第9話 緋色の先制攻撃

月曜日。

俺はいつものように青ねぇの作ってくれた朝食を食べ。

電車で通学し。

鳳凰院さんにいつもの朝の挨拶を受け。

クラスの男子からやっかみの視線を受ける。

そんな日常を送れていたんだ。


彼女が現れるまでは。


「今日から留学生としてやってきたソフィア・スカーレットさんです」

担任がそう紹介した少女は

赤みがかった茶髪に美しい碧眼を持つ美少女だった。

更に言うなればちょっとお目にかかった事のないレベルの胸部装甲の持ち主で

男子の視線を釘づけにしていた。


「今日からみんなと一緒に学ぶ事になったソフィア・スカーレットよ。

 気軽にソフィアを呼んでくれていいわ」

彼女のあまりに流暢な日本語にクラスは沸いた。

ワンチャンお近づきになれると思ったカースト上位の男子勢は特に色めき立った。

まぁあんな美人は俺たちカースト最下級の陰キャとは関係ない。

むしろ鳳凰院さんのような美人とMTN出来てるだけでも十分すぎる贅沢なのだ。

そんな事を考えていると彼女の自己紹介は続いた。

「みんなとは仲良くなりたいと思ってるからね。

 ただし、一人を除いて」


そう言い放つと彼女はスッと俺の前に立った。

あれ?これなんかデジャヴュありません?


「ソータ!アンタに公衆の面前であそこまでの恥辱を

 味あわされたことは決して忘れていないわよ!

 責任を取りなさい!」


いきなり何言ってんのこの子!?

貴方みたいな美人さんと俺関わりないんですけど!?

俺の同様以上にクラスはザワついた。


「あの男子だれだっけ?」

「ソフィアさんと知り合い?」

「あいつ鳳凰院さんとも親しげだよな、許せねぇ!」

「恥辱って言ったわよね?修羅場?」

「元カレ元カノってこと?」

「あの陰キャがあんな美女と恋人とかないだろ」


「なんとか言いなさいよ、ソータ」

周りの声もどこ吹く風と言った感じで彼女は問い詰めてくる。

「ごめんなさい、どこかで会ったことありましたっけ・・・?」

俺は正直な気持ちを告げたつもりなのだが、

彼女の元々紅潮していた顔は更に赤くなり真っ赤になった。

「お、覚えてないですって!

 私にあんな辱めを与えておいて!」

えっ辱めって何・・・?

マジで覚えないです。

ていうかこんな美人とエッチな経験とかあったら忘れる訳ないよ。

そんな混乱絶頂にあった俺の机の上にあったスマホがブルっと震える。

そこにはチェインのメッセージがあった。


『(鳳凰院)世界大会の準決勝で亜栖瑠くんが戦ったソフィアさんですよ!』

『(来人)戦ったというか瞬殺だったやつな』


2人のメッセージを見て思い出した・・・気がする。

「えっとチャンピオンシップの準決勝で当たった人だっけ・・・?」

「そうよ!アンタと準決勝で当たったアメリカ代表のソフィア・スカーレットよ!

 やはり覚えていたようね!」

いえ、すんません。

全然思い出せません。

てか準決勝の思い出が全くない。

「あの時はあなたに負けたけどリベンジする為にやってきたのよ!

 まずはアンタから日本代表の座を奪ってやるわ!」

「あの、俺世界チャンプのシード枠あるんで

 JAPANチャンピオンシップ出ませんけど・・・」

「え?」

ソフィアさんが固まった瞬間に朝礼のHRの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


その後の休み時間、昼休みの間、俺とソフィアさんが話すことは無かった。

というよりそれぞれが別のクラスメイトに囲まれてそれどころではなかった。

ソフィアさんの周囲には女子とカースト上位のイケてる男子が集まっていた。

どこから来たのか。

何故日本に来たの?

趣味は何?

何故ウチの高校に来たの?

あの陰キャと知り合いってマジ?

好みの男子のタイプは?

等々色々な質問が飛び交っているようである。


一方俺の元にはカースト中位、下位の男子が集まっていた。

「ソフィアさんとはどういう関係だ?」

「どういう関係っていうかちょっと前に1回会ったことがあるだけだよ」

「嘘つけ!そんなんでアメリカから追いかけてくるかよ!」

「嘘じゃないって多分一緒にいたのも10分くらいだよ」

「さっき言ってた準決勝とかアメリカ代表って何のこと?」

「えっとMTNっていうカードゲームの大会・・・」

「そのカードゲームをやればお前みたいに

 ソフィアさんみたいな彼女が出来るんだな!」

「いや、そもそもソフィアさんは彼女じゃないし、

 あとMTNは女性プレイヤーほぼ居ないよ」

こんな問答を続けていき、放課後になる頃には、

俺とソフィアさんが他人関係であることと、

俺がMTN世界大会で優勝したことが知れ渡り、

亜栖瑠蒼太はオタクな大会で優勝したオタクの中では

凄いオタク程度の認識が広まった。

もう帰りたい・・・


しかしその俺の願いも虚しく、

放課後になるとソフィアさんが俺のところにやってきた。

「さぁ朝の話の続きよ!

 まさか私から逃げるんじゃないでしょうね!」

「逃げるも何も俺はシード権あるから日本のトーナメントに出る意味ないんだよ」

「いいえ、意味ならあるわ!私がいるのだから!」

話通じねぇ!

