第4話 彼女の笑顔は夢のようだ。
特訓3日目の木曜日。
彼女と話ができるのは残り今日と明日の2日間だ。
つまり3日目にしてすでに折り返しに入っている。
昨日は目標達成には至らず彼女の可愛さに完全敗北してしまった僕だが「挨拶を続ける」という目標は達成できたわけなので半分勝利ということにしよう。
自分には甘く、が僕の精神だ。
あと2日間、祭り当日のためにも気合を入れて頑張っていこう。
ギュッとカバンを握る手に力が入る。
今日の目標、挨拶は継続するとしてどうしようか。
やはり昨日と同じく会話だろうか…。
1度言葉を投げかけて相手の言葉が帰ってくる、これを繰り返すことにより会話になる。
つまり1度でも会話が成功すれば僕自身かなり自信もつき次に繋げられるだろう。
そして僕は昨日家に帰った後自宅でも特訓をしていたのだ。
そうそれは彼女の写真を見ることだ。
いや、ちょっと待って。
勘違いだけは絶対しないでもらいたいんだけど彼女の写真て言ってももちろん単体ではなくクラスの集合写真だ。
4月の入学式の時にクラスごとに撮影するあれだ。
あの集合写真に写っている彼女も言わずもながとても可愛い。
そう、その彼女の写真を見て僕はいわば自分自身を彼女に慣れさせよう、ということなのだ。
彼女の可愛さは外見はもちろん内面まで魅力たっぷりである。なのでまずは外見から可愛さに溺れないように、という特訓である。
しかし特訓をしてみて分かったが美人は3日で飽きるとか聞いたことがあるがあれは僕とは意見が合わないようだ。
僕は確信している。彼女に飽きなんて来ないのだと。
しかしその自宅での特訓もあって昨日より今日の僕は自信があるということである。
今なら彼女の目を見て…は難しいから鼻のあたりを見れる気がするぞ!
いつもはうつむきがちに話しかけるか遠くから見ているくらいだからな。これは確実に進歩だろう。
今日も1日気合を入れて頑張ろう!
「おはよう、高橋くん。」
「あ、橋本さん…。おはよう。」
教室のドアをくぐったら友達と喋っていた彼女がすぐに僕に気づいて可愛い笑顔で挨拶をしてくれた。
突然のことで少しドキドキしながら僕はそのまま自分の席につく。
朝からとっても可愛い!!!
びっくりして心臓出るかと思った…。でなくてよかった。
まって。落ち着こう。今ので今日の目標の半分は達成しているのだ。
あとは良いタイミングで彼女に話しかけるだけなんだ。
よし、改めて頑張るぞ…。
「あれ、高橋何してるの?部活行かないの?」
「ん…?向井か…。今日明日は部活休みなんだよ、体育館が使えないとかで…。ま、帰宅部だから知らないだろうけど。」
「そうなんだ。それで部活もないのに教室でうなだれて何してるの?」
「何も、なし。」
そう言って僕は1度持ち上げていた頭を再度机にくっつけてうなだれていた。
現在はすでに放課後。多数の生徒が部活に行ったりまたは帰宅している。
そう、僕は結局今日1日彼女に話しかけることなんて出来ないまま時間だけが過ぎていき今に至るのである。
そして自分の不甲斐なさに失望して机にうなだれていたところ忘れ物を取りに来たらしい向井に話しかけられている、というわけだ。
「そういえばさ、新作見に行かなくていいの?昨日行ったらもうあったよ。」
「え!まじか!?」
新作とは最寄り駅の本屋の新作コーナーの事で小さい店舗で高齢のおじいさんが半分趣味でやっているような店だ。
そこに店主のおじいさんの気分によって数ヶ月に1回新作が入ってくる。
本の選出も気分で行っているのかジャンルがバラバラで僕からするとお宝探しみたいで楽しいのだ。
「すっかり忘れてた…。」
「テンション低いみたいだし上げに行けばいいんじゃね?」
