第3話 美少年と姉
俺は来人と池袋にあるカードゲームショップにやってきた。
ここにくるのは2か月ぶりくらいか?
「おー!蒼太じゃねぇか!
世界チャンピオン様がこんな小汚い店になんの用だい?」
「マスターおひさ!ホームに帰還したのになんつー言い草だよ」
「だっはっはスマンスマン。
まさかこの店の常連から世界チャンプが出るとは思わねぇよ。
後でサイン貰っていいか?」
「マスターの頼みなら何枚でも書くよ。
つってもサインなんて洒落た感じじゃなくって普通に名前書くしか出来ないけど」
「それで構わねぇよ、あとでサイン貰うカード選んでおくから頼むな」
「ほいよー」
店長であるマスターとの会話をそこそこに切り上げると対戦スペースに向かうと見知った顔があった。
「おー!晴じゃん!久しぶり!」
「そー君!本当に久しぶり!」
2年ほど前にこのショップで出会ったMTN仲間だ。
黒髪ショートヘアの似合う美少年である。
下手なその辺の女の子より可愛いかもしれない。
同い年の高校生らしいが既に私服に着替えておりどこの高校かはわからない。
まぁショップ仲間のプライベートをそこまで根ほり葉ほり聞くつもりもないので構わんが。
しかしそんな可愛い見た目に反してMTNの腕前はなかなかで
ここ2年は連続でMTN日本チャンピオントーナメントに進出している。
「ここ二か月そー君が居なかったからひたすら宝田くんをボコってたけど歯ごたえ無くて困ったよ」
「悪かったな店舗大会優勝が限度の雑魚で!」
「あははは、冗談だって!
4回に1回くらいは負けてたし宝田くんも強くなってると思うよ」
晴は来人とも友人でありよく対戦をしている。
「この2か月で来人がどんだけ強くなったか試してやるよ!」
「おっしゃ!世界チャンプだろうが蒼太は蒼太だ!負けねぇぜ!」
「そー君!宝田くんとの対戦終わったら次はボクね!」
「OK、晴もまとめてボコってやんよ!」
「はー?ボクがそんな簡単に負ける訳ないんですけどー?」
そんな軽口を叩きつつ、いつもの日常を楽しんだ。
因みにフリープレイの戦績は
来人戦3勝0敗
晴戦 2勝1敗
であった。
むぅ、晴のやつ明らかに強くなってる。
この勢いなら今年の日本チャンピオントーナメントは結構いいとこまでいくのではないだろうか。
俺もうかうかしてらんないな。
ちなみにマスターからサインを頼まれたカードは世界大会決勝の決め手になった青のスペルカードだった。
本当に俺のことをよく見ていてくれてるなとジンワリきた。
夕方の良い時間になったので3人で池袋駅まで移動し、そこで別れる。
「そー君、次はいつショップにくるの?」
「明日からは普通に授業あるし、次は土曜かな?
もし都合悪くなったらチェインで連絡するわ。
来人も土曜はこれるか?」
「うんにゃ、この週末は実家の法事なんだよ」
「宝田くんは来れないのか残念。
じゃあそー君とボクの二人っきりだね」
「いや、別に他の人もいるし二人っきりじゃねぇよ」
「あ、そろそろ快速に乗り遅れちゃうからボク行くね!」
「おう、また土曜にな!」
そう言って晴と別れると、その後来人と同じ電車に乗り、途中の乗り換えで別れた。
「ただいまー!」
「そーちゃんお帰り!」
家に帰ると青ねぇが出迎えてくれる。
3歳年上の義理の姉だ。
俺が小学5年生の頃に義母が無くなって以降、
義母の代わりになるかのように俺を優しく包んでくれた俺の大事な家族だ。
玄関で靴を脱いでいると鼻孔をくすぐるいい匂いが漂ってきた。
「青ねぇこの匂いってもしかして」
「うん、そーちゃん好物のビーフシチュー!
2年への進級祝いにお姉ちゃん頑張りました!」
「青ねぇありがとう!」
「どういたしまして」
そういうと青ねぇは俺を抱きしめる。
子供の頃はよく抱きしめられていたし、当時は何とも思っていなかった。
だが高校生にもなって姉に抱きしめられるのは恥ずかしいことこの上ない。
あのアメリカ帰宅の翌日以降、青ねぇは家族の絆を確かめるように俺をよく抱きしめるようになった。
そんな青ねぇの気持ちが分かるからこそ俺はなすがままにされることにしている。
しかし姉弟とはいえ青ねぇのこのおっぱいの破壊力はヤバい。
決して反応してはならないと理性をフル動員する。
万が一反応して、それが青ねぇにバレたら絶対に嫌われる。
たった二人の家族の内、一人に嫌われてしまったら俺はもう生きていけないかもしれない。
「そーちゃん成分補充100%!」
そういうと青ねぇは俺から離れてくれた。
「鞄置いて着替えてきたらすぐご飯にしようか。
準備しておくね」
「うん、わかった。すぐ着替えてくる」
俺はそう告げると2階の自室に向かい、手早く部屋着に着替えてリビングへ向かった。
「はぁ・・・青ねぇのビーフシチューは最高だよ・・・」
あまりに美味しすぎるビーフシチューを前にしみじみと呟く。
「そーちゃんに褒めて貰えると嬉しいな」
「だってこんなに美味しいんだもん!美味しいって褒めなきゃ嘘だよ!
