背負っていたのは、人類という重み

 それから数日は城下町に滞在した。

 ゴブリンとオークの答えを聞いて、それをセフィアに報告して、ついでに王様代理にも直接報告をした。

 一生会いたくないと言ったのに結局会う事になってしまったからなのか、王様代理は、にやにやと笑いながら私の報告を聞いていた。

 完全に思う通りに動いてるじゃないかと言われている気分になって、やっぱり城には行くべきじゃないなと思った。

 あまりの腹立たしさに思いっきり蹴り飛ばしてやりやくなったけど、それこそ不敬罪とか言われそうだから、何とかこらえた。

 メイは後ろで慌てふためいていたけど。


 そして迎えた、ゴブリンたちとの約束の日。

 段取りの最終確認をするために、私たちは今日も玉座の間にいた。


「本当に、段取りはそれで良いのだな?」


 今日は王様代理のそばに、控えのメイドも執事も居なかった。

 王様代理と、セフィア、メイ、リオン、そして私だけ。

 わざわざ王様代理が執事とメイドに、別の部屋へいく様に指示したのだ。


「大きな賭けになるってことくらいは、私にだってわかるわよ」

「失敗したら、その時はどうする」

「その時は私が魔物を倒す。嫌だけど、斬るしか、ないでしょ」


 手が微かに震えた。

 それでも、ぐっと握って、細く息を吐き出す。


「それ相応の覚悟があると」

「あるんじゃなくて、するしかないの。安心しなさい、失敗したらその時は、私が勝手に指示した事にすれば良い。あんたの名誉に傷つけたりなんかしないから」


 ぐっと王様代理を睨み上げると、王様代理は私を見て、笑うでもなく、珍しく真剣な顔をした。


「その言葉、違うなよ」

「当たり前でしょ」


 を庇うだとか、そんな事を王様代理がすれば、更に状況は悪くなるに決まってる。

 そうなれば国中が、人間が、魔族を余計に警戒しだす。

 最悪な未来が待っている。

 それくらい、バカな私でも想像がつく。

 先人の二の舞を踏まないためにも、いま、王様代理の名誉に傷がつくわけにはいかないのだ。


「良いだろう。セフィア、お前にやった軍を連れて、彼女の作戦の遂行を」

「畏まりました」


 セフィアが一度頷いて、それから、私とメイ、リオンに視線を向ける。

 私たちも深く頷いて、玉座の間を離れることにした。


 約束の場所である魔族が住む森と集落の間にある草原に向かい、私たちは時間が来るのを待った。

 セフィアが後ろに立ち、その更に後ろには、軍の小隊に属する兵士たちが、武器を腰に佩刀して立っている。

 誰も構えていないのは、セフィアの命令がないからだ。


 大人しく森から出てくるのであれば、護送の馬車に乗せ、魔族の領域と人間の領域の境界線まで送ってあげるというのが、私がゴブリンとオークに提示した内容だった。

 それに対して、ゴブリンたちが提示したのは、必要以上の武器を持たせない事だった。

 妥当なだ。

 散々仲間を人間に殺されてきたんだから。

 そして、私たちが考える裏切りという可能性に対しても、あちらが有利をとれる。

 武器がなければ、人間だって戦えない。

 だから魔導士も、セフィアの小隊には連れていなかった。


