第3話 彼女の可愛さに限界はない。
今日は特訓2日目の水曜日。
昨日の挨拶作戦は大成功と言ってもいいだろう。
途中つまづきそうな場面もあったがなんとか最後まで頑張り彼女の笑顔をまで見ることに成功したのだからな。
僕は昨日の成功体験により少し自信がついていた。
ここ1ヶ月のことを思うと確実に成長しているぞ。
自分で自分を鼓舞しながら学校へ向かう。
今日の目標ももうすでに決めてある。
2限目の英語の授業で英単語の小テストがある。その答え合わせはいつも隣の席の人と交換して自分たちでするものだった。
隣の彼女に少しでもよく見られたくて毎回必死に勉強していることは秘密だ。暗記って大変だよね。
目標はその答え合わせのあとに一言会話、だ。
そんな簡単なことが目標…、と思われるかもしれないが僕にとってはとても大きなハードルなのだ。
今までは無言で交換して彼女の綺麗で可愛らしい字を見て採点して無言でまた交換する。これの繰り返しだった。
自分たちで答え合わせ、ということもあり多少ざわついている教室内。つまり僕が少し彼女と会話をするくらい目立つこと無くできるのだ。
僕が会話をできるチャンスというのはここしか無いと思っている。
小テスト後ということもあるため会話には困らないはず。「英語得意なんだね。」とか、もし不得手でも「僕も苦手なんだよね。」と言える。
内容も大事かもしれないがまずは会話をして自分に彼女の可愛さを慣れさすことも僕にとってはとても重要なことなのだ。
とりあえず基本中の基本の朝の挨拶は今日も引き続き頑張ろう。
教室へつくと彼女はまだ来ていなかった。
僕は自分の席に座り早速、英語の勉強をした。
「高橋、朝から勉強?今日なんかあったっけ?」
前の席の友人がグルっと僕の方に体を向けて問いかけてきた。
「おはよう、向井。2限の英語の小テストだよ。」
「おはよ。まじか、今日その日だったか。忘れてたわ。
高橋、範囲。範囲教えて。」
「はいはい。」
教科書を彼に見せながら彼に出題範囲を伝える。
「ありがとう。」
そう言って彼はそのまま勉強をはじめた。
「え、なんでこっち向いてんの。」
「いや、一刻も早く覚えないとだからさー。」
「じゃあ、前向きなよ。」
「まぁ、一緒に勉強しようぜ。」
彼は笑いながら目線はしっかり教科書で勉強している。
まぁ、別に彼がどこを向いていようが僕の勉強の邪魔になるわけではないので問題はない。その問題はないが別の問題があるのだ。
彼がいると彼女に挨拶ができないのだ。
いや、語弊がある。
出来るか出来ないかといったらそれは出来る、になる。
しかし彼がいるということは彼の前で彼女に話しかけることになる。
別にただのクラスメイトだしなにもおかしいことでは無いのだがただ僕が恥ずかしいのだ。
僕にとって彼女はただの異性ではなく好きな子なのだから緊張する。
それを人が見ていると思うと更に緊張してしまう。
なんとか向井には前を向いてもらって勉強してもらいたい。
僕は目線を教科書から向井の方に移す。
彼は教科書を見ながら単語をブツブツ言いながら覚えている。
頼む!伝わってくれ!向井、僕たち友達だろう!
念を込めながら彼のことをじっと見つめる。手はもはや教科書を離して両手を強く握っていた。
ふと、彼が目線を横にずらした。
「あ、橋本さんおはよ。今日英語の小テストの日なんだよ。覚えてた?」
え。
橋本さん。彼女の名前だ。
ギ、ギッと音が出そうなくらい僕もゆっくり横を向く。
「おはよう。テスト自体は覚えてて勉強してきたけどあんまり自信ないかな。」
私も勉強しなきゃ、と言って彼女は席についた。
今日の彼女も可愛いな。
朝から英単語と向井の顔しか見ていないからか余計にいつもの倍位以上可愛く見える。昨日より今日。今日より明日、ということかも。
きっとこれから先も彼女は可愛さを更新し続けていくのだろうな。
いや、まて。
いつの間にか彼女が教室に来ていた!
全く気が付かなかった、向井に気を取られすぎていた。
「高橋くんもおはよう。」
「あ、おはよ。」
「英単語覚えた?」
「え、いや今勉強してるけど、自信はない、よ。」
「そうなの?じゃあ私と一緒だね。」
ニコッと笑う彼女は天使なのだろうか。いや、さすがに可愛いが限界突破しそうだよ。
彼女も教科書を広げ勉強をはじめている。
む、向井!
向井が挨拶したおかけで僕もおこぼれをもらったよ!さっきは早く前を向けとか思ってごめん。やはり僕たち友達だ!
この1ヶ月で2日連続で彼女と挨拶が成功した日なんてあっただろうか、いやない。
この嬉しさ、感動を表せるものなんてなにもないな。
ぼくは喜びを噛み締めていた。
ふと横の彼女の方を見ると目があってしまった。
「頑張ろうね。」
口に手を添えて内緒話のようにしながら僕に微笑む彼女。
瞬間に速くなる鼓動、真っ赤に染まる顔。
僕は意識をなくしながら思った。
彼女の可愛さはすでに限界突破しているのだと。
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