第14話 初めて嫉妬

「やっと週末だ・・・」

池袋の駅で誰に聞かせるでもなく呟く。

本当に今週は地獄のような日々だった。


『高校内美女ランクトップ2がパッとしない陰キャに二股かけられている』


という根も葉もない噂があらゆる学内のグループチェインで飛び交ったせいで

休み時間の度に色んな男子が俺のとこにやってきて釈明をする羽目になった。

いや来たのは男子だけではない女子もやってきて

どうやってあんな美女二人を口説いたのかと散々聞いてきた。

見た目はパッとしないけどエッチが上手いのでは?

とか明け透けに聞いてくるのはマジで勘弁して欲しかった。


そんな地獄の平日を終えて遂に週末である。

鳳凰院・・・いや白雪さんはもうショップの場所は憶えているのに

何故かフクロウ前での待ち合わせは続いていた。

習慣とは恐ろしいものである。


今日は黒のワンピースで現れた白雪さん。

黒主体だけど白のレースが色々とあしらわれており

とても上等な品であることが一目で分かる。

「こんにちは、蒼太くん」

「こんにちは、白雪さん。

 今日も素敵なワンピースだね」

こうやって褒めるのも慣れてきて

照れずに言えるようになったのを自分で褒めてやりたい。

「蒼太くんも今日はバッチリ決めてますね」

そう俺も流石に白雪さんほどではないがしっかりした服装をしている。

流石に彼女と並んで歩くのに如何にもなオタクルックは

不味いと学んで少し前から服装に色々気遣い始めたのだ。

「はは、そう言って貰えると嬉しいよ」

そう言っていつもの道を二人で歩く。

友達宣言があったからか妙に距離が近くなった気がする。

そのせいか周りからは『え?この2人がカップル?』みたいな視線を感じる。

いやそれ勘違いですからね。

ただの友達ですからね。


「よっす、マスター」

「おう、蒼太。なんだ今日もキメてんな」

「こんにちはマスターさん」

「ホワリリさんもこんにちは、今日も楽しんでいってね」

店長といつもの挨拶を交わし対戦スペースに行くと

ソフィアと晴との対戦が終盤であった。


「それじゃあ、スタッツの処理も終わったから

 これでまずはソフィアのモンスター2体を破壊するね。

 そしてこっちはフルアタックを宣言。ディフェンスを振り分けてね」

「あー、どう防いでも守り切れないじゃん・・・参りました!」

「対戦ありがとうございました。

 イェイ、久々にソフィアに勝った!」

「おーソフィアに勝ったのか晴やったじゃん」

「そー君、白雪ちゃん、こんちは。

 ふふふ、僕だって成長してるのだよ!」

最近では貴重になってる晴のドヤ顔である。

「やっほー、ソータ!

 いやぁハルも最近強くなってきてて参るね」

そう言うと当たり前のようにソフィアは俺の肩に枝垂れかかってきた。

「は!?え!?そー君とソフィアってそういう関係なの!?

 アレからたった1週間で付き合っちゃったの!?」

学校でのソフィアを知らない晴からしたら当然の反応である。

「いや、普通に友達のままだよ。

 ソフィアもっと離れようよ」

「んー、ヤダ」

「なんでだよ・・・」

マジで意味が分からない。


晴がむすっとした顔になる。

「ソフィアは友達なら誰とでもそんな距離なの?」

「んー誰とでもって訳じゃないよ。

 でもソータならいいかなって、あと家族とも大体こんな感じだし」

「そー君はソフィアの家族じゃないでしょ」

「でも何かしっくり来るのよね」

「しっくり来ててもお付き合いもしてない男女の距離として不適切です」

白雪さんがピシャリと言い切ると俺とソフィアの間に入り込み剥がす。

この1週間学校で何度も繰り返されたやり取りである。

ここまでのやり取りを見た周囲の男性客の視線が痛い。

これもこの1週間で嫌というほど繰り返されたことで

もはや慣れ始めている自分が嫌だ。


白雪さんへのコーチが始まってもソフィアの行動は変わらない。

同性の白雪さんに対して近い分にはまぁいい。

俺の横に回り、完全に『当ててんのよ』状態で助言するのは勘弁して欲しい。

青年誌のグラドルピンナップでもそうそうお目にかかれないレベルのブツを

押し当てられるのは童貞の俺にはキツすぎる。

「蒼太くん、私に集中して下さい」

俺の下心を見透かすようにムスっとした声で白雪さんが抗議の声を上げる。

「はい、申し訳ありません」

何故か敬語で謝罪してしまう。

俺は悪くない・・・よな?

その後何度か白雪と対戦し、

今日の課題がいくつか見えてきたところで彼女とのコーチは一旦区切りとした。


「シラユキとの対戦が終わりならワタシとヤろう!」

ソフィアがウキウキした声で対戦を申し込んでくる。

対戦中は対面になるのでこの過度なスキンシップから脱せる、

と俺は喜んで対戦を了解した。

課題点が浮き彫りになった白雪さんは

晴や他の店のプレイヤーとフリー対戦を繰り返すつもりのようだ。

固定の相手とやりすぎると思考に変な癖がついたりするし良いことだ。


「あー!さっきのターンの選択ミスってた!

