第6話 彼女は電話越しでも可愛すぎる。


 今日は特訓5日目、土曜日。明日はついに祭りの当日だ。

 今日は直接彼女に会うことはないがなんと夜に電話の約束をしている。


 すごい、すごいぞ僕。頑張っているぞ。


 それにしても数週間前までまったくと言っていいいほどうまく話せていないことが嘘のように今の僕は順調だ。


 この数日のやってやろう精神により僕自身少しづつ変わっている気がする。思えば以前までうまく会話ができないと話しかけることすら躊躇っていたが、今はうまくいかなくても会話をしようとする僕に優しく対応してくれている彼女がますます好きになっている。


 彼女の笑顔はもちろん少し恥ずかしそうに顔を赤らめる姿もなんとも愛おしい。


 そんな顔を、彼女の色んな表情をもっとたくさん見てみたいと考えている。



 そして明日の祭り当日に僕は一つの目標を持っていた。


 それは「彼女に告白する」だ。


 1ヶ月前に告白してきてくれた彼女の返事は僕のせいで有耶無耶になってしまっている。

 なので今回僕からきちん気持ちを伝えたいのだ。


 正直その時を想像しただけでもうまくいく気がしなくて目眩がしそうだ。

 しかし1ヶ月前こんな僕に勇気を出してくれた彼女に僕は答えたい。


 勇気を出す、頑張るぞ。



 

 彼女との電話は夜とのことなのでそれまでに明日の祭りの準備をする。


 まず僕の服装は白の半袖Tシャツに黒のスキニー、黒のスポーツサンダルでいこう。

 白と黒の無難コーデだ、 


 そして大事な会場の把握、集合は駅と言っていたけど細かい集合場所はまた確認しよう。

 次に駅から祭り会場までのルートを確認する。

 ホームページを見ると出店もたくさんあるみたいだし長い時間楽しめそうだな。


 そして何と言っても目玉の花火だ。


 必死に「花火 場所 穴場」を検索して目星の場所をピックアップする。

 ふむ、近くの公園で見える場所もあるのか。一応レジャーシートも持っていこうかな。


 そして花火を見たら解散になるだろう。


 

 彼女の最寄り駅は僕の一つ隣の駅になる。僕の家はそこからでも歩いて帰れる距離だ。

 なのでそこまで彼女に送ろうと申し出る。

 最寄りの駅で解散する時に彼女に告白しよう!


 グッと無意識のうちに手に力が入る。


 問題はなんて伝えるか、だ。


 やはりストレートに伝えるのが1番なんだろう。


 「好きです。」

 彼女のことを思い浮かべながら部屋の隅で小さく口に出して言ってみる。

 途端に恥ずかしくなって小さく縮こまる僕。


 ふぅ、明日1発本番ではなく今口に出してみて良かった。


 これは特訓のし甲斐がありそうだぜ。



 その後も僕は合間に食事をしたりお風呂に入ったりしながら告白の練習を続けた。


 そして気づいた。一体僕は何をしているのか、と。


 1人で告白して1人で悶える。これは黒歴史確定な気がする、と乾いた笑みをこぼす。





 ふと時計を見ると20時半を過ぎていた。


 やばい、僕から連絡すると言っておきながらもう夜だ。


 慌てて携帯を手にとり彼女の連絡先を表示する。


 彼女の予定は大丈夫なのかと考えながら「橋本さん、電話しても大丈夫?」急いでメッセージを送る。


 5分後彼女から「大丈夫だよ」と返信が来た。


 よし、と意気込むがいざ通話ボタンを押そうとすると急に緊張してくる。

 いや直接会って話すことも最近は出来ていたんだから大丈夫!


 勢いよく通話ボタンを押す。



 5コールくらいで彼女が電話に出た。


 「もしもし。」

 「もしもし。あ、えっと橋本さん時間大丈夫だった?連絡遅くなっちゃったかなってごめん。」

 「ううん、大丈夫だよ。ありがとう。」

 ふふっと彼女の笑い声が僕の耳に直接入ってくる。



 で、電話すごい!!


