第12話 四人寄れば何の知恵?

「ワタシの家で勉強会をしましょう!」

昼休みの昼食後、唐突にソフィアが宣言した。

「勉強会?」

「そう、中間考査に向けた勉強会よ」

GWを終えたばかりの俺たちだが後10日ほどすると中間考査が始まる。

それに向けての勉強会かぁ。

「ソフィアって留学生だし、

 色々救済措置あるからそこまで頑張る必要ないんじゃ?」

「それじゃあ私のプライドが許さないのよ!」

「俺は1年最後の期末結構ヤバかったし勉強会に賛成」

来人まで乗っかってきた。

ピロンッ

『(鳳凰院)私も勉強会というものをやってみたいです』

聞き耳を立てていたのか鳳凰院さんまでチェインで乗っかってきた。

もう俺だけが反対しても意味がないだろう。

「わかったよ。

 で、どこでやるんだ?ファミレスとかか?」

「ワタシの家でやればいいじゃない!」

そんなソフィアの鶴の一声でスカーレット家にお呼ばれすることが決定した。

今回は来人も一緒なので男子からの嫉妬の視線も1/2で済んだ。やったぜ!


そして週末の土曜日。

いつものカードショップではなくスカーレット家に集合することになった。


「ここで合ってるよな・・・」

「でけぇ・・・」

俺と来人は地図アプリが示す場所の前に存在する

如何にもなお屋敷にビビり散らかしていた。

ソフィアからは元々スカーレット家が所有していた別荘だから対して大きくない、

と聞いていたがハッキリ言って大豪邸すぎる。

門から家が見えねぇよ。


ピンポーン

門の横にあるインターフォンを鳴らす。

「どなた様でしょうか?」

聞いたことのない妙齢の女性の声が聞こえる。

「亜栖瑠といいます。

 本日ソフィアさんと勉強会をするお約束をしています」

「承知しております。

 中へどうぞ」

その言葉と同時に門が自動で開く。

こんな光景を見ることになると思わなかったわ。

「行くか・・・」

「おう・・・」

ビビったまま俺は来人と玄関への道と思われるところを進んでいく。

するとレンガ作りの立派なお屋敷が見えてきた。

玄関の前に立つとこれまた自動で扉が開く。

中には50歳前後と思われる女性が待っていた。

「お嬢様がお待ちです。こちらへどうぞ」

この広い屋敷で迷子にならないように必死で女性についていく。

そして2階の一角にある部屋の扉をノックする。

「お嬢様、失礼いたします。

 お客様をお連れ致しました」

「はーい、入っていいわよ」

ソフィアの声を受けて女性は扉を開くと俺たちに部屋に入るように促した。

恐る恐る部屋に入る。


そして、そこに広がっていたのは完全なオタク部屋であった。

え?今までの館の外観とか完全無視!?

ソシャゲのキャラのタペストリーとか壁に貼りまくってるし、

棚には所狭しとフィギュアが並んでる。

ベッド自体は流石に良いものっぽいけど。

そんな事では帳消しに出来ないオタク臭が噎せ返る部屋だ。


「ソータ!クルト!遅いわよ。

 私もホウオウインも待ちくたびれたわ!」

部屋の主はご立腹である。

今日は自室という事もあってかTシャツにハーフパンツとカジュアルすぎる格好だ。

というか萌キャラが印刷されたTシャツはやめい!

流石にお嬢様キャラからの乖離が酷い。

「亜栖瑠くん、宝田くんこんにちは。

 駅から歩いてくると結構距離あるから大変だね。

 私はズルして車で連れてきて貰っちゃった」

舌を出して微笑む鳳凰院さん。

今日は青いフレアスカート型のノースリーブワンピース。

GWも終えて少しあったかくなってきた今の時期にピッタリだ。


「待たせて悪かった。

 駅からの距離は思ってた通りだったんだけど坂がエグい」

「俺も蒼太もオタクで体力0だからこの勾配は無理ゲーなんよ」

悲しいかな陰キャが原因で遅れたことを言い訳する。


「まぁいいわワタシ達はもう始めてるからさっさと二人も準備なさい」

「確かにのんびり言い訳してる場合じゃねぇな」

俺と来人は鞄からテキストと筆記用具を取り出して、

2人が並んで座ってるテーブルに座った。

しかし座卓じゃなくって普通に4人掛けのテーブルとチェアが4脚ある部屋凄くね?