 ソータがそんなカード握ってるなんて!」

「はいはい、往生際が悪いぞ。

 俺はターンを終えたんだから大人しくスタンバイフェイズに入れ。」

「ぐぬぬぬ、この後のドローでひっくり返すわよ!」

対戦に戻ればいつものソフィアだ。

負けず嫌いの強敵。

本当に一瞬も気が抜けない。

ただ、今回の対戦は俺の勝ちで終わりそうだ。

何とか逆転しようとするソフィアを横目に店内を見ると白雪さんが他の客と楽しく談笑しながら対戦していた。



グっと心臓を掴まれたような嫌な衝撃が胸に走る。

えっ、なんだこれ。

急な違和感に混乱する。


「ソータ、あんたのターンよ・・・」

引いたカードでは盤面が全く動かせず

敗北を覚悟した声で急かすソフィアの声でハッとする。

「わりぃ、じゃあサクッと終わらせて貰いますか!」

先ほどの痛みを隠すかのように強気の発言を繰り出す。

宣言した通りにこのターンで俺は勝負を決めた。

「くー、悔しい。もう一戦!」

「分かったよ」

ソフィアの再戦申し込みを受けつつ、横目で再び白雪さんを見る。


「ねぇ鳳凰院さんの連絡先教えて貰っていい?」



まただ。

まるでのように胸が痛む。


対戦相手だった男が白雪さんの連絡先を聞いていた。

「はーい!踊り子さんには触れないでくださーい」

晴が割って入っていた。

「白雪ちゃん、こういう下心見え見えな男には引っかかっちゃダメだからね」

「ち、ちげーし」

「君この前ソフィアにも連絡先聞いて断られてたでしょ。

 もうちょっとそういうの隠さないと」

「それは・・・その・・・」

「はいはい、次回のチャレンジをお待ちしています。

 じゃあ白雪ちゃんはボクと対戦しようか」

晴がナンパ行為を軽くあしらい白雪さんを連れて

俺たちの隣の卓に移動して対戦を始める。

「基本的にここのお店は良いお客さんばっかりだけど

 たまーにああいうマナー違反するのがいるから気を付けてね。

 白雪ちゃんは本当に美人だから勘違いしちゃうのがいるのも仕方ないんだけどさ」

「勘違い・・・というのが何か分かりませんが気を付けます」

隣でそんな会話をする二人に何故かホッとしている俺がいた。

「・・・」

そんな俺に何か意味深な視線を向ける晴がいた。

「な、なに?」

「べっつにー」

心の内を覗かれた気がして思わずキョドってしまう俺に対して

今日何度目か分からない不機嫌そうな晴。

何か俺悪いことしたかな・・・。


その後、晴との対戦もしたが終始不機嫌であった。

「なぁ晴、俺なんか悪いことしたか?

 教えてくれよ。

 ちゃんと謝るから」

「教えない。

 自分で気づいて」

謝ろうにも取り付く島もない状態だ。


「こんなの下らない嫉妬だってボクも分かってるよ…」


ボソッと晴が何か言ったようだが雑然としたカードゲームショップの中ではその言葉は俺に届くことはなく掻き消えていった。


「ただいまー」

心がすっかり疲れ切った状態でショップから帰宅した。


帰宅途中ではずっと頭の中を三人の事がグルグル巡っていた。

白雪さんに感じた鈍痛、あんなの俺でも分かる嫉妬だ。

俺如き陰キャ野郎が殿上人の白雪さんに対して独占欲を抱いている。

前の恋も未だに忘れられてない癖に、だ。

こんな勘違い野郎である自分が嫌になる。


次にソフィアの事だ。

いくら家族とはあれ位の距離感と言っても

俺はただの友達なのにあんな距離で接したら勘違いしそうになる。

白雪さんへの勘違いだけじゃなくソフィアまでだって?

本当に身の程を知れ、陰キャ野郎。

クラスの男子の意見も尤もだ。


最後は晴の事だ。

晴とはそこそこの付き合いになるがあんな態度を取られたのは始めてだ。

これからも友達として仲良くやっていきたいのに仲直りのキッカケすらわからない。

俺って晴の事を何もわかってなかったんだなと自己嫌悪する。


「そーちゃん、おかえり」

エプロン姿の青ねぇが俺を迎えてくれる。

「ただいま、青ねぇ」

俺は努めて明るく振舞って返事を返す。

「あら?そーちゃん何か疲れてるわね」

「え?別に疲れてないけど・・・」

「そーちゃん検定1級のお姉ちゃんの目は誤魔化せません!」

どうやらバレバレだったようである。

「まぁ色々あってね・・・」

「そっか」

俺の言葉を聞くと青ねぇは何を聞くでもなく俺を優しく抱きしめた。

「あの時みたいな苦しみの中にいるなら何としてでも私が助けになる

 って言うところだけど今のそーちゃんは

 自分で悩んで自分で答えを出したそうな顔してる。

 だからお姉ちゃんはその気持ちを助ける為にぎゅーってするね」

「ありがとう、青ねぇ」

本当に俺の気持ちを何でもお見通しの青ねぇには敵わない。

色々考えすぎてオーバーヒート気味の脳みそを一時的に休める為に

俺は一度全ての思考を放棄して青ねぇの暖かさに身を委ねるのだった。


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次回更新は通常通り7/1ですが土曜なので試験的に時間を早めて17時にします。

また、次々回の更新は変則で7/2(日)となります。

週末なのでちょっと頑張ります!

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