第5話

 毎日、十八時間の勉強をこなす、希和子きわこは元々の出不精でぶしょう、人見知りの性格がこうそうしてか、順調に成績の上昇、医学部への適性率を上げていった。


 内部進学の医学部受験は、成績の上位五人中から行われる。

「うん! この調子なら、医学部も射程圏内だ」

「でも、最後まで気を抜いては駄目。まだ内部進学者試験までは数週間ある。それまではこの生活を続けなくっちゃ……」

「希和ちゃん。合格したら、何をする?」

 希和子はまだ合格してもいないのに、まだ早いと思った。だが……。

「お母さんに……、会いに行く……」

「いい報告ができるように、僕も手伝うよ」


 試験当日。

 特に、体の不調はない。自分でできるところはやってきた。後は信じるだけ。

 試験から数週間後。

 校長から呼び出しがあったため、校長室へ向かった。

「しっ、失礼します……」

 校長室には、陰光いんこう大学付属陰光中学・高校校長のジョージ・アールヴと同じく中学・高校の副校長のメルタ エーマンがいた。

閏間うるま 希和子きわこ。おめでとう、陰光大学医学部医学科への内部進学を認める」


 面と向かって、合格を言われたのは初めてだったが、心の中でどこか縛りつけられていた部分がほどけた。

 希和子は家に着き、家の扉を開けた。そこには、ピエールだけでなく数人が家に入ってると靴の数を見て気づいた。

 リビングに続く扉を開けると、明かりはついているものの誰もいなかった。

 そこに。

「希和ちゃん、おめでとー!」

 別室で隠れていたナタリアとピエール。また、そのほかの医学部仲間と同僚がいた。

 みんな、私のために来てくれたのだと思うと、涙が出てきた。

 その顔は、年相応の九歳の顔つき、表情だった。


「どうしたの!? 希和ちゃん?」

「ナタリアが急に飛びかかって来たから怖かったんだろう」

「いや、絶対違うと思う。お腹が空いたから、泣いちゃったんだよ」

 付き添いで来た人たちの言うことが違うとツッコミたかったが、それよりも自分が人見知りなのにも関わらず、こんなにも、自分の想像よりも多くの人へ影響を与えていたのだと感じた。


「とりあえず、今日は焼肉だよ! 希和ちゃんの分はもちろん、ピエール先生が支払ってもらいます。ち・な・み・に、私の分は、チェン先生に支払ってもらいます」

「なんでだよ!」

 すでに大学四年生のナタリアだが、ある程度の蓄えはあるでしょうとツッコミたくなった。


 希和子達は、焼肉屋さんに向かった。

「僕、何頼もうかな~」

「ピエールは、あまり運動しないので、カルビは食べないでください。ハラミは二枚まで。豚肉、鶏肉、ジンギスカンちょっと。あと、野菜もお肉の前にはきちんと食べてください」

「あーー、はははっ……。僕に選択の自由はないんだね」

 毎日、長時間の勉強をしていたため、あまり家事に関わることができなかったため、できるだけ今日からでも、ピエールの健康に対する三日坊主の精神を再び叩き直そうと奮闘する。

「すっ凄い! 希和ちゃんが燃えている! それもまた良い!」


 食事が進み、お酒が回ってきた時間になってきた。

 お酒に対する強度は人それぞれだが、一人だけ泥酔でいすい状態となっている者が一人いた。

「うゎーん! 希和子ちゃんが九歳にして医学部とか、もうすぐに越されちゃうよー!」

「ねぇ――どうしよう、チェンせ――んせ――」

「それはお前のやることだ。俺が関わることではない」

「でも、私……。留年しそうなんです。なんとか、してくださ――い!」

 チェンは少々イラついた。

「お前が自分でやれ――――――!」

 あんな怖い先生は怖い。もともと、怖いが怒らせたら、死を感じそうだ。

「うん、もう眠いぃ――」

「あ! ピエール、起きて!」

「チェン先生……。そろそろ……」

「あぁ、そろそろ解散とするか。みんな起きろ、帰るぞ!」


 その後、会の参加者達はペアとなって、路上で寝ないようにと帰宅をした。

 自宅に着いたピエールと希和子も夜の支度をし、就寝した。


 後日。

 希和子とピエールは希和子の地元を訪れた。

 希和子の母と会うためだ。


「ただいま……」

「お帰り……、全く心配かけて……」


 母親には説明をし、今後も陰光大学への通学が許可された。


「今度、お母さんも、学校、見に来てよ」

「ええ、そうするわ。先生、今後ともよろしくお願いします」

「あー、そんな堅苦しいのは……。ですが、大切なお子さん。しっかり、ご指導いたします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る