 皆が緊張した面持ちでいる中、森の方を眺めていると奥から影が見えてくる。

 ずらりと列を成した、影が。

 その光景に、心臓が嫌な音を立てた。

 サイトゥルに連れられて無理矢理立たされた、境界線での出来事を嫌でも思い出す。


 あの時のサイトゥルはどうしていたっけ。

 あの時のサイトゥルは…


 影が段々と近づいてくる。

 大きさが明らかに異常だ。

 ゴブリンと小型のオークが群を成しているにしては、あまりにも大きすぎるのだ。

 縦にも横にも。

 いや、あの時と比べれば、まだましかもしれない。


「セフィア中佐…」


 不安気に、一人の兵士がセフィアに声をかける。

 セフィアは鋭い視線を向けたものの、答えることはしなかった。


「いつかに、誰かが言ってたんだけど」


 ふいに、私の口をついて出た。

 何かを話すつもりはなかったし、そんな事をしている余裕も自分の中にはないと思っていた。

 けど、どうやらそうではないらしい。


「全員配置につけ、ただし、こちらからは手を出すなって、言ってた。いい?絶対、こっちから手を出さないで」


 紛れもない、サイトゥルの言葉を口にする。

 あの時のサイトゥルは、きっと、そう、今の私以上に恐怖と、そして、多くの人間の命という重みを、感じていたんじゃないだろうか。

 どうして今になって、こんな事に気が付かなきゃいけないんだ。

 想像は出来ていた。

 だから私はセフィアに言えた。


――きっと、サイトゥル達は守りたかったんだと思うんだよね、村の人たちの事。


 守るものが、守らなきゃいけないものが、こんなにも重いだなんて、知らなかった。


「…ハイシア…?」


 後ろから、メイが心配そうに声をかけてくる。

 私の手は震えていた。

 今になって知った重さに、今更泣き言も、逃げも、許されない。

 あの時と違って、私はいま、私の意思でここに居るのだから。


「どう転んでも、絶対、どうにかするから」


 ぐっと拳を握って、一つ、息を吐き出す。

 影はもう目前まで迫っていた。

 ゴブリンや小型のオークだけでなく、中には、植物の蔦を模した様な魔族の姿もあった。

 それ以外にも、図鑑で見た事があるガーゴイルの様なものもいる。

 よくもこれだけ集めたものだ。

 そうしてずらりと並んだ魔族の中で、代表で話したゴブリンが、一歩、前に出る。


「待ってたわよ」


 代表のゴブリンに声をかけると、そのゴブリンは後ろに控えている兵士を見て、あからさまにため息をついた。


「余計な武器は持ち込むなと約束したが?」

「余計じゃないから連れてきてるに決まってるでしょ。護送なんだから、最低限の兵士は必要だし、敵は人間って事だってあるの」


 想定しうることを伝えるものの、ゴブリンは取り合う様子を、全く見せなかった。

 それどころかにんまりと、口元に笑みを浮かべている。

 白眼に浮かぶ憎しみは、消えたりなんかしていない。


「知ってるかい、俺たちの言葉がわかるニンゲンさん。お前たちに殺された仲間の数を」

「知らない」

「ああそうだろうとも!だが俺たちは覚えている!誰がお前たちに殺されたのかを!生きる事すら許されないと、口にはしないがそう!せっかくの良い話だが、俺たちは気が変わったんだよ」

