第2話




『1年3組 桜木さくらぎ一音いちね』『はい』

入学式。一人一人 教頭の声で名前を呼ばれ、呼ばれた順に起立する 大凡どこの学校でもやるであろう入学式風景の中でも彼女は目立っていた。


我が校の制服は、女子のスカートは紺色で膝下10センチ、ネクタイは小豆色で太め、そして中途半端な長さの紺色のブレザーにブラウスは襟の先が丸いもの。


ついでに男子はグレーのズボンに黒い革製ベルト、青白い感じのワイシャツと青い太めのネクタイ、そして紺色ブレザー。

カバンは黒い革製の学生カバン。外靴は原則白いスニーカー。まぁ普通のカッコ良くも悪くもない制服だったが、彼女だけ違ってた。


スカートは膝上15センチほど、ブラウスも襟の大きめで襟先も尖っていた。ブレザーはスカートが10センチほどしか見えない長めのもので、ネクタイも細く改造されていた。


女子は靴下も決まりがあったようだけど、彼女はおそらくかなり長いものを脹脛ふくらはぎの辺まで下げてシワのよった感じに履いていた。

当時はまだルーズソックス何てものは出回ってもない頃で、後に僕は これは彼女が起こしたブームだろうと信じきっていた。なぜならルーズソックスが出回ったのはそれから3年も後の事だったからだ。


彼女の持つカバンも改造品だった。

板かと思うほどペッタンコでビーバップハイスクールか…今日から俺は!!で出てくるような、教科書など入れることなんて できるわけのない代物。

だから彼女は教科書をいつもロッカーに入れていた。いわゆる置き勉と言うらしい。

もちろんこれも原則禁止である。


服装や持ち物はいわゆるヤンキーそのもの。

だけど話し方や歩き方はいわゆるヤンキーをイメージするものでもなければ、東北ならではのイントネーションや訛りもなく。かといって敬語を使うこともなく、誰にでもフレンドリーな話し方だった。


空気を切って髪の毛をなびかせて颯爽と歩く。

まるで空気感が違う。すれ違う人に手を振り 笑顔で挨拶をする姿は、僕の目にはスーパーモデルのファッションショーのように見えていた。


こうも目立つと やはり敵もできるわけで。

1部の先生や先輩から目を付けられて 嫌がらせや 呼び出しは日常的にあったようだ。

まさに 出る杭は打たれるってことか。


今思えば 入学式から僕は 密かに彼女を観察してたのかもしれない。そして今更になって思うのは、それは僕だけの事でもない。更にいうと男子だけに限ったことでもなかった。


去年の2月14日、世の女子達はチョコの入った小さな箱を持って頬を赤く染め、男子はなんだか落ち着かず浮かれているバレンタインデーがやってきた。

しかし僕にとってのバレンタインは母と姉からチョコケーキを貰って家族で食べる日というものだった。


部活の帰り 廊下を歩いてると 彼女が何人もの女子に囲まれて例の小さな箱を持ちきれないくらい渡されていた。現代の若者のような『友チョコ』なんて風習は当時なかったのに 平均の男子より貰っていた。

どうやって持って帰ろうか困っているようでもあった。

でも後の話によると彼女は甘い物は得意ではないらしい。

だけど チョコをくれた相手の気持ちを大切にし ちゃんと自分で食べたとか。事実は闇の中だけど。


そんな いい噂も出回れば、

デパートやアクセサリー店で 万引きをした。とか

他校の男子を騙してはお金を貰っていた。とか

先生とできてるとか…


目立つ存在って何かと大変だなぁ…と 黒縁メガネ男子で頑張っても目立つことがない僕には全く必要ないであろう【目立たないで過ごす】術を身につけていったのだ。




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