第8話 フィールドエンチャント カドショ修羅場
鳳凰院さんと喫茶店で話した翌日。
いつもの挨拶がある以外は平穏な日々が過ぎていった。
相変わらず周囲の男子からの視線は痛かったがまだ平穏と言えよう。
鳳凰院さんが自由に動ける週末は土曜のみとのことだったので
2人でカドショに行くのは土曜の午後にした。
この週末は来人はカドショには来ないのでバれないし、
聞かれても面倒だしで今回の件は黙っておくことにした。
晴とはチェインで土曜は行けないから日曜に一緒に遊ぼうと約束を取り付けた。
よし、俺の計画は完璧だ。
周囲に俺たち二人の関係を知られること無く
鳳凰院さんにMTNをサクっと教えて普通のオタクライフに戻る!
完璧だ!
土曜の13時に池袋駅のフクロウ前で鳳凰院さんと待ち合わせた。
間違っても彼女を待たせる訳にはいかない、と1時間前から待っていた。
「こんにちは、亜栖瑠くん。
お約束の時間までまだ30分ほどありますけどもう来てたんですか?」
なんと鳳凰院さんも30分前倒してやってきた。
やべー、10分前到着とかしてたら彼女を20分も待たせてたよ、あぶねぇ!
「いや、俺も今来たところだよ」
まるで恋愛ラブコメのデートシーンのようなテンプレ台詞を吐いた。
改めて鳳凰院さんの服装を見ると白のブラウスに
ライトグリーンのプリーツスカートというシンプルな組み合わせ。
しかし鳳凰院さんほどの美少女が着こなすと
それはもう周囲の全てが霞むほどの可愛らしさだった。
「あの?何か変だったでしょうか?」
俺の視線に気づいたのか鳳凰院さんが不安げな声を上げる。
「いや、私服を初めて見たからちょっと驚いただけ、凄く似合ってます」
とっさに言い訳をする。
そんな俺の言葉に鳳凰院さんはホっとしたようだ。
しかし、薄手のグレーのパーカーにチェック柄のシャツ、
下はジーパンとオタク全開な俺が並ぶと違和感凄いな。
明らかに周囲の視線も俺たちの関係は何なんだ?と疑っているような視線に感じる。
「早く着いたのならその分時間をいっぱい使えるしショップに行こうか!」
「はい、そうしましょう」
周囲の視線から逃げるように俺は鳳凰院さんとショップへ向かい始めた。
駅から歩いて10分弱。
いつものマスターの店前にたどり着いた。
「ここがカードゲームショップなのですか・・・」
鳳凰院さんは目の前の雑居ビルを感慨深げに見つめている。
いや、そんな大層なショップじゃないからね、ここ。
「ここの3階がショップなんだ、階段狭いから気をつけてね」
そう告げると鳳凰院さんを先導するように階段を上りショップの入り口をくぐった。
「やっほー、マスター1週間ぶり!」
いつもの感じでマスターにあいさつする。
「お、蒼太か。ん?後ろの子は何だい?」
「彼女はクラスメイトの鳳凰院さん、
MTNを始めたいっていうので連れてきたんだ」
「鳳凰院・・・まぁいい蒼太のクラスメイトなら大歓迎だ」
「ありがとうございます、マスターさん」
「こんな美少女にマスターさんなんて呼ばれる日がくるなんてな。
そういや来人と晴も来てるからコーチング日和だな」
「え?」
来人は法事だし、晴が来るのは明日では・・・?
マスターの言葉に固まった瞬間、俺たちは見つかってしまった。
「よーっす蒼太…と鳳凰院さんが何で?」
「そー君その子誰?」
そこには不思議そうに見つめる来人と不審げに見つめる晴の姿があった。
来人は法事に車で行く予定だったがドライバー役の親父さんが
昨夜ギックリ腰になり参加中止になり、
晴は明日俺との対戦の為にデッキを弄る為のシングルを探しに来てたのだと言う。
ここにきて誤魔化すのは無理と判断した俺は鳳凰院さんに了解を貰い、
2人にここまでの経緯を話すことにした。
「はぁ…まさか鳳凰院さんがMTNアリーナやってるとはね。
蒼太に連絡先聞いてきた時は何事かと思ったけどそういう事情があったのか」
クラスでの出来事もあってかアッサリ納得しれくれた。
問題は晴の方だ。
「そー君さぁ・・・あんな事あったのに懲りてないの?」
そこには物凄く不機嫌な晴がいた。
「いや、前とは違うって、
そもそも鳳凰院さんってあの鳳凰院財閥の娘さんだよ?ありえないって」
「そうかなぁ・・・。彼女のキミを見る目が何か怪しい」
「晴!?頼むから鳳凰院さんを怒らせる様なこと言わないでくれよ!?
俺学校に居場所なくなるからね」
「やっぱり彼女を庇ってるしまた繰り返す気なんだ」
「なんでそうなる!?」
「ふふっ、お二人はとても仲がよろしいんですね」
俺と晴の漫才のようなやり取りを見て鳳凰院さんが笑う。
「そりゃボクとそー君はもう3年の付き合いになるからね!」
エヘンと胸を張ってマウントを取るように自慢する晴。
俺との付き合いの長さなんて何も偉くないぞ?俺ただのオタクだぞ?
