第20話. 遠征とグランドル王国1
あの日からアリストとコウタローは日々戦場に向かっている。
「もう…限界だ。」
倒れ込むように自室のベットに横たわるアリスト。
手帳片手に、それを見守るコウタロー。
アリストはコウタローを付人にしてから既に数ヶ月、幹部としての仕事はかなり忙しくなっていた。
魔王軍の中では幹部は基本好き放題やり、相談になど乗ってくれない。何を考えているかもわからない。戦場からの要請はあっても、来るかどうかわからない。戦闘にふらっと現れて全てを薙ぎ払うと言う風潮があった。
しかし、元勇者のアリストは違った。部下が助けを求めて居れば、転移門を介してどこの戦場にも行く。これが彼女のスタイルだった。
今までは戦場で数日を過ごし、アリストに連絡がつかないなどよくあった。しかし、今はコウタローと言う付人をつけたおかげで、暇なく効率的に戦場を暴れ回れた。
「明日はゴブリン峠で他の魔王軍との戦闘に参加してもらいます。アリスト様の実力でしたら数時間も居れば一掃できるかと。それが終わりましたら、死の森で暴れ回っている冒険者達の討伐。こちらは1時間半の予定です。敵の能力、スキル、職業はこちらの資料に…」
「コウタロー!ちょっと待ってくれ。私はもう魔力切れで明日は戦えないと思うのだが……。」
「上級魔力回復薬を明日の朝服用してもらいますので他国の魔族との戦闘ではそれで間に合うかと思います。冒険者達は魔法は使わずに戦っても負けることはないと思いますので、大丈夫かと思いますよ。」
「む、無理だ。死んでしまう。もう1週間も戦場と魔王城を往復して1日数時間も寝てないのだぞ!」
「アリスト様は元勇者。勇者時代もそうだったじゃないですか。勇者なんて基本寝てないでしょ!」
「勇者は基本自由に行動できるんだ!それに勇者時代も戦場の端から端を駆けることなどしたことないぞ。お前は鬼か!」
「軍隊なんて1ヶ月2ヶ月寝れない日があるのは普通ですよ。戦場を駆け回るのが軍人ですよ。」
「私は元勇者だぞ。そんな抑圧しないでくれ。軍人じゃないんだ。もう無理だ。休ませてくれ。自由にさせてくれ。他の幹部達はそんなことやってないぞ!」
アリストは戦闘に携わらないものの命を取りたくはないが、戦場に生きるものは別、それで飯を食っているのだから多少の怪我は仕方ないと言う考えの持ち主だった。
結果アリストが当てる当てないに関わらず、大規模魔法を数発打つ。すると怪我人が数百人でた後、軍隊はビビり上がり、戦場に来るものも少なくなる。魔王軍からは基本攻めないため、停戦状態になり、結果、一番死者を出さなくて済むのだ。
「他は他、ウチはウチです!アリスト様が戦場に向かわれるお陰でウチの部隊は長生きできるんですよ。」
「そんなこと分かってる。私が戦うことで皆を救っていることも分かっているぞ。けど休みが欲しいのだー!私はもう戦いたくないよ。大規模戦場にはもう行きたくないよ。みんなが指を刺して私にこう言うの、魔王軍最終兵器、人類の敵、戦場の姫、地獄の執行人、次期魔王…もう人々からあんな恐怖の眼差しで見慣れたくないよ…他に戦闘をしないでいい方法を考えてくれーたのむ…」
アリストはわんわん泣き始めた。
「アリスト様、それでは休暇も兼ねて敵場視察なんてどうでしょうか?」
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