4話 普通のおじさん、戦闘を楽しむ。
異世界転生してから一番の危機が訪れていた。
いや、普通に考えるとずっと危機なのだが、以前の仕事があまりにも過酷だったのでそうは感じられなかったのだ。
「腹減った……」
空腹である。
人間は不便だ。食べても食べても消化してしまう。
子供のように小石を川に投げつけながら、お腹をすりすり。
とにかく食べる物がない。
期待していた釣りは全然ダメだった。お買い物をしようにも価値のあるものがない。
ビールの底に残っていた水滴を少量摂取した後、ようやく覚悟を決める。
「そろそろ狩るか……♠」
テンションをあげたいので言ってみたが、やはりテンションは変わらない。
つまりただのおっさんの私が、モンスターを積極的に狩っていこうということだ。
一応、たまに魔狼の遠吠えは夜に聞こえてくる。
Nyamazonがあるので解体などはしなくてもいい、ただ倒せばいいのだ。
魔狼は一体650円、二体で1300円だ。つまり三体で1950円!
当たり前のことなのだが、自分を奮い立たせる為に言ったのである。
顔を洗って焚火の火を消すと、キャンプ用品を全て空間魔法に収納した。
その後、寂しいわけではないが、覚悟を決めて魔獣を呼び出す。
「いいのが出てくれよ」
『プルルルルルル?』
すると現れたのは、一体の
レベルはLv2、おそらく私の魔獣召喚レベルと比例しているのだろう。
「ぷいにゅにゅー?」
ドラゴンやフェニックスが出てくれるとありがたかったが、そう上手くはいかない。
スライムは私の頭の上に乗ると、ぷにぷにと鳴き声をあげながら、あっちだ、こっちだと教えてくれる。
言語を喋っているわけではないが、なんとなくわかる。
魔力探知能力に優れているのだろうか、今の私にはピッタリだ。
「ぷい郎、出来るだけ離れた場所から観察したい」
「ぷいにゅ」
わかった、ということらしい。
小さなナイフは、サバイバルナイフになっていた。
これもNyamazonから手に入れた物だ。
魔法があれば遠距離から攻撃できるのだが、ステータスには表示されていない。
他のスキル同様、何かきっかけが必要なのかもしれない。
一時間ほど歩いた後、ぷい郎が敵を見つけたらしく、ぷいぷいと教えてくれた。
森の影から覗いてみると、離れた場所に魔狼の群れがいる。
一匹ずつだと思っていたので、流石にこれは退かねば、と思っていたら、魔狼が私に視線を向けた。
「もしや……」
咄嗟に唾液をつけた指を風にさらしてみると、風下だったのだ。
すぐにその場から離れようとしたが、魔狼は獰猛な叫び声をあげ、凄まじい速度で走ってくる。
その数は五体、等価交換だと3250円、おにぎりにすると21個は買える。こんな時に冷静沈着は辞めて頂きたい。
「ガルルウウウウウウウウ!」
「覚悟を決めるしかないな……」
サバイバルナイフを構えると、魔狼は警戒したのか少し手前で止まった。だが私を囲むようにじりじりと前後左右に分かれていく。
一体でさえ手こずったのだ。絶体絶命に等しいかもしれない。
だが不思議と恐怖はなかった。
人はありえない状況に遭遇すると、心の辻妻を合わせる為に正常性バイアスというのが働くらしい。
自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価する防衛本能の一つだ。
だが今この状況で一番危険なのはパニックだろう、冷静沈着と合わせて感謝していると、後ろの魔狼が唸った。
思わず反応して振り返る。だが次に前が、そして横のウルフが一斉に襲ってきた。
――罠か。
私は半ば夢中でナイフを振りかぶろうとした。
その時、不思議な事が起きた。
何かが、いやスキルが手助けしてくれる感覚があった。
誰かがそっと身体を支えてくれているかのように、回避行動、体重移動、攻撃方法、剣の達人ならばこうだよ、と赤ん坊の私に細胞レベルで教えてくれる。
まるでスローモーションとも思えるほどの感覚を味わいながら、気づけば飛び掛かってきた魔狼全ての息の根を――完全に止めていた。
『ピロピロリン、レベルが上がりました♪ 新たなスキルを習得しました♪ レベル10を超えたので、ボーナススキルを取得、選択してください』
名前:キミウチシガ 28歳
レベル:9⇒15
体力:C+
魔力:C+
気力:A
ステータス:心臓高鳴る、溢れる高揚感
装備品:作業現場ワーカー上下(やや安い)、安全靴(やや硬い)、サバイバルナイフ
スキル:空間魔法Lv.2、解析Lv1、短剣術Lv3、気配察知Lv2、隠密Lv1、冷静沈着lv2、魔獣召喚Lv2⇒3
New:格闘Lv1、君内剣Lv1
固有能力:超成熟、お買い物、多言語理解、New:能力解析
やはり超成熟のおかげだろう、レベルが一気に上がった。
その時、ボーナススキルを選んでくださいと、視界に映し出される。
①身体強化(弱)
➁騎乗術(弱)
③自然治癒(弱)
これだけじゃ何もわからないな……そうだ、解析を覚えたのか。
すると詳細が映し出される。
①身体強化(弱)、魔法耐性、防御耐性を向上させ、怪我を負いにくくなります。
➁騎乗術(弱) 、生物、機械に関わらず、基本的な操縦技術を身につけます。
③自然治癒(弱)、自己の軽傷や軽い病気であれば、一日程度で回復できるようになります。
こんなものが……。
どれも魅力的だが、いざ習得しようとなると悩んでしまう。
①は魅力的だが、効果のほどが不明だ。➁は今すぐに必要はないだろう。この世界に機械があるかどうかも甚だ疑問だ。
となると、③が安牌かもしれない。
軽い病気と言うのは気になるが、歯医者嫌いの私は虫歯がいくつかある。是非習得しておきたい。
何よりも体力が回復しやすくなるだろう……決まりだな。
「③の自然治癒(弱)だ」
『了承しました。スキルが適用されます』
すると体少し軽くなったような感覚に陥った。擦り傷だらけの身体が、ほわほわと温かみを感じる。
なるほど、これが自己治癒か。
10でボーナスだということは、次は20だろうか。
高鳴る鼓動を抑えながら、そういえばスライムは何をしていたんだと思って上を見ると、ガクガクブルブルと震えていた。
「もう大丈夫だよ」
「ぷ、ぷいにゅ……」
戦闘能力はなくとも、魔物察知能力がある。そう思えば贅沢は言えないか。
そんなことを考えていると、後ろっ! とスライムが教えてくれた。
「ピイイイー!」
見たこともない巨大なクモの魔物だ。
強そうだが、やはり恐怖はない。
「ふむ、次はどんなスキルを習得できるかな?」
私は、今まで浮かべたことのない笑みを浮かべてナイフを構えた。
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