最終話 僕の好きな子がいつでも可愛すぎている。


 今日は日曜日、祭り当日だ。

 ついにこの日が来た。


 時刻は17時30分。僕はすでに集合場所に待機していた。

 いや、さすがに早すぎるのではと僕自身も思うがもし仮に彼女がもっと早く来ていたらという思考を繰り返しこんなに早く到着してしまっているのである。まぁ無事に彼女より早く到着できて良かった。


 周りには祭りに行く人がたくさんいる。さすが結構大きい祭りってだけはあるな。まだ時間もあるし本でも読みながら待っていよう。

 


 本に集中していて気づいたら時間がすでに55分。待ち合わせの5分前だ。

 もうすぐ彼女に会えると思うと緊張してくる。


 落ち着こうとふぅ、と息を吐いたときだった。


 「高橋くん、お待たせ。」

 この耳が癒やされる可愛い声は橋本さんだ。

 急いで声が聞こえた方向に振り向く。


 「橋本さ…。」

 彼女の姿を見た瞬間僕はそれはもう綺麗に固まった。まるで駅前の像のようになってしまっている。


 「時間ギリギリになっちゃってごめんね。結構待ったかな?」

 「あ…いや…。」

 「?えっと、どうかした?」

 「あの…えっと、その…。」

 「…?」

 彼女が不安そうな顔で僕の顔を覗き込む。


 「浴衣…!!」

 やっとの思いで声を絞り出す。

 そう浴衣、浴衣だ。彼女は浴衣を着ていたのだった。

 淡い青色の下地に水色や白色の花が全体に散りばめられている。

 とても似合っているし言葉にできないくらい可愛い…。


 え。今日僕はこんなに可愛いこと一緒に祭りに行くのか!?僕の心臓は大丈夫なのか!?


 

 「えっと浴衣で来ちゃいました。」

 へへ、と恥ずかしそうに照れながら笑う彼女。


 可愛い!!

 可愛さがすごい。浴衣に合わせてか髪の毛も珍しくアップで結んでいるのも可愛いすぎる。

 少し恥ずかしげに赤くなる顔もものすごく可愛い。


 「…可愛い。」

 「え!あ…。」


 急いで自分の手を口元に持ってくる。僕の顔はじわじわと赤く染まっていた。


 やばい!つい口からでてしまった!

 ジロジロ見ながら可愛いとか引かれたかも…、もしくは怒っていしまったかもしれない…。

 焦ってダラリと変な汗が流れた。


 ゆっくりと彼女の方を見る。


 彼女の顔も先程よりもさらに赤く染まっていた。怒っているというより恥ずかしそうにでも口角が少し上がっていて嬉しそうにも見えた。


 「あの…。」

 「はい!」

 「ありがとう…。その、とても嬉しいです…。」

 「あ!いえ、こちらこそ!」

 

 2人とも顔を赤く染めながら立ち尽くす。

 


 5分くらい経ってしまっただろうか。


 彼女の口が開いた。

 「あの、そろそろ行きますか…!」

 「うん!行こう!」


 僕たちはゆっくりと出店が開かれている場所まで向かった。




 出店が近づくにつれてより人が多くなった。

 僕たちははぐれないようにお互いに距離を少し近づいて歩く。時々触れてしいそうな僕の左半身に熱がこもる。


 かつてないほど近い距離に僕の心臓はずっと全力疾走状態だ。



 「あの高橋くんは何か食べたいものとかある?」

 「え、祭りの出店だとたこ焼きとか焼そばとかはよく食べるかな。橋本さんは?」

 彼女に変に思われないように平静を装って返事をする。


 「確かに出店のたこ焼き、焼そばって特別美味しく感じるよね。

  私はねりんご飴!お祭りがあると毎回買っちゃうよ。」

 ニコニコと答えてくれる彼女。かっわいい。りんご飴好きなところも可愛すぎるよー。


 「確かにりんご飴美味しいよね。あとイチゴ飴とかもあったりするよね。」

 「そう、そうなの!小さい頃からりんご飴が好きなんだけどイチゴ飴もあると迷っちゃって。いつもお店の前で悩んじゃうの。」

 瞳をキラキラさせながら話す彼女。


 