「それは、宣戦布告ととれるけど?」


――よもや、宣戦布告と受け取られかねないということをおわかりか?魔族の王


 あの時と同じだ。

 あの時のサイトゥルの言葉がリフレインする。

 あの時、サイトゥルは。


「そうだと言ったらどうする?」


 ゴブリンの言葉に、私は深いため息をついた。

 いや、まだ、彼らは私たちを試しているのかもしれない。

 空気を察してか、後ろが微かにざわめく。

 それでもセフィアは号令を出さない。


「で、どうするの?」


 目を細め、ゴブリンに視線を向け続けた。


「どうするって、こうするんだよ!」


 言うが早いが、ゴブリンが棍棒を持って高く飛び上がる。


「ハイシア!」


 メイが後ろで小さく悲鳴を上げた。

 とうとう臨戦態勢に入ろうと後ろでも、鎧の間接部が擦れる音がする。


「手は出すな!」


 セフィアがそれをすかさず止めた。

 迫ってくる棍棒を前に、私は動く事をしなかった。

 がっ、と、棍棒がぶつかる大きな音が響く。


「…あ?」


 飛び上がったままのゴブリンが、怪訝な表情をした。

 そして着地をすると、二、三歩後ろに退いた。


「どうして怪我の一つもしてねぇ…確かに棍棒には手応えがあったはずだ」

「殴りたいなら好きなだけ殴れば?まあ、私には傷一つ、つけられないでしょうけど」


 そう言って、とびっきりの、あっかんべーをお見舞いしてやった。


「ちっ、やっちまえ!」


 とうとう全員で襲い掛かってくる号令を、ゴブリンはかける。

 それを合図に、一斉に魔族たちが勢いよく迫ってきた。

 誰でも良いから人間を傷つけたい、殺したい、恨みを晴らしたいということなのか、後ろにいる兵士たちにも、彼らはとびかかろうとする。

 だが、すべて攻撃は透明な何かに弾かれる様にして、届くことはない。

 魔導士のいないこの場所で、そんな芸当が出来るとは誰も思わないだろう。

 おまけに、魔力が潤沢なエルフと似通っている、ダークエルフであるリオンは弓を持っている。


「あ~あ…本当に、護送の馬車だって用意してたんだけどな。残念だし、ムカつくけど、それ以上にちょっと悲しい結末だね、これ」


 深いため息をつく私に、号令をかけたゴブリンは、口元を歪めた。


――それで信じてみようって思うのであれば、それはとても悲しい事だよ


 ランの言葉の意味も、何となくだけど理解できた気がする。

 魔族の王様であるランが言った言葉の意味を、その魔族が教えてくれるなんて、随分な皮肉だと思うけど。


「今更なんだってんだ!」

「そうだね、今更かもね。けど、本当に何も知らないんだね、あんたは。長い事、魔族の領域から離れすぎたんじゃない?」


 あちこちから、何かが弾かれる音が響いていく。


「自分たちの王様が何考えてんのかも知らない。ま、無理もないよね、私たちだってそうだし。次の王様が何考えてんのか全然わかんないし、人の事を娯楽提供機かなんかだと思ってそうだし」

「なにを言ってやがる!俺たちの言葉がわかるからって、恩情に訴えるって?そうはいかねぇ!」

「別に?そういうつもりないけど」


 思う事は、それでもある。

 愚かなのは人間だけじゃないって事。


「憎しみを消せだとか、忘れろとか、許せなんて思ってないんだよ、誰も。そんなおこがましい事、人間には、思う事すら許されないんだろうね。でもさ、それで本当に大事なものを見失うのはもったいないなって思うよ」


