14話 普通のおじさん、命を賭けたやり取りをする。

「オッサン、金目の物を置いていきな。もちろん、そこのエルフもなァ?」

「ハッハッ、こいつはとんだラッキーだぜェ!」

「ガキは高く売れるからなァ! おい、囲め!」


 敵はおよそ十人、それぞれが武器を持っている。

 幸いな事に弓や鉄砲のようなものは見えない。


 だがこの世界には魔法がある。


 とはいえククリ曰く、魔法の才があれば、大体は冒険者か兵士になるとのことだ。

 身なりは酷くボロく、手入れの十分にされている武器には見えない。


 したがって可能性は薄い、だがゼロではない。


「シガ様、自分の身は自分で守ります」

「……わかった」


 早朝、キャンプ用品を収納し、出発した。

 後もう少しというところで、彼らと遭遇したのだ。


 全員若いが、育ちは良くなさそうだ。


 追いはぎか、山賊か、当てはめる必要もないが、とにかく命を狙われている。


 余計な言葉は発せず、私は男たちの見極めながら呼吸を整えた。


 いつかは来ると思っていた。


 これは、試合でも、訓練でもない。

 

 命を賭けた戦いだ。


 それを頭に瞬時に叩きこむ。


「ほらほら、オッサンビビってんのかぁ!?」


 私が倒されたらククリは死ぬ。



 ――行け。


「ほら、やっちま――」

「――ヒュウッ」


 瞬時に駆け、浅い呼吸で一人の腕を落とす。


 大事なのは、一番弱い奴から倒すことだ。


 初撃を防がれる可能性が低いこともあるが、騒いでくれる可能性が高い。


「ギ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 うむ、予想通り。

 仲間の悲鳴を聞いて冷静になれるなんてよっぽど人間だ。

 そして私が見たところ、彼らはそうは思えない。


「な、なんだこのオッサン!?」

「く、クソ、やっちま――ぎゃあああああああああああああああああ」


 その時、私の後ろの男が悲鳴を上げる。

 振り返る必要はない。私とククリは、短い間に信頼を積み上げてきた。


 背中を任せるほどに、彼女は強くなったのだ。


 ここへ来てわかったことだが、本気の戦闘というものはあまりにも短い。


 剣を躱しあうなんて、漫画やアニメの世界だ。


 さて、畳みかけるか――。




 一分後、私とククリは返り血に染まった状態でようやく目を合わせた。


「……終わりですね」

「ああ、怪我は?」

「ありません」


 男たちが地面にうずくまり、その場で悲鳴をあげている。

 逃げ出そうとしているものもいるが、遠くは行けぬだろう。

 

 並列思考のおかげだろうか、恐怖や、後悔などない。


 後は、守る人がいるからというのもあるか。


 私はゆっくりと一人の男に近づき、声をかける。


「追いはぎか、山賊か、なぜここにいた? なぜ私たちを狙おうとした?」

「ひ、ひっ、ひっ」

「答えろ」

「お、俺たちは近くのむ、村を襲ってきた帰りだ、ああ、あ、あ。で、だ、ダメだったから、つ、ついでに狩りをし、しようと」


 血を流し過ぎているせいか、呂律が回っていない。

 だが十分わかった。


 人を狙うことが、狩り・・だと思う集団だということが。


「シガ様、彼らは賞金首かもしれません」

「賞金首?」

「はい、この腕、見てください」


 ククリは地面に落ちていた腕を拾い上げ、右手首に書かれた数字を見せてきた。


「これは?」

「法を犯して捕まった時に付けられる印です。満期を終えれば消されるはず、おそらく脱走したのか、それとも何か汚い手を使ったのか。少なくとも余罪があればギルドから幾分かのお金がもらえます」

「なるほど、だが全員連れていくのは……難しくないか?」

「そうですね、誰を選びますか?・・・・・・・


 額の血を拭いながら、ククリは冷徹な目で追いはぎ達を睨みつける。

 

 勝敗は決している、だが恨みつらみを残される事を考えると、ククリの言う通りかもしれない。

 それ以上に、彼女から憎悪を感じる。

 故郷を襲った連中と重ねているのかもしれないな。


 しかし私も温情をかけるつもりはない。


 比較的元気な奴にしようするかと思っていたが、蹄の音が聞こえてくる。


 視線を向けると、立派な甲冑を着込んだ男たちが、馬に乗ってやって来る。


「ククリ、剣はそのままでいいが、下に向けておけ。私がいいと言うまで決して動くな」

「わかりました」


 やがて辿り着いた兵士たちは、男たちの蠢き騒いでいる様子を見て驚いていた。

 その中心で立っているのは、年端もいかぬエルフの女の子と、私だからだ。


 兵士は五人、そのうちの一人が、馬の上から私に声をかける。


「お前たちがやったのか?」

「はい、私たちは冒険者です。オストラバに行く予定でしたが、追いはぎに合い撃退しました。彼女は私の連れです」


 出来るだけ簡潔に無駄なく答えると、兵士は少しだけ疑うような表情を浮かべた。

 だが私たちの返り血を見てすぐに納得してくれたようだ。


「手練れだな。たったの二人でか」

「剣の腕には少し覚えがあるので」

「ほう、俺たちは【オストラバ】の兵士だ。こいつらは領土内の村を襲ったということで通報が来た。嘘は言ってないと思うが、調査する必要で国に来てもらう。冒険者ということだが、なぜ我が国に?」

「構いません。私と彼女、ククリは子爵貴族である【ギール】様を訊ねに来ました。商人もしているので」


 簡潔に短く、だが堂々と。


 変に誤解は困るからな。


「……ギール様は私も知っている。ならば詳しく身分の照会もさせてもらおう」

「問題ありません。ククリ、剣を納めてくれ」

「はい」


 その後、少し待つと馬車がやってきた。

 追いはぎたちは無造作に乗せられて、これからどうなるのかはわからないが、独房か、それとも――。


「シガ様って、凄く堂々としていますよね。それに言葉遣いも本当に丁寧ですし……元の世界で何をしていたんですか? 貴族様ですか?」


 ククリの素直な質問に、私は思わず笑みを零す。

 爵位なんてない、あるとすれば――。


「ただの中間管理職だよ。それよりククリ、怖くなかったのか?」

「大丈夫ですよ、シガ様が思っているより、この世界はこんな感じです」


 ふふふ、と笑うククリ。


 楽しいばかりが旅ではない。

 それはわかっていたが、再び洗礼を受けた気分だ。


 とりあえずオストラバに着いて話を終えたら、今日はお祝いにビールを飲もう。


 贅沢に、枝豆も付けて。



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