第4話 平穏の終わり
翌日登校した俺は今日も来人ととりとめもない
オタク高校ライフを満喫する予定だった。
なのに
「亜栖瑠くん、おはようございます」
「おはよう」
またも鳳凰院さんから朝の挨拶をされてしまった。
マジで何なの!?
多分クラスメイトも学園のトップオブトップが
急に底辺陰キャに話しかけ始めた理由を知りたいのだろうけど、
下手に鳳凰院さんの逆鱗に触れるとマズイと思ったのか遠巻きに眺めているだけなのが救いだった。
午前中の授業で何か視線を感じると思うと鳳凰院さんが何故か俺を見ていた。
目線が会うとふと目を逸らすのだが、また数分すると視線を感じるのだ。
えっえっ俺マジで何かやらかしちゃいました?
鳳凰院家に睨まれたら進学や就職に影響出ちゃうんじゃないの!?
怖い怖い怖い怖い。
黒百合に裏切られた時とは別種の恐怖が俺を包み込んでいた。
そんな恐怖に耐えきり昼休みを迎えた。
来人を一緒に飯を食う。
青ねぇの作ってくれた弁当は絶品なはずなのだが
午前の恐怖が尾を引いて味が分からない。
「なぁ俺死ぬのかな・・・」
思わずこぼしてしまった。
「流石に死にはしないだろ・・・
そりゃ珍しいけど鳳凰院さんだって人間だし挨拶くらいするだろ」
「でも俺以外には挨拶してないじゃん」
「それはそうなんだが・・・」
「下手に動いて怒らせるのも怖いしどうすりゃいいんだか・・・」
「実は幼い頃に出会ってた期間限定幼馴染だったりとか?」
「俺が幼少期は施設育ちなの知ってるだろ。
どうやっても鳳凰院の人間とは知り合わねぇよ」
「それもそうか・・・マジで俺にも想像つかんわ。
・・・あっ!!」
「あっ?何か思いついたのか?」
「いやそうじゃなくて後ろ」
「後ろ?」
来人の言葉を受けて振り向くとそこには鳳凰院さんがいた。
「え゛?」
思わず今まで出したことがないような声が出た。
「えっと鳳凰院さん何か用かな・・・?」
気を取り直し、何とか取り繕って尋ねてみる。
「えっと、亜栖瑠くんと連絡先を交換したいのですが・・・」
はい????
この時俺だけではなく世界の時間が止まったと思う。
間違いなくクラスの空気は固まり、誰もが静止していた。
「えっと僕は亜栖瑠蒼太ですけど他の人と間違えてませんか?」
かろうじてそれだけを絞り出した。
「間違ってなどいません。私は亜栖瑠くんと連絡先を交換したいのです」
え?????????
再び世界が静止した。
鳳凰院さんが何を考えているのか分からない。
彼女のような上流階級の人間が俺みたいな陰キャと何を連絡するというのだろうか。
「駄目・・・でしょうか?」
そう言った彼女の眼には悲しみが映っており、
もしこれを断ったら泣くんじゃないかという表情だった。
「えっと、俺のでよければ」
間違っても鳳凰院さんを泣かせたなんて事が広まったら
このクラスはおろかこの学校に俺の居場所は無くなる。
つまり俺にはこの要望を受けるという選択肢しかなかった。
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑い彼女は電話番号とチェインIDを俺と交換した。
そして自席へニコニコしながら自席へと戻っていく。
「お前やっぱ今日死ぬわ」
背後から聞こえる来人の声が冗談に聞こえなかった。
その後どうやって授業を受けて、どうやって自宅に戻ったのか記憶にない。
唯一覚えているのは今日も鳳凰院さんが帰りの挨拶をしてきたという事だけだ。
鳳凰院さんの謎の行動についてひたすら悩み、
ベッドの上で悶々としているとピロンとスマホが鳴った。
『(鳳凰院)亜栖瑠くんまだ起きていますか?』
まさかの鳳凰院さんからのメッセである。
これを既読無視なんてしたらマジで死ぬしかない。
『(亜栖瑠)はい、起きてます』
『(鳳凰院)少しお話したいのですがよろしいですか?』
殿上人である彼女が俺と何を話す必要があるのか俺には理解できない。
しかし一般ピープルである俺が彼女の要望を断れる訳はないのだ。
『(亜栖瑠)はい、大丈夫です』
そう打ち込むと数秒してチェイン通話が鳴った。
「亜栖瑠くん、夜分遅くに失礼します」
「いえいえ、いつももっと遅い時間まで普通に起きてるから気にしないで」
「そう言って貰えると助かります」
「ところで何で俺に電話を?」
「そうですね。突然の電話で驚きかと思います」
突然の電話どころか昨日からの突然のあいさつに驚きっぱなしだよ、
とは言えなかった。
「実は亜栖瑠くんにお願いがあるのです」
天下の鳳凰院家のお嬢様が俺ごとにお願い?
俺なんかに出来ることは鳳凰院家のコネと金で
何とでも出来そうなものだが何故俺なんだ?
「亜栖瑠くんに私の先生になって貰いたいのです」
「はい?先生?」
彼女は先生と言ったのか?
聞き間違えではないかと思わず聞き返してしまう。
「はい、先生です」
先生と言われても俺の学業の成績はだいたい50位前後だ。
それに対して鳳凰院さんは常に3位以内というか大半は1位だったと記憶している。
俺が彼女に教えられることなど何もないはずだ。
「えっと、俺が鳳凰院さんに教えられることなんて何もないと思うんだけど・・・」
「いえ、あります。
私が教えて頂きたいのはMTNについてです」
は?????????????
二度あることは三度あるというが、今日三度目の世界静止の瞬間である。
「今MTNって言ったけど。
それってカードゲームのMagic The Nightのことで合ってるかな?」
イマイチ自分の言葉すら信じられずに震えた声で聴く。
「はい、あっております。
そのMTNについてご教授願いたいのです」
「ちょっと待って。
鳳凰院さんみたいな人がMTNを知っているのも驚きなんだけど、
MTNをやりたいってこと?どうしてまたそんなことに?」
混乱する俺に対して鳳凰院さんは静かに語り始めた。
「MTNについては知っているというより既にプレイしております。
MTNアリーナ限定ですがそれなりに造詣は深いと自負しております。
しかし、私はアリーナだけでなく日本チャンピオントーナメントに出たいのです。
その為にも世界チャンピオンである亜栖瑠くんに師事したいのです」
鳳凰院さんがMTNアリーナをやってる?
俺がMTN世界チャンピオンであることを知っている?
何故?どうして?
疑問は止まらない。
「お願いごとをするのにこのままお電話で、というのは不躾ですね。
もしよろしければ明日の放課後に喫茶店でこの続きのお話をさせて頂けないでしょうか?」
「う、うん。分かった。じゃあ明日の放課後に」
混乱する頭でなんとかそれだけ言うと、おやすみと俺は電話を切った。
混乱した頭のまま、結局俺は二日連続で寝落ちするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます