第4話



僕らの中学は3校の小学校から卒業生が入学してくる。なので、ほんとに関わりがないまま中学を卒業してしまう同級生の方が多くて、同じ学校の同じ学年で同じ3年間を共に過ごしたのに挨拶さえ交わせないままになる事も珍しくない。

大人になるまで特に何も感じなかったんだけど…平均的な規模の中学生と比べると 大企業のような中学校生活は少し寂しいと感じる時もある。

僕の場合は特にである。なるべく目立たず 極力静かに過ごしていたから。

だからこそ その中で関わりをもてた人、クラブや部活や委員会などで出会えた人を大切にしたいものだ。



家が近いわけでもないし、小学校だって別だった僕に 彼女へのプリントを託された理由が何なのか考えた。

僕と彼女の仲が良いように先生の目に写ってたのか……

それとも僕が一方的に彼女の事に詳しいように思っていたのか……

定かではないが おそらく後者の方に該当するのが自然だと思う。今で言うとこのストーカーってやつだろうか。いや、ストーカー的に感じていたとしたら、危険すぎる頼み事になる。


彼女の自宅は県営住宅が建ち並んだ一番奥の塔。

すぐ裏にはフェンスで仕切られた森があって、小さな川も流れていた。

フェンスには近所の子供が森へ行く為に開けたであろう抜け穴が空いている。人の足で踏み固められた小道が奥の小川へと続いてる。

ここらの子供達は歴代 その穴を通り抜け、この森で遊んで巣立って行くのだろう。


県営住宅はなかなか環境が良さそうだ。

何塔かに1つ設けられた小さな公園。

広い敷地の中央には遊具の充実した大きな広場。

その中に集会所と公民館。

近くにはスーパーや本屋、駄菓子屋と その前にはバス停も。

公民館では、県営に住んでる人なら誰でも利用できる図書室もあって、子育てするには最高な環境かもしれない。


平日の夕方だと言うのに、わたあめ屋や焼き芋屋 野菜をいっぱい積んだトラックなどが移動販売車が来ていて、住人が集まっていた。


プリントを手に僕は学校から彼女の自宅への道を まもなく1時間くらい歩いた頃、奥の塔に着き 階段を上がる。

彼女の家はこの塔の4階だ。

その時、やたら大きな音が上の方から階段を伝って響いてきた。

ドタン ガタガター ガシャーン

なんの音だろう。

外には引越し業者らしい車はなかった。それに

工事をやってるような様子も全く見当たらない。


3階まで上がったが 音は更に上の階からだった。

この塔は5階建て。

4階に着いた時だった。これはなんだか大変なことが起きているのではないかと中坊ながらに思った。

左右にドアがあり 音は左から聞こえた。


表札には「桜木」 まさしく そこは彼女の自宅だ。


ベルを鳴らすのも躊躇してしまう物凄い音、そして声が聞こえた。

『お前さえ いなければ!お前のせいだ!!』

『ギャーっ…うっ…ごめんなさい……ごめんなさい…』


この声…


悲鳴混じりで恐怖に晒されているような 聞くに絶えないこの声は、


桜木一音さくらぎいちね、彼女の声で間違いないと確信した。

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