第2話

 

 まず自分は、あの一件で前世を思い出した。

 そして真っ先に自分にいや、人類にとっても重要な事も思い出した。


 この世界は「悲しみの蘇芳花(スオウバナ)」の世界であることを。


 前世の世界でコアな人気があったRPGゲーム。

 舞台は魔法がある中世で、主人公クレアが多くの壁にぶつかりながら勇者に覚醒して魔王を倒すと言う、これだけ聞けば王道中の王道のストーリーだ。


 しかし王道にしては少し違和感を感じるだろう、タイトルからどこか暗そうな印象を受けて。


 それは全くもってあっている。

 「悲しみの〜」の時点でそんな雰囲気が出ているが問題なのは次の蘇芳花。


 この蘇芳花はハナズオウと言う花の別の呼び方だが、花言葉には『裏切り』と言う言葉がある。

 そして主人公クレアがその裏切りにあってしまう。




 では誰がクレアを裏切るのか?




 それは彼女の幼馴染であり親友でもある──偽勇者カイト。



 今から約一年後、偽勇者である自分はクレアを厄災を呼ぶ者として国から追放し、そして彼女を息の根を止めるために追い詰めていく。

 元々仲が良かった二人は時が経つに連れてドンドン仲が悪くなっていき、最終的には唐突に宣言された追放で破局する。

 クレアはその後国からの追跡を逃れながら、逃げた先で多くの人と出会い仲間に会い、強くなっていき魔王を倒す。

 自分がゲームをした時はこんな流れになっていた。


 当然今の自分にはその気はない。


 




『───自分の父親が敵』





 

 そう、自分は父親のせいでクレアの敵になる。



 暗闇に塗りつぶされた空間に一人棒立ちする俺は突然流れた前世からの知識と、その情報の異常性に困惑していた。


 前世の自分はロイの事を魔王を崇拝する人間───敵と確信している。


 だが今世の自分は、今まで接してきた優しくて温かいお父さんの姿が頭から離れられず、父親は敵ではないと確信している。


 自分の心の中に相反する二つの人格のせいで自分が混乱している。




 瞬間、目の前にノイズが走った。




 黒に塗りつぶされていた目の前の空間から白黒の画面が映し出される。

 昭和の昔のテレビを彷彿させるような画面は砂嵐の音を大音量で響かせながら、中に二人の人間を映す。



 俺とクレア。



 だがそこにいつもの雰囲気は無かった。

 二人が立っている所からその周辺へと見える範囲が広がっていき、あらわになるのはボロボロになった城内の風景。

 壁にはひびがついてて、割れた窓からは火の手が見える。



 そして二人の間には殺気が、手に持っている剣は真剣。

 いつもの一騎討ちではない。それはまるで──



(殺し合いじゃないか)



 自分がそう思ったと同時に映像が飛ぶ。



 飛んだ後に映ったのはボロボロになった二人だ。

 それが映ってから画面に色がつき始めて、火が燃える音、何かの瓦礫が落ちる音、二人の呼吸が聞こえ始めるようになった。


 クレアは怪我まみれながらも足で地面に立っていて余裕さえも感じ、それに対して俺は床に這いずっているままだ。


 誰がみても勝者は分かりきっていた。


『なん、で俺がクレアに負けて……』


『……カイト、私と戦った時に勇者の殆どの力を失ってた事に気づいてた?』


 無様な俺に対して悲しそう顔をして近づいてくるクレア。彼女の一歩一歩進むときの音が何故か虚しく感じる。


『私、追放されてから何回もアンタと戦って気づいたことがあるの。時が経つに連れて私とあなたの実力差が縮んでる事を』


 コン、コン、と足音が広がる。俺はクレアの言葉を黙って聞いているだけだった。


『最初はただ特訓した成果だと思ってた。でもとある村を訪れた時にそれは違うって分かったのよ。──私が本当の勇者だって事に』


 俺の近くまできた彼女はしゃがみ、動けない俺を仰向けにして彼女の手が僕の額へ触れた。


『カイト、あなたは操られてる。目を覚まして───クリア───』


 彼女が発音した瞬間、額の手から光が溢れ出す。僕が気絶する前に発動させたライトの魔法と殆ど同じ光が。


 それは勇者の証。彼女こそが今代の真の勇者である事を僕に取り憑いていた闇の魔力を消し去る事で証明してみせた。


『……僕は?』


『カイト、大丈夫?』


 カイトの体からは傷が消え、さっきまで苦しそうだったのが嘘のように穏やかな顔になっていた。


『ああ、確かクレアを追放して、それから……ごめん。あの時から何か悪夢みたいなものにうなされていたんだ。自分なのに自分の意思で動いていない……誰かに操られていたような』