本当にソフィアってお嬢様なんだな・・・


コンコンコン

「いいわよ入って」

「失礼します。お飲み物をお持ちしました」

俺と来人が席に着くのを狙いすましたかのように

先ほどの女性が飲みものを持ってきてくれた。

坂を登って火照った体にアイスティーがスーっと染みる。


アイスティーを一口含むと早速勉強に取り掛かることにする。

「んでソフィアの苦手科目って何なんだ?」

「古文と漢文と日本史ね」

「確かにそりゃ得意なわけないわ」

「一応日本史はマシよ。

 戦国バーサスやってるからね!」

「あれを日本史と思うな。バーサス史はフィクションだ。

 戦国武将が目からビーム出す日本があってたまるか」

「まぁ本気では言ってないわよ。

 だから本当にこの3教科は苦手なのよね」

「2人でやってたっていうけど何をやってたの?」

「私は古文が得意なのでまずは古文をやっていました。

 ただ漢文はそこまで得意でもないのでどうしようかと悩んでいました」

「意外だな、鳳凰院さんって苦手教科ないと思ってた」

来人の言葉に全面同意である。

「私にも苦手教科はありますよ。

 漢文は得意でないという程度ですが数学は本当に苦手です」

「俺なんて全教科苦手だぜ!」

「来人・・・お前はなんで来たんだ」

「勿論蒼太先生に教えて貰う為に決まってんじゃん!」

「はぁ・・・取り敢えず鳳凰院さんは引き続きソフィアに古文を教えてあげて。

 漢文は俺がそこそこ行ける自信あるから古文が終わったら俺が教えるよ。

 んでそれまでは来人に現国でも教えてるよ」

「わかりました、そうしましょう」

「OK、まずはこのまま古文ね」

「先生お願いします!」

こんな感じで勉強会は始まった。

互いに苦手分野をフォローしあいながら和気藹々と勉強会は進んでいった。

そしてある程度勉強が順調に進んだところで息抜きに

MTNを1戦だけやることになった。

俺vs鳳凰院さん。

来人vsソフィア。

という組み合わせだ。


「亜栖瑠くんの指って綺麗ですよね」

「へ?」

デッキとカットしてると鳳凰院がそんなことをこぼした。

「綺麗って俺の指が?」

「はい、さっき勉強してた時にもふと思ったのですが、

 ちゃんと男の人らしい大きい手の平なのに爪とか丁寧に処理してあって綺麗です」

「あはは、女子からそんなこと言われたの初めてだよ。

 一応TCGやる以上礼儀として爪の手入れはしてるけどさ」

「亜栖瑠くん右手の手の平を前に出して貰えますか」

「ん?わかった」

言われるがままに右手を前に出した。

ピトッ

するといきなり鳳凰院が手の平を合わせてきた。

「えええ!?」

「やっぱり亜栖瑠くんは男の子ですね。

 私の手の平よりもずっと多きい。

 でもやっぱり綺麗な指先です。

 お父様のゴツゴツした指とは違ってますね」

鳳凰院さんはきっと何とも思わず雑談ついでの行為だったのだろうが

陰キャの俺にはインパクトが強すぎた。

思わず手を引っ込めてしまう。

「あの・・・そういうのは勘違いされちゃうし男子にはしない方がいいと思う」

「手を綺麗と思った男性は亜栖瑠くんが初めてなので

 他の男子には多分しないと思いますが、

 亜栖瑠くんがそうおっしゃるのであれば

 亜栖瑠くん以外とはしないことにしますね」

あああ、だからそういうのが勘違いしそうになるって言ってるのに。

「さぁデッキもカットできたし対戦しようか」

「そうですね」

恥ずかしさを誤魔化すように対戦を始めた。


「あれ?亜栖瑠くんそのデッキって・・・」

対戦を始めて1ターン目。

