黒①① 脳を破壊する。それは再生できない。

せーてん

■第1部 4色の集い

第1話 MTN世界チャンピオン

その日僕-亜栖瑠あずる蒼太そうた-は普段行くことのない鶯谷に居た。

エロいブツを買いに行ったとかではく、ネット上で繁華街の奥に掘り出し物が眠っているカードゲームショップがあるという噂を見つけたからだ。

飲み屋や風俗店、ラブホなどが立ち並ぶ街の一角に本当にそのショップはあった。

シングル価格が相場より安いだけでなくストレージにも結構なお宝が眠っている本当に穴場の店だ。

これは今後も定期的に通わねば、と興奮しながら店を出た。


しかし、次の瞬間その興奮は吹き飛んでしまった。


「え?」

「え・・・」

「ん?なに?」


店を出た僕の目に飛び込んできたのは

向かいにあるからである裏咲うらさき黒百合くろゆりであった。


「黒・・ゆり・・・?」

何を言うべきか、何を聞くべきか、何をするべきか。

何も分からず呆然と僕は呟いた。

そんな僕の呟きをかき消したのは黒百合の腰に手を回している見知らぬ男だった。


「お前って黒百合の彼氏くん?付き合って3か月も経つのに

 手しか繋いでないヘタレな彼氏くん?

 わりーけど黒百合の初めては全部もう貰っちゃってるからざーんねん!

 でもヘタレなお前が悪いんだぜ」


何を言っているんだ?

何を言っているんだ?

何を言っているんだ?


この男が言っている言葉の意味が何一つ理解できない。

かろうじて視線を黒百合に向けると


「ごめん・・・」


黒百合のその呟きがこの男が言っていることが真実だと告げていた。

その後僕はどうやって家に帰ったかも覚えていない。

ベッドに包まる僕に父や青ねぇが色々と声をかけてくれた気がするが何も僕の耳には届いていなかった。


翌朝目覚めると僕のスマホには黒百合からの謝罪メッセージが山ほど届いていた。

つまりこれは昨日の出来事が夢ではなかったことの証明である。

僕は朝から胃液を死ぬほど吐いた。

とても学校にいけるメンタルではなかったので父に今日は休みたいと告げると父は何も言わずに分かったと言ってくれた。


そして僕はスマホにある黒百合の連絡先を全てブロックし、

黒百合との思い出の写真を全て削除し、再びベッドで眠りについた。


目が覚めたのは夕方前である。

スマホには親友である宝田からのメッセージが届いていた。

『おーい体調不良らしいけど大丈夫か?』

『お前しないとMTNの対戦できねーから早く復帰しろよ』

簡素ながらもいつも通りのメッセージが今の僕には嬉しかった。


「MTN・・・」

MTN、正式名称Magic The Night。

世界的に有名なトレーディングカードゲームである。

宝田からのメッセージを見てふと思った。

今の僕に残っているのは何なのだろうと。

黒百合と出会ったのもMTN絡みであり、MTNは今の失恋をも刺激する劇薬である。

それと同時に僕がそれまでの青春を全てつぎ込んでいたものであり。

僕を形作る存在そのものとも言えた。

初めて出来た彼女を失った俺に残っているのは

彼女が出来る前から積み上げてきたオタク人生の集大成であるMTNの腕前位ではないだろうか。

ならもう僕は女の子への未練など捨ててMTNに打ち込んで行けるとこまで行くしかないのではないか?

そう心に浮かんだ考えを僕は否定することが出来なかった。


「よし、やろう!」

そう覚悟したらさっきまでの憂鬱な気分が一気に晴れた気がする。

もう僕にはMTNしかないんだ行けるとこまで行くさ!

そしてMTNで行けるところまで行った時、僕はMTNに絡みつく黒百合との思い出も断ち切ることが出来るんじゃないか、そんな予感があった。


そう心に決めてから9か月後の3月。

僕はラスベガスに居た。

MTN世界大会決勝戦。

それが僕の居場所だった。

でも僕のいけるとこはここまでじゃない。

もう一歩先まで行けるはずだ。

そう思い手を伸ばしドローしたカードを見た瞬間僕は勝利を確信した。


そしては日本人初のMTN世界チャンピオンとなり、賞金100万ドルを手にした。


------------------------------------------------------------------------------------------------新作の連載を何とか開始できました。

本日はこの後22時に2話を続けて公開します。

3話以降はストックが切れるまでは隔日で1話ずつ公開できればと思っております。

ちなみに本作に出てくるカードゲームは現実のモノとは一切関係ありません。

作者が昔やってたものにフンワリ寄せているだけなのでそこらへんはご容赦下さい。

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