第3話

「ただいま、戻りましたーー!! って、かっ、かわいい!」

 帰ってきたナタリアが戻ってきたのは、着ないからとおさがりをもらった、ロリータファッションの服だった。普段使いもしやすいワンピースだが、元の顔や容姿が華奢きゃしゃであったりと、まだ八歳である可愛さもありつつ、ナタリアにとっては自分の想像を軽く超えた天使。それをも超える女神的存在となった。

希和子きわこちゃん。一生ついていきます!!」

 ナタリアは買い物袋を上り框に置いていく靴を足で引っ掛け脱いだ。

 手を洗っていない手にも関わらず、ナタリアは希和子の左手を両手で包み。

「あっ、あ、はぁ……」

希和きわちゃんが困っているよ。そこまでにしてあげなよ」

「は! いけない、いつ……。でも、とても可愛いよ、希和子ちゃん」

 希和子も実際のところ、ロリータファッションに興味があったため、今回提供された服を見て、念願であったロリータファッションを着ることができると、心の底では少々舞い上がっていた。


 買い出しから帰ってきたナタリアは、夜は友人たちと食事に行くと言い、ピエールの自宅を後にした。

 二人は再び片付けの準備をし、昼食後にはある程度終えていた。

「希和ちゃん、ここらへんの土地感ないよね? ちょっと、散歩する?」

 出不精な希和子は大学の周りならとしぶしぶ了承した。

「ここが僕の職場、陰光いんこう大学医学部付属病院だよ。僕の専門は脳神経外科だよ。一階にみんな受付とかがあるよ。後は食堂とか、患者さんの入院施設とかだね。裏にも建物があって、そこには小児科の患者さんがいたりするんだ」

「ピエールは……、この学校を、卒業……したの……?」

「いいや、僕は海外の、ヨーロッパの生まれだからそのまま向こうの学校を出たんだ。遠い親戚の人が学校関係者だから、その誘いでこっちに研修医からいるんだ」

「一人でいて……寂しく……ないの……?」

「寂しいはないかな。たぶん、仕事が忙しくて大変だけど、今朝もそうだけど、チェンや同僚、街学生とか。僕には沢山の友達がいるから。希和ちゃんは?」

「分からない……。一度、何かを失うと……、何も無いと……思ってしまう……。それが、今、一番怖い」

 希和子の暗い顔を見て、ピエールは左手を取った。

「しばらくは、気ままに過ごせばいいよ。僕もいなくならない」


 ピエールと希和子は学校とその周辺を散歩した。

「ここは……?」

 希和子は立ち止まり、指を指した。

「ここは、陰光大学付属中学だよ。陰光大学は小学校から大学まである学校だからその分敷地面積も広いんだ。意欲があればだれでも入って勉強できるし、飛び級もできるよ」

 特に反応というものはなかったが、彼女の眼は少し輝いているようにピエールは見えた。


 散歩が終わり、帰ってきた二人は自宅へ戻ってきた。

「あー。夕食か憂鬱ゆううつだな」

 ピエールはため息をついた。

 何を作るのか興味があったので、後ろで見ていた。

「はい! ご飯だよ」

 そこまで期待していなかったが、お米を炊くことができるのだと少々独身男性ピエールの家事能力を評価した。

 しかし、見た目でご飯だけというのは物足りないと感じた希和子は、フライパンと鍋。そして、その他の材料と器具を出し、何かを作り始めた。


 二十分後……。

「どう、ぞ……」

「きっ、希和ちゃん……! 僕、感動しているよ。もう、希和ちゃん無しじゃ、生きていけないよ~~」

 椅子に座りながらピエールは希和子を抱き寄せた。

「ベタベタと……触られるのが嫌なので、さっさと食べてください……」

「急に冷たい! でも、早く食べないと冷めちゃう。希和ちゃんも食べよう」

 食卓を囲んだ二人は共に夕食を食した。


 後日、チェンとピエール。そして、陰光大学付属病院の精神科医の三人は希和子の母とテレビ通話をして、現在の状況と精神科医が診察をした結果を伝えた。

 医師によれば、彼女の受けたショックが大きいため、しばらくは休ませることを優先にするという話をした。現在、男性と同居しているということはいかがわしくとも捉えられてしまう恐れもあるため、大学付属のマンションに住んでいると説明をした。

 そして、母親がもっとも心配していた学業に関してだが、散歩をしたときに付属中学校へ興味を持ったことやピエールの仕事に興味を示したことからトラウマというほどの学校に関する拒否反応が無いと見たピエールが陰光大学付属の学校へ転入することを勧めた。

 いきなり、別居の状態になったこと。希和子への接し方は荒っぽかったと反省するも、すぐには受け入れられなかった。しかし、やむなく自分が動かなければ彼女の将来と才能を奪ってしまうと思い承諾した。


「希和ちゃん。付属中学の試験受けてみない?」

「でっ、できる……の?」

「試験は二年に一回行われているから、四月入学に向けての試験がもうすぐあるからどうかなと提案してみたんだけど……」

 ピエールは希和子の反応を伺った。


 希和子は口を開いた。

「試しになら……、いい……です、よ……」

 急な敬語だったが、今月中にも試験を受けることになった。


 そして、試験当日。

「短期間ではあるけど、できる限り勉強をしてきたから、自信を持って自分の実力で受けてみればいいと思う」

 ある程度の準備が必要だったため、ピエールは遠い親戚の副校長から問題集をもらい、マンツーマンで勉強をした。


「頑張ってきて」

「うん……」


 一週間後。

 郵送で届いた試験結果に希和子は驚いた。

「春からは高校生……」

 後日、副校長から話があり、一か月もない中で中学の範囲をほぼ理解しており、成績が良かったため、春から高校に入学することとなった。


 ここから希和子の新しい生活が始まった。

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