 田舎の村出身である彼女は城に居場所は殆どなかった。


 そんな彼女の居場所になってくれたのは、幼馴染の自分と拾ってくれたロイ大臣の二人。他にも何人かは居るがこの二つが大きな居場所なのは確かだろう。


 その居場所を壊したのは自分だった。


『大丈夫、分かってるわ。あんたが今までやってきた事はあなたの意思じゃない。ロイがあなたをこんなふうにしたのよ』


 世界で旅をしたからか前の交戦的な威勢は引っ込み、今は優しさを感じるようになった。

 しかしカイトはその変化には気付かず、代わりに彼女のとある一言が彼を驚かせていた。


『ロイが……?』


『ええ、あなたが。みんながおかしくなったのはロイのせい。彼は洗脳の魔術を使って──』


 ──残念だ。


 その声が聞こえた瞬間、僕達は謎の重圧を受けて体が一切動けなくなる。

 そしてこの魔術を使った主がこの場所に現れた。

 いつものどこか苦労人臭がする優しい男ではない。機械のように無表情で氷のような冷徹さを感じる、クレア追放騒動の黒幕。


 ロイ大臣。


 彼を見たクレアは、優しい感情を引っ込ませて怒りをあらわにする。彼女が追放されてから、ロイ大臣の所為で犠牲になった人はたくさんいた。


『おまえっ……!』

 

『声の威勢はいいが、その状態では何も出来まい。目の前に仇がいると言うのに無様だな』


 ロイ大臣の強力な魔術は、勇者として覚醒しつつあるクレアでさえ動きを封じ込めている。当然彼女より弱くなってしまったカイトも同様だ。

 その姿を見てロイ大臣は特にバカにするわけでもなく、淡々と話を続ける。


『カイト、先に言っておくがクレアが言った事は本当だ。お前を洗脳して彼女を追い詰めたのは。……勇者である彼女は魔王にとって一番の天敵。その力を出させない為に嘘と洗脳を使って彼女を悪という存在に仕立て上げた』

 

『本当だった、のか……なら何であの時助けた?』

 

 あっけなく暴露された事実にカイトの顔は驚きに染まるが、そうなると一つおかしいことがある。魔物が村に襲撃した後のことだ。クレアが勇者と分かっているなら何故助けたのか、その答えもロイ大臣が教えてくれた。


『簡単な事だ。勇者になれるのはその代で一人だけで、今回は彼女だった。そして彼女が死んだら別の人間に勇者になる権利は移る。そうなると探すのが面倒だからな、監視する為にあえて助けた』


『じゃあ村や城で色々助けたのは全部──』


『魔王を復活させる為にしただけだ。全部演技で、必要でなければお前は作らなかったし、クレアもすぐに殺した』


 ロイから発せられた氷のような冷たさを連想させる声と、今まで大切にしてきた思い出をハンマーで壊されるような衝撃は、カイト達の顔を驚きから悲しみへ変貌させる。

 だが最後の方に、カイトにとってどうしても聞き捨てられない言葉があった。


『僕が……作られた?』


『ああ、疑問に思わなかったのか? 何でお前には両親がいないのか。何でクレアではなく自分が勇者の力を使えたのか。言っただろう、クレアを勇者にさせない為だと』


 カイトの耳には今までの人生で積み上げたものが崩れていく音が聞こえるようだ。



 

 そしてトドメを刺すようにロイは言った。




『お前はクレアを勇者にさせない為に作られたホムンクルス。勇者の劣化品さ』




『……』


『カイト……!』


 その言葉にカイトは何も言えず、ただ沈黙した。

 今まで作り上げてきたものが全て偽物だと否定されて、自分がロイの道具として作られた事実に彼は、黙ることしかできなかった。

 その姿を見て興味を失ったのか、ロイは仕上げと言わんばかりに右手を出す。


『じゃあ最後に冥土の土産として教えてやる。お前は魔力も使用して作られた道具だからな、こうすることもできるのさ。──オーバーロード──』


 ロイが呪文を言ったと同時に指を鳴らすと、カイトの体が突然光り始めた。

 まるでカイトの身体中の魔力がはち切れんばかりに循環して暴走しているような───


『!』


 今自分の中で何が起きているのか察したカイトは最後の力を振り絞り、重力の魔術に逆らって後ろにいるクレアを精一杯吹き飛ばした。


『え……?』


 吹き飛ばされたクレアは突然の事に思考が固まるが、声が出せなかったカイトの口の動きははっきり見える。



 ありがとう。



 そう言い終えた瞬間に、
























 パンッ





















 軽い音とともに、カイトの体は頭から爆発した。























 