 話している間に出店エリアについた。


 「あ!りんご飴売ってるよ!橋本さん見てく?」

 「うん。あ、でも他の店も見ても良い?」

 「もちろん。せっかくだから色んな店のを見て1番美味しそうなお店で買おう!」


 そう言って歩き出す。

 屋台はたくさんあって端から端まですべて見ようとするとけっこう大変だ。




 人も多くゆっくり歩いていたらすぐに1時間位経っていた。

 

 花火が始まるまであと30分と少しだ。「そろそろ公園に向かおう。」と言い僕たちはりんご飴と焼そば、たこ焼きを購入して公園に向かう。


 彼女は最後までりんごかイチゴか悩んでいたが「やっぱり私の中の王道!」と言ってりんごを選んでいた。

 一生懸命悩んでいる姿もりんご飴を持ってニコニコする姿も可愛い。


 公園についた時にはもうすでに花火を見ようとする人がたくさんいた。

 

 空いているスペースがあったので彼女と向かう。

 「あ、あの。僕レジャーシート持ってきたから…。」

 「あの、私レジャーシート持ってきていて…。」

 お互いの声が重なった。


 「え!あ、そっか。そうなんだね!そうだよね!?僕何も言ってないしね!」

 「え!高橋くんも持ってきてくれたんだね!?」

 「あ、うん!」

 「そっか!ありがとう!」

 「いえ!」

 2人で慌てて声を張っていた。こんなに大きい声で彼女と話したのははじめてかもしれない。


 「…えっと、どうしようか。僕のレジャーシートってそんなに大きくないしそれぞれ広げようか…?」

 「あ、いや…その良かったら、一緒に座りませんか…?」

 「い、いいの…?」

 「あの、嫌じゃなければ…。」

 「いや、その、お願いします。」

 先程とは打って変わってお互いに声がどんどん小さくなる。


 僕が持ってきていたレジャーシートのほうが広かったのでそれを広げて一緒に座る。先程よりもさらに近い距離で少し動いたら方が触れてしまいそうだ。


 ドキドキしながら購入した焼そばを口に運ぶ。

 彼女は嬉しそうな顔でりんご飴を頬張っている。


 本当に美味しそうな顔をして食べるな。食べてる姿ももちろん可愛い。ハムスターとかそういう小動物を愛でる気持ちが大変良く分かる。


 「あの、私なにかついてる…?」

 「え?いや、違う。大丈夫。」


 危ない。彼女のことをじっと見すぎていた。

 その後たこ焼きを半分こして食べていたらもう花火の時間が迫っていた。


 「あと少しだね。」

 「うん、楽しみだね。」


 周りの人が更に多くなって賑わっていた。


 

 ヒュー…ドドン!!


 花火が始まった。


 さっきまでザワザワ話していた周りの人たちもみんな一気に上を見上げる。


 「すごい!綺麗だね。」

 「ね!本当にすごい綺麗!」

 次々に打ち上げられる花火に僕も彼女も夢中になっていた。


 30分くらい経っただろうか。ふと彼女の方を見た。

 彼女の瞳ががキラキラと花火のように輝いていてとても綺麗だった。


 いつも可愛い。とても可愛い彼女のことを綺麗と感じたのはもしかしたらはじめてかもしれない。

 浴衣を着て髪をアップにしているからかいつもより大人っぽく見える彼女。

 自分の考えていたことに余計に心臓の鼓動が速くなる。


 1度考えてしまったらその思考はなかなか消えなくて花火を見ながらも隣りにいる彼女のことをずっと考えていた。


 そうだ、今まで楽しすぎて忘れていたけど今日の僕の最終目標は彼女に告白をすることなんだ。


 思い出して急に緊張の汗を垂らしながら気づいたら最後の大きな花火が打ち上げられていた。


 最後の花火も終わり周りの人たちが帰り支度をしている。

 僕たちもゆっくりと帰る準備をする。


 



