3話 普通のおじさん、寂しがり屋

 翌日、ビールの空き缶とおにぎりの袋を放置したまま、小さなテント内で目を覚ます。

 襲われた直後になんという醜態かもしれないが、気配察知でなんとなく周囲がわかる。


 一応、自信を持ったうえで眠った、ということをにしておこう。


 テントから這い出るとまず小川で顔を洗い、昨日出来なかった釣りを再開した。


 だが一時間、二時間、三時間経っても釣れず、場所が悪いのかと移動したら、昨日より小さなウルフがいた。


 恐怖よりも、昨晩のビールとおにぎりが忘れられない。

 釣りよりも狩ったほうが早い、冷静沈着のおかげだろうか、心が穏やかで狂喜に満ちている。

 

 ゆっくりと近づき、今度は後ろから不意打ちで倒す。


 罪悪感は多少あるが、これも生きる為だ。

 昨日と同じ要領で投げ入れると、金額は350円だった。


 なるほど、個体によって金額が違うのか。


 そしてレベルがまた上がった。超成熟のおかげかわからないが、何とも言えぬ快感はある。


 名前:キミウチシガ 28歳。

 レベル:7⇒9

 体力:C

 魔力:C

 気力:B

 ステータス:やや興奮気味、寂しがり、

 装備品:作業現場ワーカー上下(やや安い)、安全靴(やや硬い)、ナイフ

 スキル:空間魔法Lv.2、冷静沈着Lv1、並列思考Lv1、解析Lv1、New:短剣術Lv2、気配察知Lv2、隠密Lv1

 固有能力:超成熟、お買い物、多言語理解


 短剣術や気配察知、隠密を習得したことから考えると、魔物と戦ったことや足音を殺して近づいたことが関係するのだろう。

 となると、スキルを習得する為に必要なクエストのようなものが裏設定されているのかもしれない。

 

 しかしステータスの寂しがり、は相変わらず消えていない。


「まあ、それもそうだよな」


 ここへ来てから誰とも話していないのだ。ウルフとは対話なんて出来なかった。

 昔飼っていた猫でもいれば違うのだが……。


『ピロロロン、ステータス寂しがりが基準値を超えました。状態を維持する為、魔獣召喚Lv1を習得しました』


「しょうか……ん?」


 まさか……。流行る気持ちを抑えてテントまで戻ると、静かに詠唱してみる。

 魔獣召喚。


 何も起こらないと思っていたが、Nyamazonの時と違って今度は地面に黒い魔法陣が現れた。


 するとそこから――もふもふの猫が現れた。だが、背中には小さな羽が付いている。


「にゃごろーん」

「これが、魔獣か……」


 そして私に頭を擦りつけてくる。

 これは……かわちぃ。


 おじさんの心もきゅんきゅんだ。


「にゃん」


 私の寂しがりゲージが、どんどん減少していくのがわかる。


 やはり誰かと過ごすと心が洗われるようだ。


「そうだな……うむ」


 Niyamazonを操作して購入、出てきたのは――チャールだった。

 180円と少し高いが、猫の笑顔が見たい。


「にゃ……」

「大丈夫、ほら食べてごらん」


 くんくんと匂ったあと、無我夢中でぺろぺろしはじめる。

 その様子を見ていると、つい時間を忘れてしまったほど愛おしく見えた。


「はは、美味しいか」

「にゃん!」


 その日、私はご飯を食う事も忘れてニャン太郎と遊んでいた。


 だが――。


『召喚終了、5.4.3.2.1.消滅しました――』


 そのままニャン太郎は消えてしまった……。


「そんな……」


 もう一度詠唱してみたが、『魔力が足りません』と表示される。

 ステータスを見てみると、マナがなくなっていた。

 そういえばニャン太郎がいる間は魔力が消費しているような気分だった。


「そういうことか……」


 四時間ほど待って再び召喚してみると、次に現れたのは小さなリスだった。

 ニャン太郎ではなかったが、この子もまた可愛かった。そして小さい分、ニャン太郎よりも長く居てくれた。


 理屈はわからないが、私の現在の心に寄り添うように魔物を召喚してくれるのだろう。


『魔獣召喚レベルが2になりました』


 気づけばレベルが上がった。だが、リス次郎が消えた時、私の心がきゅっとなった。


 これは諸刃の剣だ。


 だからもう少し、本当に必要な時までは我慢しようと思った。


 ニャン太郎やリス次郎にまた会える日まで、おじさん強くなるニャン……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る