その辺のレストランで食ったやつより断然美味しい!」
「それは褒め過ぎだって」
「いやいや、褒め過ぎなんてことはないよ。
これなら毎日でも食べたいくらいに美味しいし」
「ま、毎日食べたいんだ…」
青ねぇが口をつぐむ。
ビーフシチューは手間のかかる料理だ。
毎日食べたいは流石に負担になるだろうし言い過ぎただろうか。
「そういえば新しいクラスはどうだったの?」
「来人と同じクラスで一安心したよ」
「宝田君と一緒だったの、よかったじゃない!」
「うん、取り敢えずこれでぼっちは回避したよ」
「他には何かあった」
「あー、鳳凰院さんもクラスメイトになったね」
謎のあいさつを告げてきた美少女クラスメイトをふと思い出した。
「鳳凰院さん?鳳凰院ってあの大財閥の?」
「そう、その鳳凰院。そこのお嬢さんが同じクラスになったよ。
あまりにも別次元の存在過ぎて今後気を使いそうでちょっと憂鬱」
「ふーん、ところでその鳳凰院さんって美人?」
「美人か美人じゃないかで言えば圧倒的美人かな。
ウチの高校じゃ間違いなく一番の美人だし、
その辺のアイドルじゃ勝てないってレベルの美人。
そんな綺麗な人だから余計に近寄りがたいんだよね」
「ふーん、美人なんだ、へー、よかったね」
「青ねぇ俺の話聞いてる?
同じクラスで気が重いって話をしてるんだけど」
何故か急に機嫌を損ねる青ねぇに困惑しながらも美味しい晩御飯はしっかりと堪能した。
食事を終える頃には青ねぇの機嫌も直っていた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
「じゃあ俺が皿洗っちゃうね」
「そーちゃんありがとね」
「いつもの事なんだしお礼なんていいよ」
「そーちゃんだって毎回料理にお礼してくれるしお相子だよ」
うーん、料理を作るのと皿を洗うのでは釣り合いが取れてない気もするが
青ねぇの中で納得がいっているならいいか、と皿を洗い始める。
「親父は今日も残業?」
「うん、多分終電間近まで残業だって」
「身体壊さなきゃいいけど・・・」
信託銀行で働く親父は激務である。
終電間近での帰宅は当たり前で、たまに会社に泊まり込むこともある。
今度休みが取れたら温泉旅行とかプレゼントしたい。
こういうお金の使い方なら親父も怒らないだろうし、
そんなことを思いつつ皿洗いを終えた俺は部屋に上がる。
自室に戻った俺はタブレットを手にする。
そしてあるアプリを起動する。
『MTNアリーナ』
スマホ、タブレット、パソコンでもMTNを無料でも楽しめるアプリだ。
俺のMTNアリーナでの日本人ランキングは22位。
どちらかというと紙でのプレイを重視し、アリーナはあくまで調整と割り切っているのでこの順位に別段不満もない。
「今日はランダムマッチにするか」
フレンドがあまりログインしていなかったので順位帯が近い人とマッチするランダムマッチを選ぶ。
すると10秒程度でマッチ相手が決まった。
「うへ・・・マジかよ」
画面に表示されたのは『white_lily』の文字。
現在MTNアリーナ日本人ランキング10位である通称ホワリリさんだ。
順位的には俺の方が下だが彼女との戦績は悪くない。
6:4いや7:3くらいで俺の方が勝ち越している。
しかしどの勝利も薄氷の勝利だ。
彼女との勝負は本当に神経を使う。
晩飯後の軽いプレイのつもりだった気持ちを本気モードに切り替える。
10分後、今夜も何とか薄氷の勝利を収めた。
俺の残りライフは2。
薄氷にもほどがあった。
ホワリリさんからGG(グッドゲーム)のエモートが飛んできた。
俺もGGのエモートを返す。
ホワリリさんはエモートでしか他のプレイヤーと対話をしない。
ボイスチャットはおろか文字チャットもしない。
それ故に完全に正体が謎のプレイヤーなのである。
それでいて煽りエモートなどは決してせず、対戦後のエモートは礼儀正しい。
ホワリリさんと対戦したプレイヤーは
アリーナプレイヤーの全員がホワリリさん並みの民度ならいいのにとこぼす程だ。
軽く流す予定だった1戦が激闘となった影響か急激な睡魔に襲われた俺はそのまま泥のように眠ってしまった。
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