 そこ、と私が指さすと、ゴブリンも、攻撃をやめて顔を向ける。

 私が指さした先では、あの時川に居た子供のゴブリンが、ただ不安そうに、事を見ていた。

 あの時の私と違って、きっと、戦えとは言われなかったんだろう。

 もしかしたら、逃げても良いと言われたのかもしれない。

 それでもそこに、震えながら立って、どうしていいのか分からず戸惑っている姿が、妙に印象的だった。


「…おれたちの、故郷に、帰れないの…?」


 そう、子供は言った。

 震える声で、戸惑いを発した。


「人間のまやかしなんかに惑わされるな!今更!あいつらは俺たちの仲間を、おまえのおじさんや兄妹を奪った人間なんだぞ!」


 代表のゴブリンが子供ゴブリンのそばに行き、そう叫んだ。

 後ろでは、何を叫んだかは分からないんだろう、号令を出さないセフィアに戸惑い、もどかしそうに苛立っている者もいる。

 それでも、セフィアは号令を出さなかった。


 と、不自然に、突然上空が曇り空になる。

 今にも雨が降り出しそうな分厚い、ほぼ黒と言っていい灰色の空模様になり、魔族も私たちも、顔をあげた。

 瞬間、激しい稲光と共に轟音がした。

 耳をつんざくほどの音に、メイもセフィアも、兵士たちも、周りで人間に恨みを晴らそうとしていた魔族たちも、耳を塞いだ。


「…くる」


 リオンが、一言呟いた。

 瞬間、もう一度、轟音と共に稲光が走り、それが私たちと魔族の間に落ちた。


「…なに?」


 もくもくと濃い灰色の煙をあげて視界が不明瞭になる。

 目を凝らすと、そこに、二つの影が見えた。

 人の影の様に見えるが、頭部には、山羊の角の様なものも見える。

 やがて、煙がなくなると共に頭上の分厚い雲が消えていく。


「あ、新手の魔族?!」

「セフィア様!」


 後ろで兵士たちが慌て出す声が聞こえた。

 ゴブリンたちと私たちの間に立つのは、燕尾服を着た頭が山羊の魔族と、メイド服を着た頭が牛の魔族だった。

 図鑑でも見た事がないような、恐らく高等の魔族だろう。


「ハイシア、どうしますか?これ以上は――」

「待って」


 セフィアも判断しあぐねているのか、焦っている様だった。

 セフィアに待ったをかける私に、その二人の魔族は視線を向けてくる。

 が、一瞬だけ、後ろに居るリオンに視線を向けた。


「ま、まさか、魔王様の…見ろ!魔王様だって人間が憎いに決まっている!だからこうして援軍を――」


 私たちを嘲り笑う代表のゴブリンの言葉は続かなかった。

 燕尾服の方が、そのゴブリンの腕を掴むと軽々と捻り上げた。


「いでででで!」

「騒がしい…実に、耳障りだ」


 燕尾服の方の言葉はメイたちにもわかる様で、その低いテノールの声に、みんなが戸惑い、ざわめいた。


「人間、少々騒がせるが、静かにしていてください」


 メイド服の方は、いかにも知性溢れる落ち着いた女性の声だった。

 長いスカートを両手で持ち、人間のメイドの様に頭を軽く下げる。

 かと思うと、燕尾服の魔族が取り掛かる行動を手伝い、あっという間に、ロープで魔族を縛り上げていく。

 殺すでも、狩るでもなく、拘束しているのだ。


「あ…あ、え…あ…」


 残ったのは、子供のゴブリンだけだった。

 何が起こっているのかまるで分かっていないのか動けずにいる様で、目の前に迫る、自分よりもうんと大きな体をした燕尾服の魔族相手に、殆ど固まっている状態だ。

 燕尾服の魔族の手には、ロープが握られていた。


「待って!」


 咄嗟に一歩前に出る。

 燕尾服の魔族と、メイド服の魔族が私に視線を向けた。

 動物と同じつぶらな瞳をしてはいるが、その目には、容赦というものがない。

冷たい目だ。


「その子を拘束する必要なんてないでしょ。その子、怖がってんじゃない」


 私の言葉に、二人の魔族の視線が、私と子供とを行き来する。


「魔王様の命令のままに、我々は動くのみ」

「じゃあ何もしてない、ただ同じ仲間だからってだけで連れてこられたかもしれない子供まで拘束しろって?あんたたちの王様、そんな事言ってるワケ?」


 燕尾服もメイド服も、暫く考える様に動かなかった。

 それから少しして、結論が出たのか、燕尾服の方がロープを持っていない腕を子供に回し、抱き上げる。


「人間、図に乗のらないでくださいね。これは我らが王、ランディオル・ユル・ザンサス様の気まぐれによる思い付きと慈悲なのですから」


 メイドの方が、私に近寄り圧のある視線を向ける。


「それはどうも。その慈悲に感謝するって、伝えといてもらわないとね」


 私も負けじとメイドを睨み返した。

 ウシ頭だけど、立派な角を持ち、目には女性らしさもある。

