第13話 カラオケボックスはある種のファンタジー
「凄い!本当に日本のカラオケってこういう小さい部屋なのね!
アニメでは見たことあったけどあっちには無いから来るのが夢だったのよね!」
「私も初めてなのでビックリしました」
「こんなお嬢様って本当にいるんだってボクびっくりしたよ」
「普段陰キャの俺らが女子とカラオケとかファンタジーだよな」
比較的大部屋の中にソフィア、鳳凰院さん、晴、来人がいてワイワイとしている。
中間テストが終わったその日。
ソフィアが言い放ったのだ。
『日本のカラオケに行ってみたい!』と。
テスト明けで半日だし気分転換に遊ぶのもいいかと思っていると
晴も中間テスト明けだったらしく遊ぼうと誘いが来たので
一緒にカラオケに来る事になったのだ。
来人や晴と3人でくることは何度かあったけど美女が二人も加わると別の光景だな。
異世界に転生でもしたのかと思った。
そんなことを考えていると今期で人気なアニメの楽曲が流れてきた。
「アァオ!」
早速ソフィアがマイクを持って歌い始めた。
はえーよ。
「次はボクが入れようかな~」
晴もノリノリでリモコンを操作していた。
「取り合えずドリンクバーに行ってくる何がいい?」
「亜栖瑠くん、私も一緒に行きます」
「ありがとう鳳凰院さん」
2人でみんなの要望を聞いてドリンクバーに飲み物を取りに行く。
ドリンクバーで色々注いでいると鳳凰院さんがニコニコとしていた。
「まだ歌ってもないのに凄く楽しそうだね」
「はい!放課後にカラオケに行くのって夢だったので!」
あまりに無邪気に笑う彼女に思わず見惚れてしまいそうになる。
こんなん反則だろ。
「ははっそうか。なら早速部屋に戻ってその夢を叶えなきゃね」
「はい!」
まるで尻尾を振る子犬のような可愛さを見せる鳳凰院さんと部屋に戻ると
晴の選んだ曲になっており人気定番アニソンを絶唱していた。
「飲み物サンキュー!
俺はもう曲入れたから二人も入れなよ」
来人はそういってリモコンを俺に渡す。
「まずは鳳凰院さんが選んでいいよ」
そういって彼女にリモコンを見せる。
「私最近の流行曲とか分からないんです・・・」
「好きな曲を入れればいいさ、他の人とか気にしなくていいの」
「そう言って貰えると助かります。
では母が好きでよく聞いていたこの曲を」
そういって彼女が選んだのは20年ほど前に流行った人気邦楽だった。
「オッケー、じゃあこれで入れておくね」
そして俺も少し前にドラマ主題歌で流行った曲を入れて
リモコンをソフィアに渡した。
「~♪~♪」
鳳凰院さんの歌った曲は昔の曲だが色んな番組で
過去の名曲として紹介されているので俺達は問題なく盛り上がった。
というか鳳凰院さんの歌が上手すぎて普通に盛り上がった。
天は彼女に何物を与えたんだろうか。
「そー君って案外歌上手いよね、腹立つ」
「ソータいい声してるじゃない!次はデュエットしない?」
「亜栖瑠くん知らない曲でしたが音程もしっかり取れててうまかったです」
鳳凰院さんの後だったので不安だったが何とか好印象を残せたようで一安心だ。
その後もみんなが想い想いに歌い盛り上がってきたころ、
「ソータ!デュエットするわよ!」
いきなりソフィアが俺を引っ張ってマイクを渡した。
「仕方ねぇなぁ・・・」
部屋の奥に向かい二人で並んで歌う。
曲はやっぱりアニソンで男女の歌い手がデュエットしてる恋愛アニメ主題歌だ。
隣で歌うソフィアは夢にまで見たアニメの中の世界に
没入できたカラオケを楽しんでおり満面の笑みだ。
自分の隣で満面の笑みで歌う女性。
あ、ダメだ。
それを自覚した時にはもう遅かった。
ツーっと頬に涙が流れた。
「そー君!?」
最初に気付いたのは晴だった。
本当に俺をよく見てるよ。
晴に見付からなければ誤魔化せたかもしれなかったのになぁ。
嘘だ。
僕はそんなに器用じゃない。
「ソータどうしたの!?」
「亜栖瑠くん?」
ドリンクバーに行って不在な来人以外が詰め寄ってきた。
「何でもない・・・何でもないから」
涙をぬぐって必死に誤魔化す。
「亜栖瑠くん、そんな顔で言っても何も安心できません。
もし悩みがあるのであれば話して下さい」
「そうよソータ!私たちの仲で遠慮なんてしないで」
2人はそう言ってくれる。
でも話せる訳がない。
俺のことを認めてくれている2人だからこそ俺は落胆されたくない。
「そー君、大丈夫。
この2人はきっと大丈夫だから・・・」
晴が優しく声をかけながら頭を撫でてくる。
それから俺はトツトツと俺の身に起こったことを話した。
2人はジッと話を聞いてくれた。
そして思わず幸せだった頃を思い出して泣いてしまったのだと、
心の奥にいる情けない部分も曝け出してしまった。
普段平気な顔をしてるけど1年経っても俺は何も平気ではない情けない奴なんだと。
でも2人は笑わなかった。
「亜栖瑠くん、大変だったんですね。
何も知らずに動画で亜栖瑠くんを見つけて
この人は強い人なんだって思ってました。
でもその辛さを乗り越えようと藻掻いていたんですね・・・」
「ムカつくわねその女!・・・ん?ってことはこの前あったコンゴーって男は」
「金剛に会ったの!?あのクソヤローまたそー君に絡んできたのか・・・」
「いやソータに絡んできたというかワタシがナンパされちゃって
ソータにはそのせいで辛い思いをさせてしまったんだ。
そんなことがあったなんて知らなくてすまない、ソータ」
「ナンパ!?あのクソ女がいるのに彼女持ちの身でナンパ!?
