第3話



毎年県大会出場、全国大会を目指す程の成績をおさめている吹奏楽部が我が校の自慢でもあった。

彼女はその部でクラリネットを吹いていた。

やはり彼女はどこにいても自由に振る舞う。


放課後になると校舎の至る所に吹奏楽部のメンバーが

楽器のパート毎に集まり練習していた。

西階段の踊り場にはトランペット、東の1階廊下にはパーカッションってな感じに練習していた。

クラリネットは4階の理科室前の廊下だったけど…

いつも彼女だけは1人で中庭で練習していた。

ガラス窓と壁に囲まれた中庭はとても響くので、きっと心地が良かったんだろうと思う。

僕はよく2階のガラス窓から彼女の演奏を贅沢に堪能していた。


彼女が演奏する曲はあちこちで流れてくるような流行りのロックバンドのメロディやドラマの主題歌のメロディが多かった。

たまに 聞いた事のない曲も演奏していたけど、とても切なく綺麗なメロディだったのを覚えている。


彼女の個人練習では吹奏楽部の課題曲的なものを耳にすることは少なかったように思うが、彼女はソロコンテストで東北大会出場を遂げている。なかなか優秀らしい。

吹奏楽のことはよく分からない僕でも音の綺麗さは他のクラリネットの生徒よりも良かったのはハッキリ分かった。


先輩達に目を付けられていた彼女は1年の頃から呼び出しをくらっては何人もの先輩に囲まれては喧嘩を売られていたが、彼女はまともに相手にしていなかった。

何を言っても言い負かされるらしい噂を何度も聞いたことがある。そう言えば1度だけそんな現場を見かけた時があった。胸ぐらを捕まれ『おめー!調子乗ってんなよー!!』と怒鳴る先輩に対し、


『そうですね…確かに調子いいかも。今日は頭痛もなくて、

私の体調まで気にしてくれて ありがとうございます 』


と笑顔で言ったり。先輩達の言っている事への疑問を投げかけたりと、なんとも堂々としていた。

その光景を見ていた僕の方が焦ってしまい先生を呼んだけど…何故だろうか、結局怒られたのは彼女だった。

理由は目立っていたから仕方ない。目立たないように。そんなことだった。


その後 先生を呼んだ僕に彼女は

『ありがとう』と言ってくれたけど…ほんとにそれが適切だったのかは疑問が残った。そして、

僕は本質を見ようとしない そんな大人には絶対になりたくないと 大人への僕なりの反抗心を芽生えさせていた。


ごく一般的にヤンキーというものは、掃除や係の仕事はサボり、大人しい生徒に嫌がらせをしたり、後輩を殴ったり。

だけど彼女はとてもヤンキーには当てはまらなかった。

掃除も係の仕事もこなしていたし、成績はイマイチのようだったが、部活でもよい成績を上げていた。

改造された制服と出席日数を除いてみたら真面目なのではないかと、そう思うのは、僕が彼女に憧れ過ぎていたからなのかもしれない。



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ある日のこと、彼女は2週間近くも学校を休んだ。

プリントや溜まった課題を自宅に持っていくようにと先生から渡されたことがあった。

彼女のマスクに隠された傷の原因を知ることになるとは、まだ予想もできてなかった。








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