第2話 チャンピオン帰還

4月の暖かな日差しの中、俺は高校に登校していた。

数日前までアメリカに居たため、いまだに時差ボケで若干眠いが、

今日は始業式とホームルームだけだし大丈夫だろう。


「うーっす蒼太!」

校門の手前で僕に声をかけてくる奴がいた。

宝田たからだ来人くると

俺の中学時代からの親友だ。

「おっす来人、久々だな」

「そりゃお前が春休み中ずっとアメリカだったしな」

「そういやそうか」

「それしてもチャンピオンやったな!おめでとう!」

「サンキュ」

「メッセでは言ってたけどやっぱり直接言いたかったんだわ」

「何度も言われるとこそばゆいな。

 てかこの話してたら遅刻しちまう!

 まずはクラス確認して教室行こうぜ」

校門を抜け、掲示板に張り出されているクラス割を見る。

「お、ラッキー蒼太をクラス一緒じゃん!」

「マジか、これで休み時間もMTNトークできるな!」

「あと鳳凰院さんも同じクラスかマジでラッキーだわ」

「鳳凰院さんかー、綺麗だけどなんつーか苦手なんだよな」

鳳凰院ほうおういん白雪しらゆき

この高校で彼女を知らない者はいないと言わしめる有名人物。

かの大財閥 鳳凰院家の令嬢であり、類稀なる美貌で高校一の美人として有名だ。

しかしその家柄故に気軽に話しかけれる存在ではなく、

まさに高嶺の花といった存在なのだ。

俺からするとあまりにも綺麗すぎて目に痛い存在と言える。


「まぁクラスが一緒になったつっても俺らには無関係だろ。

 こちとら陰キャオタクだぜ」

「でも蒼太は世界チャンプだろ?

 もうただの陰キャとは違うだろ」

「変わらないよ。所詮カードゲームなんて陰キャ御用達ゲーム。

 晴れやかな陽キャの皆さんからしたら世界チャンプなにそれ?だよ」

来人とそんな雑談をしながら教室に向かった。


教室に着くとまだ席は半分くらいしか埋まってなかった。

黒板に書かれた席順を確認して座る。

まぁ亜栖瑠あずるなんてすっとんきょんな名字のせいで

基本的に俺は初期位置が左前以外はあり得ない訳だが。

宝田である来人はクラスの中央部。

分かってはいたが席が遠いぜ。


そんなことを考えていると凄まじい美少女が教室に入ってきた。

プラチナブロンドのロングヘアに金色の目という日本人離れした外見。

制服の上からでも分かる豊満な身体。

誰もが見惚れる我が校のマドンナ鳳凰院白雪である。


「ん?」

彼女の席は名字の順番からして来人より右側。

つまり廊下側のはずだ。

なのに彼女はツカツカと教室を突き進んでいる。

いや突き進んでいるというか明らかに俺を目指してやってきている。

「亜栖瑠くん、おはようございます」

「え、あ、お・・・おはよう」

あまりの想定外の出来事に固まりながらな何とか挨拶を返す。

俺の挨拶を見届けると鳳凰院さんは天使と見まごうような笑みを浮かべながら自分の席へ戻っていった。

鳳凰院さんの謎の行動にクラスはざわついていたが直ぐにやってきた教師によりホームルームが開始され、その真意は有耶無耶になってしまった。


始業式の後のホームルームを終えてあっという間に放課後になった。

来人とどっかで昼飯食って遊びに行くかな、と考えていると目の前に鳳凰院さんがいた。

「亜栖瑠くん、さようなら。また明日」

「あ、はい、また明日」

美しい笑みを浮かべながら去っていく鳳凰院さんを俺はぼーっと見つめる事しか出来なかった。


「おい!蒼太いったい何したんだよ!?」

「いや俺にもわかんねぇよ!」

あの鳳凰院さんが糞陰キャの俺に二度も挨拶するとかどうなってるんだ?

もしかして俺は異世界にでも転生したのか!?

そして気が付くとクラス中の視線が俺に突き刺さっていた。

これは不味い。

「来人、取り合えず駅前行くぞ」

そういうと来人を引っ張って俺は教室を後にした。


駅前のモックでてりやきバーガーセットを食いながら来人と駄弁る。

「なぁ蒼太よ、本当に心当たりないのか?」

「ないって、そもそも鳳凰院さんとは1年の時クラス違うし、

 今朝まで一度も話したこと無いぞ」

「実は俺に隠れて告白してたりとか?」

「そんな度胸ねぇよ。つか今は彼女とかいらない」

「あ、すまん。冗談でも言うべきじゃなかったな」

「別にいいよ。お前のことだし悪意ある訳じゃないのは分かってる」

黒百合とのことを知っている来人はバツが悪そうな顔をした。

「ところで大会の賞金ってどうしたんだ?すんげー額だろ」

気まずい空気を変えるために来人は別の質問をしてきた。

「全部家族に渡した」

「マジかよ」

「でも渡したら親父にブン殴られた」

「マジかよ」

「マジ」


アメリカから帰国した翌日のことを思い出す。

俺は義理の息子で親父と姉とは血が繋がっていない。

そんな俺を育ててくれた親父に今まで育ててくれたお礼だと賞金の全額を手渡そうとした。

きっと俺は恋人という血の繋がりのない関係を裏切られたことで

義理の家族という血の繋がりのない家族に捨てられることを恐れ、

金の力で家族の絆を強く結ぼうという気持ちがどこかにあったのかもしれない。

きっと親父はそんな俺の弱い心を見抜いていたんだろう。

思いっきり俺を殴り飛ばすと

「俺も死んだ母さんもそんなつもりでお前を引き取ったんじゃない!お前の親父を舐めるなよ!」と叱責された。

「世界中がそーちゃんの敵になってもお姉ちゃんはそーちゃんの味方だよ」と姉は俺を抱きしめてくれた。

俺は確かに恋人を失ったかもしれない。

でもそれだけだ。

人との繋がりなんて人の数だけある。

俺は父と姉を信じなかったことを恥じて泣いた。


「ってことがあってさ」

「うぇ・・・うぇぇ・・・」

「え!?来人何泣いてんの!?」

「そんなん聞かされたら泣くに決まってんだろ。

 親父さんも青子あおこさんも本当にいい人だな」

「ああ、俺には勿体ない家族だよ」

「んで賞金は結局どうしたんだ?」

「貯金と資産運用。いざ必要になった時に使え、金はある種の力だ、だってさ」

「ふーん、じゃあ普段の小遣いが増える訳じゃねぇのか」

「今から使うと金銭感覚ガバガバになりそうだしな。

 ただ、今年も日本代表になったらアメリカへの渡航費とかには使っていいってさ」

「そりゃ賢明だな」

「ところでこの後マスターに報告に行こうと思うんだが来人はどうする?」

「俺も久々にお前とやりたいし着いていくわ」

「OK、じゃあ行くか」

ハンバーガーを食い終わった俺たちはいつもの店へを向かうのだった。

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