 圧が凄いだけで。


「我が魔王様より、人間どもに文書を預かってまいりました」


 メイドが差し出してきたのは、綺麗に丸められた羊皮紙だった。

 正式な文書というやつらしく、私はそれを受け取ると、セフィアに渡す。


「これ、こっちの王に見せて良いものよね」

「はい。我が王は人間の代表であれば誰でもよいと」


 人間の代表。

 少なくとも、勇者の個性を持つ私とは無縁の言葉だと、思いたい。

 代表が魔王様を殴りに行くなんて、それこそあってはならない話だろうし。


「彼らは我々が、我々の領域に連れて行く」


 ゴブリンの子供を抱えた、山羊頭の執事がそう言う。


「に、ニンゲン…あ、あり、ありが、とう…」

「――なーに、言ってんの。お礼を言われる筋合いなんてないし」

「…うん」


 言った事が分かっているのかいないのか、執事に抱きかかえられたゴブリンの子供は、歯を見せて笑った。


「わ、笑った…」

「魔族が笑った…」

「いや、ゴブリンが…?」

「う、嘘だろう…?」


 兵士たちは前代未聞のことに、また驚いている。

 セフィアの隊に配属された兵士たちも、運が悪いと言うべきか。

 知らなくていい事を知ったとも言えるし、新しい発見をしたとも言える状況に、私は肩をすくめた。


「安全確認のため、中を拝見させていただきました。この書状は、必ずや、この国の王にお届けいたします」


 セフィアが二人の魔族に向かって敬礼をする。

 二人の魔族は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにまた動物特有のつぶらな瞳に戻ってしまった。


「では、騒がせました、人間ども」


 メイドがそう言うと、魔族二人は、ロープでくくった魔族たちもろともその場から消えてしまった。

 潤沢な魔力を持つ者は、詠唱も魔法陣もなしに魔法を使える。

 恐らくあの二人の魔族は、その魔法で、一瞬にして魔族の領域に戻っていったのだろう。

 なんとも派手な登場だったのは…

 気分かもしれない。

 格好はつくし、意表を突くことも出来る。

 暫くの間、私はじっと、彼らが今までいた場所を眺めていた。


「…ハイ、シア…?」


 メイが遠慮がちに私に声をかけてくる。


「…もどろっか」

「…あの、だい、じょうぶ?」

「大丈夫じゃない。ムカつく。ムカつくけど、なんか…はあ~…」


 言葉にならないこの感覚をなんと例えようか。

 今回は大事に至らなかったけど、これがもし、本当に失敗していたらと思わずにはいられない。

 約束されていない勝利も未来も、不安でしかない。

 その中でサイトゥルは、私が感じたその何倍もの重圧を抱えて生きていたのかと思うと、今更、その重大さを思い知らされた。

 そして同時に、諦めた様に笑ったランの気持ちも、分かった気がした。

 こっちがどんなに力を尽くしても、ダメなときはだめなのだ。

 負ける。

 それが同族相手なんて、どんなに孤独だったのか。


「よくやりましたよ、あなたは」


 セフィアが、ほっとした表情で微笑んでくれた。


「まさか魔族の中に、あのように動く者がいたのは驚きですが」


 ランの事は、言わないでおいた方が良いんだろう。


「それ、なんて書いてあるの?」


 セフィアが手にしている綺麗に丸められた羊皮紙を指さすと、彼女は首を横に振った。

 後ろにはまだ兵士たちが居て、恐らく、聞かれたら不味い事なんだろう。

 公式な発表がうんたらかんたらとか、多分、そういう、私にはわからない部分だ。


「帰りましょ~!もう疲れた、寝たい、サボりたい」

「あなた、何をサボるんです?もうサボるものもないでしょうに」

「そうだけど~…」

「よ、良かったぁ…いつものハイシアだ」

「メイは私の事を何だと思ってるの」

「え?えっと…面倒くさがりな勇者?」


 言えてる。

 歩き出す私たちに続いて、兵士たちも動き出す。

 兵士たちは、まるで夢の中にでもいたかのような面持ちをしていたけど。

 リオンはいつもと同じようにぼーっとしている。

 私は、そんなリオンに視線を向けた。


「?」


 ふと視線があって、リオンが首を傾げる。


「なんでもなーいー」


 間延びした声で答えると、リオンはただ「そうか」とだけ口にした。

 あの時、どうして魔族二人は私よりもリオンを見ていたんだろうか。

 そんな疑問が浮かんだものの、それは弾けて消えた。

 どんな理由だったにせよ、リオンは旅の仲間であり、私の魔法基礎・実技の先生である事にかわりなんてないのだから。

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