第4話

 入学式当日。


 希和子きわこは初めて学校の制服というものに袖を通した。

「はーー、かっかわいい! 希和ちゃん……。めっちゃ可愛いよー!」

 陰光いんこう大学医学部医学科三年のナタリアは入学式ということで、式典に保護者役として出席するために、ピエールの自宅へ来ていた。

 無類むるいの可愛いもの好きのナタリアは、先日も自分のお下がりであるロリータファッションのワンピースを着せたところ、しばらくの間、ナタリアに抱き寄せられ希和子には自由が無かった。

 今回も予想通り、抱きしめられていた。

「ナタリアさん。あまり希和ちゃんを締め付けないようにね。人と接触するのが苦手な子だから」

「はーい!」

 ピエールが長時間拘束しないようには言ったものの、十分程は拘束されたままだった。


 拘束こうそくかれ、希和子はやっと解放された。

(何にも締め付けられないのがいいよ)


「それじゃあ、行こうか」

 ピエールは仕事があるため、すでに家を後にしていた。

 希和子とナタリアの二人は陰光大学付属陰光高校へ向かった。


 陰光大学付属陰光高等学校は、いろは順で七クラスまである。一クラス三十五から四十人ほどがいる。内部進学者は一クラス半分ほどいる。だが、この学校は飛び級制度を利用している生徒も多くいるため、年齢と学年数が比例する生徒が四分の一程度。希和子もその中の一人。

「希和ちゃんはこんな大きい学校通ったことないでしょ」

「うん」希和子は頷いた。

「陰光大学はね、基本的には自由な学校だよ。勉強が得意な人はどんどん学年が上がっていくし、学校外で勉強したいっていう人は海外に行くし。希和子ちゃんは、何かやりたいことがある?」

 将来的な質問に希和子は少々悩んだ。そして、小さい声で答えた。

「分からない……。けど、何かなりたいって……気持ちがあるから……、学校に行く……。これから考えるの……」

「そっか。ちなみに私はね中学時代、お世話になったから、医学部に進学したんだ!」


 二人は学校に着くまで、ナタリアの進路選択の話について聞いた。


 入学式。

 新入生祝辞、保護者挨拶など粛々と執り行われた。


 夕方。

 希和子とナタリアは学校近くのアジア料理店へ夕飯をしに来た。

「希和ちゃん。私の友達とか教授とか数人来るけど、大丈夫?」

「喋りたくないので……、喋らなければ……いい、です……」

「分かった」


 三十分後……。


「ナタちゃん、おはよー!」

「おはよー!」

 集まる約束をしていたナタリアの友人と教授が来た。

 こんな夕方過ぎでも、朝の挨拶をするのだと思った。


 特別、話をしなかったもののナタリアの姿を見て、友人などの信頼感があると、本当は、人生は楽しいのだろうと思った。


 帰宅後、希和子はすぐさま高校の勉強に取り掛かった。


 数日後。


「希和ちゃん。学校での選択はどうする? 文系? 理系?」

「私は……、ピエールやナタリアさんみたく……、おっ、お医者さんに……なり……たい……っ」

「勉強は大変だよ。それでも、医師になりたいの?」

「うんっ。私は、勉強しか……取り柄が無いから……っ、今の自分では……何をやっても。楽しくないの。けど……、だけど……、私はこれだけしか、したないから。だから、私は、医学部で勉強したい」

「僕も医者だからできる限りは、協力するよ!」


 以降、希和子は次々と進級を勧め、一年後には医学部受験へ勉強をしていた。

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