俺のデッキの中身に気付いた彼女が驚きの声を上げる。

「うん、今日のデッキは赤の速攻デッキだよ」

基本的に俺が使うのは青のデッキだ。

でも青デッキとばかり戦っても鳳凰院さんの実力は上がらない。

勿論アリーナでも色んな相手とはやってるだろうが

俺とやるのもいい刺激になるだろうと組んでみたデッキである。

「うん、新デッキ。

 鳳凰院さんのデッキとは相性的にこっちの方が強いからやりにくいかもだけど

 実際の大会で当たった場合に相性差を

 どうやってひっくり返すかの練習になると思ってさ」

「私の為にわざわざ・・・ありがとうございます!」

「気にしないでよ。

 俺が好きでやってるだけだし。

 鳳凰院さんと色々やるのって俺の練習にもなってるからさ」

「私なんかでも亜栖瑠くんの為になってるなんて嬉しいです!」

「いやいやなんかじゃないよ。

 アリーナ10位は伊達じゃないって戦う度に思い知らされてるよ。

 こんなに美人でMTNも強いなんて

 全国トーナメントに出たら一気に話題になっちゃそうだね」

「び、美人ですか!?亜栖瑠くんから見て私って美人ですか?」

「あ、うん。滅茶苦茶美人だと思うよ」

てっきり美人なんて誉め言葉は言われ飽きてると思ったが何やら慌てている。

「亜栖瑠くんから見て私は美人・・・」

完全にどっかの世界に飛んで行っている。

「あのー鳳凰院さん?」

「ひゃい!」

あ、戻ってきた。

「取り合えず対戦の続きやろうか」

「そ、そうですね!」

しかし、その後の対戦では彼女は集中力を欠き、

僕が一方的に蹂躙する展開になってしまった。

「申し訳ありません。

 わざわざ亜栖瑠くんがデッキを作ってくれたのに・・・」

「初めてデッキ相手だと緊張しても仕方ないって」

ただ対戦後の勉強会後半も鳳凰院さんは何故か小さいミスを繰り返していた。

普段の彼女からはらしくない態度であった。

本当にどうしたんだろうか。

そんな風に若干後半はスムーズとは言えない勉強会になってしまったが

ソフィア的には十分に勉強になったようだ。


「結構分からなかった部分が分かるようになって助かったわ。

 特にソータは教えるの上手いわね。

 漢文が少し好きになれそうだわ」

「そういって貰えると来た甲斐があったわ」

「あ、そうそう。

 さっきスマホにメール来てたけどアメリカ時代の

 MTN対戦ポイントが無事日本地区に移住確定完了したわ

 お陰で店舗大会での足切り回避は確定したわ。

 地方予選も免除かどうかは検討中みたいね」

「ソフィアさんおめでとうございます!

 これで二人とも当面は練習に集中できますね!」

うーん美女二人が仲睦まじいのは絵になるなぁ。


「ソータ、最初は勘違いでこっちに来ちゃったけど、

 お陰でホウオウインという友人を得ることが出来たし悪くないわね。

 まぁ今ではアンタのことも友達だと思ってるわよ」

「そう言って貰えると光栄だよ」

「わ、私がお友達でいいんでしょうか?」

「ホウオウインとはとっくに友達でしょ!

 ソータとクルトは今日からだけど」

冗談めかして笑うソフィアに釣られて俺たちも笑ってしまった。

「では私の事は白雪と呼んで下さい」

「分かったわ、シラユキ!」

うーん、やっぱり美女二人が仲睦まじいのは絵になる。

来人も同じ気持ちなのか二人で気配を殺していた。


なお来人は今日の勉強会だけでは赤点回避が難しそうなので

月曜からも放課後男二人で図書館で勉強会をすることとなった。

合掌。

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