第2話

雲一つない青の空。すがすがしいその背景を背負い、豚が三匹宙を飛んでゆきます。


 三匹は見事な放物線を描きながら飛んでいきましたが、豚ですので重力には抗えません。やがてその体は地面に惹かれ恋するようにくるくると落下してゆき――すたり。三匹は見事な着地を決めました。




「さて弟よ」




 一番上の豚が言いました。




「こうして家を出てきたわけだが、この先どうする?」


「家を追い出されたの間違いじゃないのかい、兄さん」




 二番目の豚がため息交じりに口を開きます。




「違うよ兄さん。僕ら、家の窓から放り投げられたんだよ」




 純粋そのもの、といったような無邪気な瞳で末の豚が訂正しました。




「そうだな、弟よ。我ら三兄弟、仲良く窓から放り投げられたわけだ。しかし問題はそこではないのだよ」


「この先どうやって生きていくか、ってことだろう?兄さん」


「そうだとも弟よ」


「簡単だよ兄さん」




 末の豚が無邪気に言います。




「母さんが言ったじゃないか。『一匹で立派に生きてゆくのです』って」


「……」


「……」




 輝く笑顔に兄たちは言葉を探し、そして結局見つけることができないまま、顔を見合わせ互いに頷き合いました。




「そうだな、弟よ」




 長兄はすっと目の前に続く道を指し示しました。


 豚ですので、短いものですが。




「ちょうど我らの前に道がある。そしてその道は三又に分かれている」


「まったく都合のいい展開だね、兄さん」


「我らはここで別れ、各々の道を行こうではないか」


「ねえ無視して話を進めるのはやめてくれないかい兄さん」


「賛成!賛成!」


「お前も自由が過ぎるよ弟」




 兄弟の真ん中というものは、いつの世でも上と下に挟まれ苦労するものなのです。


 しかし慣れとは恐ろしいもので、二番目の豚も早々と折れることを選びました。他に名案があるでなし、別段反対する理由もなかったのです。




「では、我らそれぞれの道を行こう!そうして立派な一匹豚になったあかつきには、またここで会おうではないか!」


「立派な一匹豚になったら!素敵な響きだね、兄さん」


「……そうかな」




 どの辺りが素敵な響きなのか今一つ理解しかねるとため息を吐きながら、二番目の豚は真ん中の道を指しました。




「じゃあ、僕はこの道を行くよ」


「ああ、では私は右だ」


「僕は左だね!」




 かくして三匹の兄弟は、その日各々の道へと第一歩を踏み出したのでありました。

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