドでおすすめされた酒場にやって来た。


 初日だ、どうせなら現地のものを食べたい。

 ククリは鮭がいいと言っていたが、こればかりはわがままを言ってしまった。


 地酒ならぬ、地エール

、これは旅の醍醐味なのだ。


 他にもおすすめをいくつかお願いし、ククリは葡萄ジュースのようなものを頼んだ。

 アルコールは苦手だそうだ。そもそも飲めないのではと思ったが、私は彼女の年齢を知らない。

 長命種だと言っていたが……もしかして年上という可能性もあるのか?


「シガ様?」

「……乾杯をしよう」

「かんぱい?」

「私の故郷の風習みたいなものか。何もかもが無事に終わり、お互い喜びを分かち合う時、お祝いの時、悲しい時、元気を出したい時、何でも使える魔法の言葉だ。こうやるんだ」

「おおー! こ、こうですか?」


 ククリは、葡萄ジュースが入った飲み物を持ち上げて掲げた。

 私のエールとコツンと合わせ、「乾杯」と言い合う。


 するとその様子を見ていた団体たちが、なんだそれは? と言ってきた。


 同じように説明すると、彼らは嬉しそうに乾杯と叫んだ。

 面白いことに、それは連鎖していった。



 これは後から聞いた話だが、このオストラバで「カンパイ」が流行り、発祥の地、として有名になったらしい。



 うむ、エールがうまい。

 

 明日は大事な商談の日になるだろう、久しぶりに営業トークを思い出さないとな。




 


 

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