 「すごかったね、花火!」

 駅に向かう帰り道、彼女がずっと変わらずキラキラした瞳で僕に話しかけた。


 「うん、とっても綺麗だったね。」

 「私ねあの大きい花火も好きなんだけど、小さい花火がたくさん上がるのも良いよね!」

 「いろんな色があるやつ?」

 「そう!いろんな色が見れるの楽しいよね!」

 ふふ、と本当に楽しそうに笑う彼女。


 先程まで大人っぽい綺麗な彼女にドキドキしていたが今はいつもの可愛い彼女にドキドキしている。

 それに僕はこの後彼女に告白しようとしているのだ。そのことを思い出し、緊張も相まって余計にドキドキが止まらないでいる。



 「じゃあ高橋くん今日はありがとう。とっても楽しかったよ。」

 いつの間にか僕たちはすでに駅についていた。


 「あ、僕の方こそありがとう。」

 「高橋くん今から来る電車に乗るよね?私は次の快速に乗るから。」

 「あ、いや、えっと、そのー…。」

 「どうかした?…もしかして人混みで酔っちゃったかな?」

 「いや!違う!その違うんだけど…。人も多いし、大変だし、今日楽しかったし、橋本さんの最寄りまで送りたいなー、なんて…。あ、僕の家は全然問題なくそこから帰れる距離だよ!その必要ないかもだけど、荷物とか持つし…。…あ!もちろん嫌じゃなければだよ!」

 「…そ、そっか。」

 「は、橋本さん可愛いし変な人に絡まれたら大変だし…!!」

 「かっ…!えっと…その、ではお願いします…。」

 「…ありがとう!」

 

 良かった!なんとか言えた!しかもOKもらえた!これで彼女を送ることには成功できそうだ。

 なんとかなって安心した僕は彼女と次の電車に乗り込む。


 祭りの帰りということもあってやはり電車は満員状態だ。

 「橋本さん、大丈夫?」

 「うん、大丈夫だよ!」

 

 彼女との距離は今日で1番近かった。

 僕は彼女を見ながら、また今からのことを考えては自分の体温がどんどん熱くなっていくのを感じた。


 彼女の最寄り駅につき一緒に下車する。

 

 「満員電車は大変だけど降りた時って少し涼しく感じるね。」

 「うん、確かにすごい分かる。降りた後の風って気持ちいいよね。」

 「それで…えっと、私ね北口なんだけど。」

 「あ、僕も家そっちだよ。」

 「そうなんだね。」


 ゆっくりと一緒に改札まで向かう。

 改札を出ると人がたくさんいたがさっきまでの祭り会場の人の数を思い出すととても少なく感じる。


 「えっと、僕向こうの公園の方なんだよね。」

 「え!そうなんだ。私もだよ!」

 「そ、そうだったんだ!」

 「うん、全然知らなかった。確かにそういう話はしたことなかったしね。」

 笑いながら「じゃあ公園まで一緒に帰ろう。」と言った彼女と一緒に歩き出す。


 公園まで約10分くらいだろうか。今日の楽しかったこと、美味しかったもの、以前読んだ本の話などをして盛り上がった。


 彼女は楽しそうに色んな表情を僕に見せてくれる。その姿もとても可愛い。


 もっと、これからも彼女のいろんな表情をずっと見ていたい。


 公園が近づいてくる。緊張を和らげるためにふと空を見上げる。




 空には煌く星と、とても大きく丸い綺麗な月の姿があった。

 それはとても魅力的で引きずり込まれそうなほどだった。


 


 「月が綺麗だね。」

 ふと口に出た言葉だった。そのままの綺麗な月を見た僕の感想に過ぎなかった。


 しかし先程まで彼女と本の話などをしていたこともあり僕は1人で勝手に慌ててしまう。


 「あ!いや、あのそういう意味ではなくて。その、違うくはないんだけど…。空を見たら今日はすごい月が丸いなって思って…!」

 慌てすぎて思わず言わなくてもいいようなことまで口走っている。


 彼女はゆっくりと空を見上げていた。


 その大きな瞳であの綺麗な月を優しい眼差しで見ていた。

 その瞳に、彼女に、僕は釘付けになっていた。



 そして彼女は僕の方に顔を向け微笑んだ。


 「私もずっと月が綺麗だと思っていたよ。」



 月明かりに照らされる彼女はいつもより儚げな美しさを持っていた。

 いつも優しくて可愛くて、そして今日はとても綺麗な彼女。


 僕は彼女に伝えたいことがあるんだ。



 「あの、橋本さん。」

 

