第10話 蒼・緑・白・紅 混合デッキ
「何でここにソフィアがいんの!?」
想定外の事態に思わず狼狽えてしまう。
「マスターに会いに来たの!」
「マスターに・・・?」
「そう!マスターって実は10年くらい前にアメリカで
MTNの賞金大会を荒らし回った伝説のプレイヤーなのよ!
だから日本でショップ開いてるって聞いて是非とも会いたくて!」
「えっ、マスターってそんな事してたんすか!?」
「実はショップ開業の資金が欲しくて昔ちょっとな・・・」
マジかよ。
実はマスターって俺より全然凄いMTNプレイヤーなのでは?
「それより何でソータはホウオウインとここにきてるの?
二人はステディな関係なの?」
「違う!決して俺たちはそういう関係じゃない!」
結局ソフィアにも鳳凰院さんが隠れてMTNをやっている理由を説明することになった。
「ふぅん…ホウオウインの家って結構面倒なのね。
でも事情は分かったわ。
これでも口は堅いから信用しなさい!」
「そう言ってくれると助かるよ」
ソフィアが良い子で助かったぜ。
「それはそれとしてソータせっかくだしワタシとヤるわよ!」
「ヤるって何を!?」
「それは勿論…」
「そー君、その
また新しい女の子ナンパしてきたの?
君はMTN世界チャンプの次はナンパ王にでもなるの?」
「お!ソフィアさんじゃん、こんちはー」
ソフィアが急に変なこと言い始めたかと思ったら
晴と来人がやってきた。
晴の俺を見る目がゴミを見るかのような寒々としたものだった。
「俺がナンパなんてするかよ!陰キャ舐めんな!
この人はウチのクラスに今週から留学してきたソフィア。
MTNの大本スカーレット社の御令嬢で去年のMTNアメリカチャンプ。
あんまり失礼なこと言わない方がいいぞ」
「え?なにその属性モリモリな女の子。
それに加えてこの乳とか天は何物与えてんの・・・」
ソフィアの属性過多に晴が固まってる。
気持ちは分からんでもない。
「あはは、取り敢えずワタシの実家は気にしないで。
あくまでここにいるのは一人のMTNプレイヤーとしてだから。
でもMTNをヤル時は全米チャンプとして容赦しないからね!
そうそう、ソータさっき言いかけたけど折角だしMTNの対戦ヤろうよ」
さっきのヤろう発言はMTNの事かよ・・・ビビらせんなよ。
「うーん、今日は鳳凰院さんに色々教えるのがメインだし、
それが終わってからならいいよ」
「OK!ホウオウインの腕前も見てみたいし、今日は楽しめそうね」
そして俺たちは対戦スペースに陣取った。
俺vs鳳凰院さん
晴vsソフィア
という構図である。
「なんだあのハーレム野郎」
「世界チャンプだからって調子に乗りやがって」
「1人でいいから分けてくれよ」
「ぜってー次の日本大会で優勝して世界で蒼太に勝つ」
「これ写真を撮ってクラスグループに流そうかな」
カドショに似つかわしくない美少女2人に他の客が色めき立つ。
というか最後の発言は来人だろ。
お前は本当に新デッキでボコる。
「今のデッキのシャッフルはイカサマを疑われかねないから気を付けてね」
「なるほど、シャッフルひとつ取っても色々と奥深いのですね」
俺と鳳凰院さんは純粋な対戦というよりも
アリーナと紙の違いについて教えるのがメインだった。
アリーナでは処理が自動の為イカサマの介入する余地はないが、
紙のMTNはそうはいかない。
世界大会となるとジャッジが目を光らせているが
それでもイカサマが行われないということはないし、
何より一番重要なのは対戦相手からイカサマをしていると
疑われるような行動をしないことである。
鳳凰院さんは間違ってもイカサマをするような人ではないが、
対戦相手からイカサマを疑われてジャッジを呼ばれ、
判定負けなんてなったら目も当てられない。
そこで俺は相手のイカサマを見抜くのよりも
相手からイカサマを疑われない教育を真っ先に行っていた。
「へぇ、ハル結構やるじゃん」
「そりゃそー君に鍛えられてるからね。
全米チャンプだろうと
一方隣の卓でやってる晴とソフィアはガチ対戦だ。
腕前的にはソフィアに分がある感じだがデッキ相性もあってか五分五分の展開だ。
「こうやって皆でMTNやるのって楽しいですね」
ふと鳳凰院さんが呟く。
「今日はちょっと五月蠅過ぎる気もするけど
でもまぁ楽しいのは楽しいか」
「はい!