「はぁっ!!……はぁ、はぁ」


 頭が爆発した直後、自分は暗い部屋の中で目が覚めていた。


 ひどい夢だ。というより悪夢そのものだな。

 お陰で体は汗でベタベタ。今着ている服もベチャベチャで、気持ち悪さに拍車をかけている。

 夢とは言え自爆するのを体験したから、運動したわけでもないのに心臓がバクバクしてて息苦しい。


「大丈夫カイト!? 汗がすごい事になってるじゃない」


 そんな自分に声をかけてくれたのは幼馴染であるクレアだった。

 いつものニヤリ顔ではなくただただ心配してくれる彼女を見て自分はホッとした。


(あぁ、怪我は無いな)


 夢だとはわかっているが、妙に現実味があったが為にクレアの姿を見て安堵する。

 自分が倒れたのを聞いてからずっと看病してくれたからか、彼女の服をよく見れば一騎討ちした時の鎧の姿のままだった。


 見てくれたのは嬉しいけど、服着替えないと匂いつくぞ。とは思ったが看病してくれたクレアに対して流石にそんな事は言えない。

 そんな風に思っていたら心に余裕が出来たのか、いつもの様に話しかけていた。


「お? 俺を心配してくれるのか」

 

「む……何よ。割と元気あるじゃない。流石は勇者様ってところね」


「……まぁな」


 口をムッと膨らませるクレアだが彼女が発した勇者という言葉で、あの悪夢のことを思い出す。




 ── お前はクレアを勇者にさせない為に作られたホムンクルス。勇者の劣化品さ──




 自分を否定するあの言葉は、自分の心臓を締め付けるような辛さがあった。




「クレア、カイト。入るぞ」


 突然得た知識に対して自分が落ち込んでいると、入り口から声が聞こえてロイ大臣が入ってきた。


「お……お父さん」


 夢でやられたことがよぎって、一瞬口が止まるがなんとかロイ大臣を呼ぶ。

 その事を周りに兵士がいないか心配しているとロイは勘違いした。


「おっと、この部屋付近は自分たち以外いないぞ。防衛はクレアだけでも十分だからな」


「ロイ大臣さん……」


 サラッと褒められた事を嬉しがるクレア。

 カイトは勇者のイメージを崩さないように皆の前では基本的にお父さんと呼ばずロイ大臣と呼んでいるようにしている。


「とりあえず傷についてだが、すでに治っている。勇者の力のおかげだな。しかし次のドラゴン退治は一時中止だろう、流石に頭にダメージが──」


 そういえばドラゴン退治の事があったな。頭に傷がついたんじゃ戦闘自体避けるべきだろうが──



『カイト!』



 ──あんな夢見せられたんじゃあ、クレア一人には任せられない。


「問題ない」


 ロイの言葉を遮り、ベットから体操選手のように空中で綺麗にバク転を決めスタっと静かに地面に着地したカイトは、バッサリとそう言い放った。

 その後に腕や足をぐるぐるさせていつも通りのニヤリ顔を見せる。

 起きた時からなんと無く分かっていたが、ほぼ治っているし後遺症もない。


「この通り光の力も体の調子も健在だ。なんならドラゴン退治は俺が一人でやってもいいぜ」


 サラッとすごい事をやってのけた直後のこの余裕ぶりを見た二人は一瞬固まるが、一騎討ちの時と同じようないつもの調子に戻ってきた。


「相変わらず体の強さは変わらないな」


「当然、自分は勇者だからな!」


「光の力ってホント羨ましいわね……」

 