何とかこの状況を打破せねば、と考えていると意外な援護射撃があった。


「ソフィアさん、亜栖瑠くんに対してあまりにも失礼ではありませんか」

そう声を上げたのは鳳凰院さんだった。

まさかの鳳凰院さん参戦にクラスメイトは黙り込む。


「あなたは?」

「失礼しました。鳳凰院白雪と申します」

「ホウオウイン・・・なるほど。

 それで何が失礼だと?」

「貴方の行為全てがです。

 彼に公式大会で敗れたのを素直に認めずに日本まで追いかけてきて、

 一方的に再戦を申し込むなどスカーレット家の令嬢にあるまじき行為です。

 彼の勝利を素直に認めないのはそもそも貴方の家の事業に

 不備があると認めることになるのですよ?」

鳳凰院さんのその言葉にソフィアさんが顔をしかめる。

「ん?スカーレットさんの家の事業ってもしかして・・・」

「そうよ、アタシの実家スカーレット家はMTNを

 開発・販売・運用しているスカーレット社の母体よ」

「そして鳳凰院家は日本でMTNの販売・運用している

 スカーレットJAPANの大株主です。

 故にスカーレットグループ全体の評判に関わる行為を

 見過ごす訳にはまいりません。

 彼が不正を行って貴方に勝利したのであれば貴女の行為は正当なものとなります。

 しかしそうでないのであれば彼の勝利に不服を非公式に申し立てる貴女の行為は、

 スカーレット社の大会運営に問題があったと言うのと同義です。

 無論そういうお話は世間では多くあるのでしょう。

 しかしスカーレット社の令嬢である貴女がそれを行うというのは重みが違います。

 私の言っていることはわかりますね?」

確かに大会であいつがイカサマをした!

ジャッジの判定がおかしい!なんて申し立てるのは普通の行為だ。

でも大会中にそれを指摘せず後出しでやっぱり私は負けてない!

なんていうのは情けない行為だし、

それを開発会社のお嬢さんがやったとなればMTNの評判に傷がつきかねない。

勿論俺はイカサマもしていないので

ソフィアの発言はますます幼稚なものに見えてしまう。

鳳凰院さんのド正論にソフィアさんは黙ってしまった。


「そうね、確かにホウオウインの言うとおりだわ。

 今のアタシの言い分は余りにみっともなかったわね。

 ソータ、あなたに謝罪するわ」

「う、うん・・・分かって貰えて嬉しいです」

謝罪するソフィアを見て鳳凰院さんも厳しい表情を緩め笑顔に戻った。



「だけどソータとMTNでもう一度勝負したいというのは変わらないわ!

 今週末の土曜日に私と対戦よ!」

ピキッっと鳳凰院さんの笑顔がひきつったように見える。

「ソフィアさん、

 申し訳ないけど亜栖瑠くんは土曜日忙しくしているからそんな時間はありません」

鳳凰院さんが笑顔のままで言い放つ。

なんかその笑顔怖いです。

「何故ホウオウインがソータのスケジュールを決めているの?

 貴女は彼はどういう関係?」

「俺と鳳凰院さんはタダのクラスメイトに決まってるよ!

 たまたまこの前週末の予定について雑談したから知ってるだけさ!」

放っておいたら爆弾発言が飛び出しそうだったのでとっさに二人の間に入る。

「そう、なんにせよ土曜の都合が悪いのは本当なのね。

 では日曜ならどうかしら?」

「うん、日曜なら問題ないよ」

「では日曜に貴方のホームで再戦しましょう」

そう約束することで何とか放課後の騒動は収まったのだ。


それから金曜まではソフィアからMTNについての質問をされたりと雑談をし、

それを恨めしそうに周囲の男子から睨まれる日々を過ごすことで何と終えた。

来人のやつは周りの男子の視線を恐れて

MTNなんてシリマセーンと嘘をつきやがった。

あいつは週末のフリプでボコると決めた。


そして週末がまたやってくる。

GW前半の土曜という事もあり池袋は超絶混んでいた。

そして鳳凰院さんはまた待ち合わせ時間の30分前に現れた。

今回も1時間前に来ておいてよかったぜ。

彼女の今日の服装は薄目なパステルブルーのワンピースである。

うーん、何を着ても清楚なお嬢様感が半端ない。

周囲のカップルの彼氏が思わず見とれて彼女さんに引っ叩かれていた。

まぁこのレベルの美少女がいたら男なら見とれちゃうよね。

今日も今日とてチェック柄のシャツとチノパンの俺とは

月とスッポンどころの差ではない。

「今日の服装もとても似合ってて綺麗ですね」

語彙力のない俺にはそう言うのが限界だった。

「ありがとうございます、そう褒めて頂けると嬉しいです」

テンプレ台詞にも律義に微笑みを返してくれる鳳凰院さんは女神かなんかだろうな。

俺と同じ人類ではない。


「あっ、ソータとホウオウイン!奇遇だね!」

ショップに入ってマスターに挨拶しようとした俺は

想定外の人物からの言葉に固まってしまった。

「何でここにソフィアがいんの!?」


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作者です。

ソフィア登場でやっと当初想定しているメインキャラが一通り出揃いました。

9話もかけてやっとプロローグが終わった位の感じになります。

のんびりした展開ですが気長にお付き合いいただければと思います。

10話からは隔日更新になりますので次回更新は水曜になります。

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