ホント金剛ってクソだわ」
「金剛という方は確かに最低ですね、軽蔑します」
彼女たちは俺のことを真剣に心配し、俺の為に怒ってくれた。
「水くせーぞ蒼太!
俺たち友達だろ!」
いつの間にかドリンクバーから帰ってきた来人までそう励ます。
何だよお前陰キャのくせにめっちゃ空気読めるイケメンじゃねぇか!
「そうだよ、そー君水臭いよ!」
「亜栖瑠くん、私だって友達です!」
「ソータ!私たちはとっくに友達なんだから何でも相談しなよ!」
「みんなありがとう」
涙をぬぐって立ち上がった。
これだけで過去を乗り越えられたなんて思わない。
でも俺には弱い俺も受け入れてくれる友達がこんなにいる。
だからこれから少しずつまた立ち上がればいいんだ、そう思わせてくれた。
「なぁソフィア、もう一度デュエットしてくれないか?
もう大丈夫だって思いたいんだ」
「OK、歌いましょう!」
「では、その後には私ともデュエットしましょうか。
その・・・曲は昔の曲になりますが」
「ボクともだよ!何歌うか選ばなきゃ!」
「よし蒼太!俺とも歌おうぜ!男の友情を見せつけるぞ!」
「ハハッ、なんだよそれ」
俺は本当にいい友達に恵まれた。
みんなと一緒に歌い、
その後は何もなかったかのようにカラオケは盛り上がって終わった。
ただ、俺は気付いてなかった。
この友達発言が学校での俺の立場を危うくするとは。
「おはようございます、蒼太くん」
「グッモーニン、ソータ!」
翌月曜の朝。
俺は学校きっての美少女二人に囲まれていた。
いやソフィアは以前から絡んではいた。
しかし距離感がおかしい。
一般的な日本人の感覚だとそれは恋人同士の距離ではという近さだ。
更に極めつけは鳳凰院さんの蒼太呼びである。
「ソ、ソフィア近いよ・・・
あと鳳凰院さん、あの蒼太くんって・・・」
「鳳凰院なんて他人行儀な呼び方はおよし下さい。
友達なのですから私の事は白雪とお呼び下さい」
ガタタタッ
クラス中の男子が立ち上がった。
当然の反応だろう。
俺だって逆の立場ならそうする。
そして視線の端に教室から逃げていく来人を見た。
(じゃあ大人しく嫉妬で死んでくれ)
奴の顔にはそう書いてあった。
畜生。
「えっ、あのソフィアさんの距離ってあの陰キャと付き合ってんの!?」
「鳳凰院さんと下の名前で呼び合うってどんな徳を積めば出来るんだよ」
「はー〇ね」
「時代はゲームチャンピオンなのか!?」
「いやマジで陰キャの分際で調子のんなよ」
今にも殺されるんじゃないかという男子からの嫉妬が飛び交う。
俺今日無事に帰れるかな…
「ソータ、今日は一緒に帰ろうよ。
気になるショップあるんだよね」
「ソフィアさんが羨ましいです・・・
私も習い事がなければご一緒するのに・・・」
「あはは、ごめんねシラユキ。
今日は私がソータ貰っちゃうね。
でも週末はちゃんと譲るからさ」
2人は周囲の男子のことなど馬耳東風といった感じで会話を続ける。
「は!?ソフィアさんとデート!?」
「これもう高校中に拡散したろ」
「はー〇ね、マジ〇ね」
「あの二人をとっかえひっかえとかヤリチンかよ」
「俺は今すぐ帰ってカードゲーム極めるぞ!」
あーもう俺の高校生活メチャクチャだよ!!!
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