「だが念のためだ。明日の一騎討ちで様子を見る。ドラゴン退治に行く行かないを決めるのはそこからだ。それでいいな」


「無論そのつもりだよ。まぁ確実にドラゴン退治に行けるだろうけどね。明日も俺の勝ちだし」


「へぇ〜起きたらすぐ調子に乗るわね。いいわ、明日は私がボコボコにしてあげるから待ってなさい」


 ニッコリしながらイライラオーラを出してくるクレアは、先程までの心配もほとんどなくなりロイも念の為とは言っているが、話している様子からして問題無いだろうと思っているだろう。


 





「じゃあ明日はいつも通りに」


「分かってるよ父さん。お休みなさい」



 そのあとロイからは今日はもう寝なさいとキツく言われ、カイトも特に起きてる理由はないので素直に従う事にした。

 すでにクレアも自室へ戻っており、近くにいるのはロイが部屋の外に護衛としてつけてくれた兵士達だけである。

 火が消えて真っ暗な部屋の中、カイトはベットの上で夢の出来事を振り返っていた。


 

 あの夢での行いは間違いなくロイが敵だと示している。前世の記憶通りで進むなら、クレアや人類に大打撃が来るのは間違いない。

 そう考えると父は倒さなければならないと思うが。




 ──本当にお父さんは敵なのか?




 カイトは迷っていた。

 そもそもあの夢がこの世界でも必ず起こるとは限らないし、それ以前に『悲しみの蘇芳花』と同じ世界だともいえない。もしかしたらとても似ているだけで実際は全く別の世界かもしれない。

 

 頭に流れてきた知識が中途半端なせいで、今まで接してきてくれたお父さんの優しい姿を思い出していると、敵だとは思えなかった。


(何か証拠があれば)


 父さんが敵ではない証拠。今はとにかくそれが欲しい。正直夢を見せられただけで今までの出来事をまるっきり否定できない。何せ実感が湧いてこないからだ。


(そういえばゲームのラストでクレアはどうなるんだ……?)


 そして自分は何か大切な事を思い出せていない気がする。あのゲームのラストで確か、とても悲しい終わり方をするような──


 カイトはその後も必死に思い出そうとするが結局分からず、気づいた時には眠りに落ちていた。

















 そして翌日。



 目が覚めた僕は早速鎧を着て、昨日と同じ中庭へと歩いていた。

 朝の城内の道は夜とは真逆で活気にあふれている。目が眩むような日差しと鳥のさえずりで自然の暖かさを感じれて、体の元気が溢れ出るようだ。時々見れる花も元気いっぱいに咲いていて、見ているこっちも自然と心が安らぐ。


「おい、またあいつ一人で特訓してるぜ」


「あの女田舎からきた人のくせに生意気だ……」


 そんな風に気持ちよく歩いていたら、不愉快な陰口が聞こえてきた。


 中庭で昨日の一騎討ちの反省点を改善しようと頑張っているクレアが見えかけた所で聞こえた声は、この朝を台無しにするには充分だった。


(またか)


 だがこの光景も見慣れたもの。

 ロイ大臣に拾われた形で城に住み始めた僕とクレアだが、田舎の村出身というのが気に食わないのか、城の大半の人たちは僕たちをよく蔑んでいる。

 自分が勇者として堅苦しい言葉を使っているのも、しっかりした人だと周りに見せてなんとかこれを改善したいと思っているからだ。

 他にも改善策として、魔物退治なり実績を残して認めてもらおうと頑張ったが、むしろそれは兵士たちのプライドを悪く刺激してしまったのか、こういう陰口の頻度も増えてきてしまった。

 勿論全員がこうではない。確かゲームでクレアが追放された後でも、城で何人か味方になってくれてた人がいた気がする。それでクレアの冒険について行く人も中には出て……


なんにせよ、目の前のこれをそのままにするのは気分が悪い。そう思って注意しようとするが──



「君達何をしているのかね? こんな所で」


 ロイ大臣が先にそれをしてくれた。

 声をかけられた兵士二人は不機嫌そうな顔をしながら振り返るが、声をかけてきた人の顔を見て驚きに染まる。

  

「そ、それは……」


 まさかロイ大臣から声をかけられるとは思わなかったからだろう。兵士は返答に困りどもどもして、その姿を見て呆れたロイ大臣はため息を一切隠さずに吐く。

 そして冷たい目で彼らを睨む。


「君達は彼らを蔑んでいるようだが何故か。彼らが田舎出身の癖に自分達より活躍しているからか?」


 ロイは中庭で汗水垂らしているクレアを見ながら兵士に話し続ける。


「もしそうだとしたらとんだ失笑ものだな。彼らは命をかけて国民と国を守っている。それは君達兵士も同じだ。それなのに出身だけで下に見ているのはむしろ、蔑まれるべきは君達の方だろう。いや今からでもそうなるべきだな、こういうのは足を引っ張る原因になる。すぐに排除を──」