 直接会って話せるから電話は余裕!大丈夫なんてとんでもない!!

 電話越しで聞く声はいつもの声と少し違って聞こえるが彼女の可愛い声がいつもよりダイレクトに僕の耳に入ってくる!電話はすごい!

 電話越しでもこんなに可愛いなんてすごすぎる。

 思わず携帯を耳から少し離してしまう。



 「お祭りついに明日だね。」

 「あ!そう、だね。」

 彼女の声に反応して急いで携帯に耳を近づけなおす。

 


 「集合どうしようか?前に駅前に18時って言ったけど大丈夫かな?」

 「うん、僕は大丈夫だよ。東口の大きい時計の近くはどうかな?」

 「うん、じゃあ時計の前に集合ね。」

 「あと、花火は近くの公園で見えるみたいだから良かったらそこで見よう!」

 「そうなんだね!そうしよう!」




 細かい予定が決まっていく。

 そもそも電話するほどの内容でもないかもしれないが直接彼女と話すことが出来ることが嬉しい。



 「えっと、そんな感じで大丈夫かな?」

 「うん、大丈夫だよ。色々調べてくれてありがとう!」

 「いや、僕の方こそありがとうだよ。」

 「…。」

 「…。」


 すでに話し合いは終わりだ。

 だけど正直まだ切りたくない。可能ならもう少し彼女と話していたい。


 「あの、人ってたくさんいるのかなー?」

 なんだ僕のこの言葉。もう少し良い言葉は他になかったのだろうか。


 「去年行ったときはたくさんいたよ。今日も人がたくさんいたみただよ。」

 「そうなんだ!そうだよねー。」

 「…。」

 「…。」

 つ、続かない…。


 続けたい気持ちと彼女の声に緊張して変なことしか言えない気がする。負のループだ。

 というか話し合いも終わったし彼女はすでに早く切りたいと思っているかもしれない。まずい、本番は明日だ。今日はとりあえずこのくらいにして明日に備えよう。



 「あ、じゃあさっき行った通りで明日またよろしくね。」

 「あ!…えっと高橋くん、ごめんね。」

 急に彼女が早口で喋りだす。


 「え?何が!?」

 「いや、その電話って私あんまりしたこと無くて…それでちょっと緊張してあまりうまく喋れて無くて…。」

 「え!いやいやそんなことないよ!分かる!電話って普段と違う感じで緊張するよね!」

 「あの、本当に明日楽しみにしてるの…。」

 「あ、そうなんだ…。」

 やばい、嬉しすぎて顔がにやける。

 彼女の声色から本当に楽しみにしていてくれていることが伝わってくる。


 電話で良かった。今の僕のニヤケ顔は見せられたものではないからな。

 


 「ちょっといつもと違うから変に思われていないかなって…。」

 「…思わないよ!そんなの全く!」

 「そ、そうかな。それなら良かった…。」

 彼女が安心したような声を出す。



 「なんか急に変なこと言ってごめんね、色々と…。」

 「いや、大丈夫だよ!」

 いつも変なこと言ってるのはどちらかというと僕の方だしね。むしろいつもありがとうだよ、と思うがさすがに口に出すと引かれそうなので彼女を困らせないようにしよう。


 「じゃあ、電話してくれてありがとう。また明日、楽しみにしてるね。おやすみなさい。」

 「うん、また明日。おやすみなさい。」


 ピッと通話終了ボタンを押す。

 大体5分〜10分くらい電話していただろうか。

 体感ではもっと長く感じるしまだ頭がふわふわしている感じだ。


 

 明日を楽しみにしてくれている彼女はとても可愛い。

 それをわざわざ僕に伝えてくれるなんて素直で良い子なんだ。可愛すぎる。


 

 彼女からの「おやすみなさい」が耳に残っている。

 とても幸せな気分だ。


 熟睡できそうだし緊張で眠れないかもしれないな、なんて贅沢で幸せな悩みなんだろうか。


 でも明日のためにも早く寝よう。


 明日は祭り。そして彼女に告白をする。



 成功しなくてもしっかりと彼女に僕の気持ちを伝えよう。

 

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