勿論アリーナはアリーナで楽しかったのですが、
こうやって対面で遊ぶ楽しさは別格のものです」
「そういって貰えるとここに連れてきた甲斐があったかな」
「亜栖瑠くんも宝田くんも晴さんもソフィアさんも本当にいい人達で、
こんな出会いを与えてくれたMTNに感謝したいです」
それはこちらの台詞である。
こんな美少女と話せる機会があるだけでMTNには感謝しかない。
「しかしこんな美少女と出会えるなら蒼太は
アイツのこと忘れて新しい世界で生きるのもいいんじゃねぇか?」
来人の不意の言葉に心臓をギュっと掴まれた気がする。
きっとそんなに深い意味などなくて来人のいつもの軽口だろう。
だけどそんなモノにここまで同様してしまうほど自分の傷が深く、
そして全然癒えていないことに自分でも驚いてしまった。
「来人!冗談でもあの女の話なんてしないで!」
とっさに晴の怒号が飛ぶ。
「わりぃ蒼太。流石に今のは俺が悪かった。
口を滑らせた何ていうレベルじゃねぇな」
「いいよ、来人。もう1年近くにもなるんだし俺もいい加減忘れないとな、ハハハ」
無理やり乾いた声で誤魔化す。
「「・・・・・・」」
俺たち3人の何とも言えない雰囲気に鳳凰院さんとソフィアも黙り込んでしまう。
「ほら、そんな話より対戦の続きやろうぜ!」
俺は努めて明るく振舞う。
その後、少しずつMTNに集中することで活気が戻ってきたところだった。
「ソータ!そろそろ私と対戦しなさい!」
ソフィアの元気な声が響く。
「私も本日は十分稽古をつけていただきましたので大丈夫です」
「分かった。じゃあやるか」
鳳凰院さんの同意を得たのでソフィアとのフリープレイをすることになる。
「分かってると思うけど私が望むのは真剣勝負よ。
フリープレイだからって手を抜いたら許さないわよ。
チャンピオンシップの決勝のつもりで戦いなさいよね!」
「真剣勝負ってのは分かったが決勝のつもりはハードルたけぇな。
いきなりそんな気持ちには切り替えられねぇよ」
「じゃあ条件を付けましょう。
負けた方は勝った方の命令を何でも1個聞くって条件をね。
そうしたら意地でも真剣にならざるをえないでしょ」
「何でもって・・・」
「エッチなのでもいいわよ」
そう言ってソフィアは胸を持ち上げる。
「なっ!」
あまりに唐突なエロ行動に赤面してします。
「爆発しろ」
「蒼太は同じ陰キャだと思ってたのに」
「負けろ負けろ負けろ負けろ」
「もう悔しさが頂点に達して逆に何にも感じないや、ハハ、ハハハハハ・・・」
「動画撮っておけばクラスグループに流せたのに」
来人、お前は本当に許さん。
「ソフィアさん、そういう破廉恥な行為をいけません!」
「ソフィア、そー君は純情な童貞なんだから揶揄うのは辞めなよ!」
鳳凰院さんと晴がソフィアに喰ってかかる。
てか晴、女子の前で童貞とか言うな。死ねる。
「2人とも落ち着いて冗談、冗談だよ」
「よかった。冗談かよ」
ホッとする。
「エッチなのでもOKってのが冗談ね。
負けた方が言う事聞くのは本気。
そうじゃなきゃ本気でやれないんでしょ?」
「分かった。学生らしく常識の範囲でならな」
そして俺とソフィアの真剣勝負が始まった。
結果は俺の敗北だった。
中盤までは双方譲らずいい勝負だったのだが
俺の引きの流れが悪くなった間隙を突いてソフィアが一気に場を展開し、
結局それを弾き返すことが出来ず押し切られてしまった。
運の問題だったと言えなくもないが運も絡むのがTCGというものである。
そして運以上にプレイに隙のなかったソフィアの強さが光る。
チャンピオンシップで記憶に残らない瞬殺を出来たというのが嘘のようだった。
「ソフィア、流石アメリカ代表。
いい勝負だった」
ゲーム後俺は思わず握手を求めてしまった。
「ソータあんたもね。
今回は勝てたけど次やったら分からないかもね」
ソフィアはそんな俺に応えて握手してくれた。
「蒼太とソフィアさんの思考速度がわかんねぇ。
どうしたらあの速度でどれを切るか判断できるんだよ・・・」
「ボクとやってた時のソフィアさんは全力じゃなかったんだなぁ悔しい!」
「お二人とも素晴らしい試合でした!これがMTN公式チャンネルに残らないのは勿体ないです」
そんな三者三葉の反応にちょっとムズ痒くなる。
「それじゃあ負けたソータへの命令ね」
あ、そういや罰ゲームを忘れてた。
「あんまりキツいのは勘弁してくれよ…」
「明日私の買い物に付き合って荷物持ちをしなさい!」
「まぁそれくらいなら・・・」
思ったよりも楽な内容で安心した。
青ねぇの買いものに付き合って荷物持ちすることも珍しくないので
相手がソフィアに変わっただけと思えば苦痛でもない。
「え?それってデートじゃん」
「そー君とデートとか・・・」
来人と晴が何やら過剰反応してる。
「いや、荷物持ちとデートは違うだろ。
青ねぇに振り回されてるのとかわらねぇよ」
そもそも俺とソフィアでは釣り合わない。
デートなどというのは烏滸がましい。
何より俺の傷がそういう感情を持つのは良くないと警告してくる。
「それじゃあ連絡先を交換しておきましょう!」
そういうとソフィアからスマホのチェインIDを提示される。
俺はスマホを即座に取り出し登録した。
これで俺のチェインに家族親戚以外の女性で3人目が登録されたことになる。
陰キャオタクにあるまじき状況だなとひとりごちた。
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