 自分より遥かに偉い人、それもこの国で一番の功労者と言われた人物にそう言われて、二人の顔は真っ青になっていた。顔には冷や汗がたっぷりついていて、流石にこれ以上は止めておこうと、ロイ大臣はパッと笑顔になる。


「冗談だ。すぐにはしない……だが出身だけで人を下に見るのは良くない。それは肝に銘じておけ」


 一瞬二人は軽くなった空気にホッとするが最後に釘を刺されてうんうんと顔を頷く。


「それに」


 そしてロイ大臣は、会話をずっと様子見していた廊下のど真ん中にポツンと立つ自分を見た。


「周りも良く見た方がいい。本人の前で陰口を叩くのは良い悪い置いといて、間抜けすぎるぞ」


 そう言われた兵士はようやくこちらの存在に気付いたて、さっきまでの会話を聞かれてしまったのかと僕から逃げるようにそそくさと去っていった。

 

 最後に少しだけ、こちらを睨みながらだが。


(注意されたばかりなのに良く睨んでくるな……。なんだ、「田舎の人が勇者の瞳してるなよ」とかか?)

 

 この世界では前世より、瞳の色に対して特別視されるところがある。

 青の瞳なら勇者になる素質があるとか、それ以外の色なら勇者にはなれないとか。後黄金の目を持つものは魔王だとか。

 こうなっているのは、この世界では10数年住んできた自分でもよく分かってなかったりする。


 例えば「木についている丸い形をした甘い食べ物はリンゴだよ」と言われるように、常識になっているのだ。ただ魔王の目に関してはわかる。


 単純に魔王しか黄金の目を持っていないからだ。


 昔の言い伝えや本を聞いたり読んだりしてみたが、全てに魔王は黄金の目をしていると書かれていた。

 まあ今の僕には、勇者である事以外特に関係ないからあまり気にしていない。


「君も来たか。昨日言った通りクレアと一騎討ちするぞ。当然物や城は壊すなよ」


「分かっていますロイ大臣。しかしそちらの手に持っている紙は……?」


「ああ、これか」


 ロイ大臣を見てると違和感を感じ、その原因を辿ろうとしたらなんとなく左手を見て正体に気づけた。



 昨日とは違い指輪をはめてる左手には紙があった。



 この世界では紙はそれなりに貴重で、図書館以外ではあまり見たことがない。それも本では無く紙ということは用途も大体絞れてくる。


「なるほど、私の勇者の光の力を使用した回復薬ですね」


「その通りだ」


 実験の記録用紙だろう。ロイ大臣はよく後世に実験の内容を残す為に、記録を紙に書いている。今回も勇者の力を魔物討伐以外に使えないか考えて、強力な回復薬の生産が可能か実験しているようだが、いつものようにため息を吐くロイ大臣の事をみるに難航してるようだ。

 

(まあそんな事が出来たら、遥か昔から実用化されてるだろうしな)


「私も成功してほしいと思いますが、だいぶ時間がかかるようで……」


「流石に勇者の力を借りて都合よく、強力な回復薬量産は出来なさそうだな。それより一騎討ちだ。私も用事がたくさんあって忙しい。早く終わらせてくれ」


「そうでしたね。早くクレアをボコボコにしましょう」


「だから言い方……」


 正直無理があるだろうと思いながら、しかし実現できたら救える人の数はぐんと上がるので成功してほしいと願い、クレアの方に向かう。

 

「待ってたわよ!」


 中庭に入った自分達……というよりカイトを見て、好敵手が来たと言わんばかりにニヤリ顔になるクレア。


「よしそれじゃあ第1525戦目の一騎討ちやるか!」


 そんないつも通りの姿を見て、自分もいつもの様に構える。


「今度こそあんたを負かしてやるからね」


「やってみろ」

 

 昨日と同様にロイ大臣が合図役になり、一騎討ちは始まった。


 結局クレアが負けて、自分は問題なくドラゴン退治に行ける様になった。


 



























 そしてドラゴン退治で。






「クレア!!」

 

 

 クレアはドラゴンによる強力な一撃によって倒れてしまった。

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