「…確かに。」
終わったことを悔いても仕方ない。
自分に今できることをするしかないよね。新作ついでにコミュニケーション系の本も探そうかな。
「じゃあ、俺は帰るよ。また明日。」
「おー、ありがと。また明日。」
向井が帰ってすぐに自分の荷物をまとめて本屋に向かう。
本屋に行くと僕はすぐに新作コーナーに目をやった。
今回は20冊くらいか…。少なくなっているかもしれないが新しいタイトルを見るというだけで心が躍る。
ふと、ミステリーの短編集をが目に入った。
ふむ、今回はこの本にしようかな。
バイトもしていない僕は小遣いをためて買っている。なので買いに来るときは1冊までと決めている。
早々にお会計を済ませ外に出る。
早く帰って読みたい衝動を抑えられずに僕は駅に急ぐ。
「高橋くん、今帰り?」
「え。」
突然声をかけられた。
声の主は見なくてもすぐに分かった。
少し高い可愛らしい声。耳に通る時にいつも心地よく、同時に心が躍るこの声の主は間違いない。
「橋本さん…?」
彼女だ。
幻なんかではない本物の彼女が今僕の目の前にいるんだ。
「高橋くんもしかして本屋行ってたの?」
「あ、うん。よく分かったね。」
「今買ってきましたって本持ってるよ。」
ふふ、と彼女が笑う。
「は、恥ずかしい…。」
「それだけワクワクする本ってことだよね。」
「そう!そうなんだよ!新作の本で内容はまだ分かってないんだけど新作ってことだけでワクワクするよね!」
「なるほど。それはワクワクするし早く読みたいね。
どんな内容かまた教えてよ。」
「あ、えっと。明日貸そうか?
僕帰ってすぐ読むし今日中には読めるページ数だし!よかったらって」
「え。でも…。」
僕のでた言葉に彼女が困惑した表情をしている。
そうだ。そりゃそうだ!
まだ僕自身内容も分かってもないのにそんなこと言われたら困るに決まっているよ!
「あ!ごめん。借りる借りないは橋本さんの自由だよね…。
無理に言ってごめん。まだ内容もわかってないのに…。」
「ち、違うの。えっと、良いのかなって…。
高橋くんの負担というか申し訳ないかなって思って。」
「それは!全然!全くそんなことないよ!!」
「じゃあ…借りても良い…かな。」
「もちろん!!」
う、嬉しい…!
強引な気がするが彼女が受け入れてくれた気がしてなんか色々と嬉しい!
「じゃあ明日朝持ってくるよ!」
「あ、あの高橋くん。
貸してもらうの放課後でもいいかな。それで出来たらね、出来たらなんだけど明日一緒に帰りませんか…?」
「え…。」
「…。」
一緒に。
一緒に帰る。僕と彼女が一緒に帰る…?
これは…夢?僕の妄想…?
少しうつむいている彼女の頬は赤く染まっていた。
か、可愛い…。
「あの、ごめん。高橋くんにも予定とかあるし無理にではないので!」
「え、ちが!あの帰ろう!」
「い、いの?」
「はい、お願いします!」
「ありがとう。」
そう言って花が咲いたように綺麗に彼女は笑った。
途端に赤くなる僕の頬。
熱い。全身の熱が顔に集中しているようだ。
「じゃ、また明日ね。お願いします。」
「お、お願いします…。」
小さく手を降って走り出した彼女を僕は姿が見えなくなるまでぼーっと見ていた。
これは夢なのかはたまた現実なのか…。
彼女の笑った顔を脳裏に刻んだまま家に帰った僕は明日のことを考えると熱が出そうなので急いで全集中を研ぎ澄まして本を読んだ。
全て読み終わった寝る前に彼女の笑った顔を思い出してはニヤニヤしながら1人ベッドの上で悶えていた。
今の僕が出来ることは早く寝るのみだ!そして明日も頑張るぞ!
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