「緑谷さんは昔からこのお店で亜栖瑠くんとMTNをされているのですか?」
「そー君と初めて会ったのは別のショップだったんだけど
仲良くなってボクがこっちにくるようになった感じかな」
「あの頃の晴って俺や蒼太のこと結構警戒してたよな。
こんなに仲良くなるとは思ってもなかったぜ」
「確かにあの頃の晴って少し壁があったよな」
「あの頃はボクも色々あったんだよ。
てかボクの話はもういいでしょ!
鳳凰院さんにMTNを教えるんじゃなかったの?」
「それもそうだな
鳳凰院さんはMTNの世界大会を目指したいらしいけど
それまでの流れを説明するね」
「はい、お願いします」
晴との昔話からMTNの話になると鳳凰院さんは真剣な表情に切り替えた。
「世界大会に出るには日本チャンピオンになる必要があるのは当然なんだけど、
JAPANチャンピオンシップに出るにはいくつかの段階を踏む必要がある。
まずはカードショップで開かれる公認大会でポイントを稼ぐ、
このポイントが一定以上なら地方予選に出場できる。
んで、この予選大会の上位者がJAPANチャンピオンシップの出場者になる。
因みにカードショップでの大会ポイントは
MTNアリーナの年間上位者なら免除されたりする」
「おい、蒼太。今年からアリーナでのプレイヤーでも
条件付きで地方大会まで免除される枠が出来たぞ。
まぁお前の順位でも無理な狭き門だがな」
「え、マジ!?アリーナ人口増やしたいのかな・・・」
マスターからの思わぬ新情報に驚いてしまう。
「そういや鳳凰院さんってアリーナではどれくらいのランクなの?」
「えっと今は10位ですね」
「は?」
「え!?」
「10位!?」
鳳凰院さんからの唐突な発言に俺たちは固まってしまった。
というか10位って…
「鳳凰院さんを疑う訳じゃないけど10位ってマジ?
確か10位ってwhite_lilyさんだよね」
「はい、私がwhite_lilyです」
「「「ホワリリさん!?」」」
「ええ、ご覧になりますか」
鳳凰院さんが差し出したスマホにはアリーナのプロフィール画面が表示されており
そこには『white_lily』の名が表示されていた。
マジかよ・・・鳳凰院さんがあのホワリリさん・・・?
あまりの衝撃に俺たちは固まってしまった。
「そっか・・・俺と鳳凰院さんってもう1年前からアリーナで知り合ってたんだな」
しみじみと呟いてしまう。
「あの・・・1年前からというと?」
「ああ、俺はblue_clashって名前でアリーナやってるんだ
ホワリリさんとは確か1年くらい前に初マッチしたよね」
「blue_clashさんが亜栖瑠くん!?」
「あはは、驚くよね。
去年はクラスも違って話したこともなかったのにとっくに知り合いだったとはね」
そんな俺たちが今はカドショで一緒に遊んでる。
奇妙な縁もあったもんだ。
「そこのお嬢さんがランキング10位となると
地方大会まで免除される枠に入れるな。
無論今後もそのランクを維持する必要はあるが
あと多少順位を落としてもポイントの足切りは無く地方大会は出れるはずだ」
「マジか!それなら店舗大会の期間は練習って割り切れるな。
アリーナの順位もキープできれば地方大会も本選に向けた準備とっ割り切れる!
そうなるとやれることは俄然増えてくるな!」
マスターからの情報に一気に俺の中でのプランが出来上がる。
「そー君、大会のプランもいいけどまずは紙のデッキを作らなきゃだよね?」
「あ、そうだったスマン」
「蒼太ってそういうとこあるよな」
「私の為に色々考えて下さって嬉しいです」
突っ走る俺に3人それぞれの視線が集まり自然と4人で笑ってしまった。
その後は鳳凰院さんがアリーナで使っているのと同じデッキを組み、
基本的なテクニックを教えつつ、4人でフリープレイを楽しんだ。
最初は鳳凰院さんと距離があった晴も
ショップから出る事には普通に話は出来てたかと思う。
「じゃあ今日はお疲れ様。
念のためデッキは俺の方で預かっておくよ」
「亜栖瑠くん申し訳ありませんがよろしくお願いします」
鳳凰院さんのデッキは家族にバレない為に俺が預かることになった。
基本的にはアリーナなどでもコーチングは出来るので
紙に触る土曜だけだし問題はないだろう。
そして翌日は約束していた晴とのショップでの遊びの日だ。
普段なら俺以外ともフリプをする晴だが
何故か今日に限って俺としかフリプをしなかった。
晴は上級プレイヤーなので連続の対戦は疲れるのだが、そのぶん身にもなった。
今後鳳凰院さんに教えるには役に立つだろうし、
何より晴が嬉しそうにしていたので良しとするか。
そんな感じで怒涛の週末を終えた。
きっと次の週末までは穏やかな日常を送れる。
そう思っていた俺の希望はもろくも崩れ去る事になるのだが・・・
「ソータ!アンタに公衆の面前であそこまでの恥辱を味あわされたことは決して忘れていないわよ!
責任を取りなさい!」
俺が一体何をしたっていうんだ・・・
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