 僕が1歩だけ彼女に近づく。

 心臓はドクドクとうるさいくらいに鳴っていて、顔は真っ赤で緊張してきっといろんなところから汗が吹き出している。

 普段ならどうか彼女にバレないように、と考えていただろうが今の僕にそんな余裕は無い。



 「僕、橋本さんのことが好きです…。ずっと、前から。」


 瞬間、彼女の瞳が揺れ動いたように見えた。


 「…これから先もずっと隣にいたいです。」


 「…。」

 「…。」


 彼女と僕の間に静寂が生まれる。

 彼女は少し下を向いたまま震えているようにも見えた。




 え、どうしよう。この後のこと考えていなかった!気持ちを伝えることしか考えていなかった!

 あ!もしかして彼女は怒っている!?ありえるね!?

 突然僕みたいなのが変なことを言ってきたから怒ってしまっているかもしれない。

 または雰囲気?ムード?が良くないから怒っているのかも…。

 もしくは僕の言葉が足りない…とか。

 好きの定義について怒っているのかな!?



 「あ、あの僕橋本さんの笑った顔がとっても可愛いと思っていて!もちろん授業中とか読書中の真剣な顔もとても可愛いし。あと少し落ち込んでいる時に分かりやすく眉を下げたりする姿や、悩んでいる時に無意識に口を少しとがらす仕草もとても可愛いよ。そういうところ全部好きだなって思うし。

  あと、もちろん見た目の可愛さだけではなくて僕の話を丁寧に聞いてくれて相槌を打ってくれたりもする。そういう優しさがとても嬉しいし。友達が部活で良い成績だったって自分のことのように嬉しそうに言う姿もとっても素敵だし。反対に悲しんでいるときは寄り添ってあげていてそういう姿も全部とても好き。

  もし橋本さんの彼氏になれたらこれから先いろんな姿をずっと見ていたいと思う。

  あとは…。」


 「あ!だ、大丈夫…。えっとたくさんありがとう。あの、その嬉しくて…、緊張してしまいまして…。」

 彼女は顔を赤く染めながら自身の手をぎゅっと握っていた。



 僕はといえば今現在ハイになっていた。そんなものがあるのかは知らないが、多分これはきっと告白ハイだ。

 今まで心のなかでずっと考えたことをいざ口に出したらとてもスッキリした。

 緊張なんていつの間にかどこかへ吹っ飛んでいた。

 可愛い子には可愛いと伝えることが何よりも素晴らしく大切なことだと実感している。



 彼女の瞳と目があった。


 「あの、嬉しいです…。よ、よろしくお願いします…。」

 「え!あ、お願いします!」 

 反射的に僕も返事をする。



 少しの間があった後さっきまでの緊張した空気が嘘のようにお互いに笑いあった。



 


 公園に着き、そろそろ別れの時間だ。 


 「あの、高橋くん。今日はありがとう。本当に楽しかったよ。」

 「いや、僕もとっても楽しかったよ。」

 「うん。じゃあ、また学校でね。」

 「うん。あの、橋本さん。」

 「ん?」



 ぎゅっと自分の唇を噛みしめる。緊張ではない、これはきっと喜びを噛み締めているんだ。



 「あらためてこれから恋人としてよろしくお願いします!」

 「…うん、お願いします。」





 笑顔でそう言った彼女に、いや僕の恋人に今までで1番可愛いと思ったしそれをすぐに伝えた。

 

 その後すぐに顔を赤くした彼女から小さな声で「ありがとう」と言われ照れている姿も可愛いということを伝えた。


 彼女は更に顔を赤くさせながらも嬉しそうに笑っていた。

 

 その姿も見て僕も笑った。



 


 


 僕の恋人は可愛い。とても可愛い。

 それは可愛すぎるほどでそこに限界などは存在しない。限界かと思ってもすぐにそれを超えた可愛さを彼女は持っている。



 笑う彼女に思わず僕の口からまた言葉が出た。






 僕の恋人は本当にいつでも可愛すぎている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の好きな子がいつでも可愛すぎている。 @mattya-tya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