第7話 蒼の笑み/白の瞳 白雪side 後編
新学期を迎え、いつも通り電車で通学します。
伯母は鳳凰院に相応しい学校に通わせるべきだとおっしゃっていましたが、
お父様は普通の学生生活を知ることも大事だからという考えにより、
私は普通の公立高校に電車で通学というとても学生らしい日常を送れています。
この時だけは私は私で居られる気がしてとても通学時間は大好きなのです。
しかし学校が近づいてくると気持ちが憂鬱になってきます。
私は鳳凰院の娘です。
お父様は普通に暮らしてみなさいとおっしゃって下さいましたが
どうしても周囲の人は私の後ろに鳳凰院という家を見てしまいます。
クラスメイトも先生も私の顔色を伺うような感じで距離をとってしまいます。
そんな環境のせいか1年生のうちはお友達が一人もできませんでした。
今年こそお友達が出来るといいな・・・
そう思いつつ校門近くに掲示されているクラス分けを確認します。
するとそこには思ってもみなかった名前がありました。
2年B組
亜栖瑠 蒼太
・
・
・
・
鳳凰院 白雪
・
・
私と同じクラスにあの亜栖瑠くんの名前がありました。
これは同姓同名というものでしょうか?
流石に亜栖瑠という名字は他に見たことがありません。
もしかして本当に亜栖瑠くんが私と同じクラスになったのでしょうか。
そうなると去年から私は彼と同じ学校に通っていた事になります。
それなのに全く気付いていなかったとしたら私はなんと間抜けなのでしょう。
そんな事を考えながら教室に向かうと
そこには彼がいたのです。
今まで見ていたのは画面越しでしかありませんでしたが
何度も何度も見た亜栖瑠くんがそこに居たのです。
トクンと胸が高鳴った気がします。
だってあの世界チャンピオンの亜栖瑠くんが目の前にいるんですよ?
むしろ何故他のクラスメイトは平然としていられるのでしょうか。
そして気が付くと私は彼の前に立っていました。
「亜栖瑠くん、おはようございます」
「え、あ、お・・・おはよう」
何と亜栖瑠くんは私にちゃんと挨拶を返してくれました。
嗚呼とても良い声です。
何度も動画で聞いていた声ですが生声というのはいいものです。
しかししつこいファンは嫌われてしまいます。
あいさつの後はすぐに席に戻りファンとして適切な距離を保ちます。
その日は始業式とホームルームだけの半日でしたが
その間私の心はずっとポカポカしていました。
「亜栖瑠くん、さようなら。また明日」
「あ、はい、また明日」
帰り際にも亜栖瑠くんと挨拶を交わします。
ああ、なんという極楽なのでしょう。
しかしその浮ついた気持ちが落ち着くことはなく
バイオリンの先生にも今日の演奏は気持ちが入ってないと怒られてしまいました。
明日からは気をつけねばなりません。
習い事も終わり、夕食も終えて自室に戻るとMTNの時間です。
といってもそれほど時間がある訳ではないので
ランダムマッチを1回するだけにします。
ランダムマッチを選んで表示された相手の名前は
blue_clash
私が何度か対戦している相手の中でも非常に苦手な方でした。
デッキの構築内容は亜栖瑠くんのフォロワーなのか
彼のデッキタイプに非常に似ています。
というかプレイングも似ておりとても高度なプレイをするので
一瞬のプレイミスが命取りになります。
この日の対戦はミスらしいミスはしなかったと思うのですが
僅差で負けてしまいました。
これ以上強くなるのには何かが必要です。
その時ふと思い浮かんだのです。
亜栖瑠くんにMTNを学んでみるのはどうか、という考えが。
正直イチファンとしての領分を超えた行為だと思います。
でも幸運なことに彼はクラスメイトなのです。
クラスのお友達と仲良くなって趣味の事を教えてもらう、
これこそがお父様の言っていた学生らしい生活ではないのでしょうか。
そうと決まれば善は急げと言います。
明日にでも亜栖瑠くんの連絡先を聞いてお願いしましょう。
翌日教室で亜栖瑠くんの連絡先を交換して貰った私は有頂天でした。
今までの学生生活においてお友達すら作れなかった私が
憧れのプレイヤーである亜栖瑠くんと連絡先を交換できてしまったのです!
家族を除いた私の連絡帳に初めて登録された人が亜栖瑠くん!
この興奮は冷めやらずこの日のクラシックバレエの先生に
指先まで意識が乗っていないと怒られてしまいました。
クラシックバレエのレッスンも終わり、
自室に戻ったので早速亜栖瑠くんに連絡して、
MTNを教えて貰えるようにお願いしましょう!
『(鳳凰院)亜栖瑠くんまだ起きていますか?』
人生初の家族以外とのチェインを私は震えながら打ち込みました
『(亜栖瑠)はい、起きてます』
するとすぐに返事が返ってきました。
『(鳳凰院)少しお話したいのですがよろしいですか?』
再び震える指を必死に動かしてメッセージを送ります。
『(亜栖瑠)はい、大丈夫です』
亜栖瑠くんは事も無げに返事を返してくれます。
私はこんなにドキドキしているのにズルイです。
電話越しに話す亜栖瑠の声にますますドキドキしてしまいます。
本当はこの場でMTNの事を話してしまっても良かったのでしょう。
でも亜栖瑠くんともっと話したい、
そう思ってしまった私はその本心を隠してこう言ってしまいました。
「お願いごとをするのにこのままお電話で、というのは不躾ですね。
もしよろしければ明日の放課後に喫茶店で
この続きのお話をさせて頂けないでしょうか?」
亜栖瑠くんはその提案に同意してくれました。
明日も亜栖瑠くんとMTNの話が出来る、その思いで胸がいっぱいで
通話を終えた後も私は中々眠ることが出来ませんでした。
そして今日、私は馴染みの喫茶店で亜栖瑠くんにお願い事を打ち明けました。
私が亜栖瑠くんのファンだという事は恥ずかしくて言えませんでしたけど…。
亜栖瑠くんは私のお願いを聞いてくれました。
私の憧れる亜栖瑠くんがこれからMTNについて教えてくれる日々が始まる。
本当に夢のようです。
ベッドにうずまりながら思うのです。
こんなに幸せでいいのだろうかと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます