A18-1.予期せぬ再会は素敵な出会いを連れてきてくれるものなんです
過去一で平和な回(╹◡╹)
つまり最も需要のないであろう回(╹◡╹)
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偶然だとは、思えなかった。絶対に何かがあると思って、そのことを家で待っていた師匠に伝える。今回あったことと、この前あったこと。その二つを伝えると、師匠は難しい顔をして、その可能性はあると言った。わたしが考えたことはありえることで、それならばできる限り対策を立てておくとも約束してくれた。
師匠が対策してくれるのなら、きっと安心だ。けれど、師匠を信じていないわけじゃないけど、相手が師匠の想定を超えることもあるかもしれないから、念の為なるべく子供たちには会わないようにしよう。そう心の中で決めて、もう気軽に会いに行ける子供がいないことと、そしてこれまでもほとんど会いに行ったことがなかったことに気がつく。なんだ、わたしは子どたちを大切だと言っていたくせに、愛していると言っていたくせに、ほとんど向き合ってこなかったのか。ほとんど向き合ってこなかったのに、あの子たちはわたしの子と言うだけの理由で命を落としたのか。
そう考えると、こんな親の元から早いうちに離れることができたモノは一番幸運なのかもしれない。今どうしているのかはわからないけれど、元気にしていてくれたら嬉しい。わたしは酷い親かもしれないけれど、それでも子供たちの幸せを願っていたのは、祈っているのは本当なのだ。誰が何を言おうと、それだけは間違いない。
そんなふうに考えて、自分を責めるのと同時に慰めながら師匠のおつかいを続ける。わたしも居場所を知らないモノは、たぶんどこかで元気にしているはず。場所を知っていても会っていなかった二人が、わたしと再会するまでは無事だったのだから、モノだって無事なはずだ。少なくとも、わたしの知らないところで魔王の信奉者に襲われているなんてことはないだろう。
唯一いつでも会うことのできたテトラは、もしもの時のためと言って師匠が別の場所にいてもらっているらしい。師匠の下にいれば安全なのだから、会いたいと思う気持ちもあるけれど、わたしのわがままのせいでテトラまで失うことになるかもしれないと思ったらそんなことは言えなかった。わたしはただ、師匠に言われた通りに動くだけ。それがみんなを守ることになるのだから。
そのはずなのに、そう思っていたはずなのに、しばらくして師匠のおつかいをしていたら、行先はわたしが子育てをしていた街だった。周囲の人たちがみんな優しいいい人たちで、わたしが仲間たちと一緒に冒険者をしていた場所。リックを失った場所で、子供たちを守るために壊れたまま見捨てた場所。
少ししり込みしながら街の中に入ると、当たり前かもしれないけどわたしの知っていた風景は残っていなかった。ずっと前に、全部壊れてしまった時に離れたのだから、当然だ。
何も知っているものがない、よく知っていたはずの街を歩く。今回の師匠のおつかいはこの街にある、あるものを持ってきてほしいというものなのだけれど、運が悪いことに具体的な場所がわからないので地道に探すしかない。
昔の知り合いに見つかったら気不味いので、フードをかぶって顔を隠しながら歩く。これはこれで怪しいので視線を集めるのだけれど、知り合いに見つかるよりはずっといい。
そう思っていた歩いていたはずなのに、不意に後ろから肩を掴まれた。それと同時に聞こえるのは、とても聞き覚えのある声。最後に聞いたのはもう何年も前だ。その頃と同じ声ではない。なのに、聞き覚えがあった。誰なのかわかってしまった。
わたしに声をかけたのは、かつて斥候をしていたミケだった。今日に動く手を失っても、何年もブランクがあったとしても、わたしのことを見つけることくらいわけないのだそうだ。
そうして、買い物に来ていたらしい仲間たちに捕まって、別れてから何があったのか話すように言われる。
話したい気持ちは、あった。わたしのこれまでのことを全部話して、もしかしたら責められて。そうするのが筋だろうし、きっとその方がわたしも楽になれる。そのことはわかっているのに、もしここで仲良く話したせいで、みんなが魔王の信奉者に目をつけられたらと思ってしまうとそうする気にはなれなかった。
「その、人を寄せ付けようとしない態度。なにか面倒なことにでも巻き込まれているの?もしそれで、私たちを巻き込まないために話せないなんて言うのなら、馬鹿にしないで。どうせもう老い先短い身よ。この命くらい、あなたと一緒にいるためなら、あなたの助けになれるのなら惜しくない」
相変わらず、ミケはいつでも鋭い。ちゃんと説明する前からわたしの状況に推測を立てて、わたしが逃げるよりも先にその理由を無くしてしまう。もうずっと会っていなかったわたしに対して、みんなを置いて行ってしまったわたしに対して、まだそんなふうに思ってくれていることが、うれしかった。良くないことだとわかっていても、その思いに甘えたいと思ってしまった。
そのまま言い返せずに、3人の住む家に連れていかれる。それぞれで暮らすよりも助け合いながら暮らした方が便利だからそうし始めて、いつの間にかやめ時を失ったらしい。そのままおもてなしされて、みんなと別れてからのことを少しずつ話していると、玄関の方から物音が聞こえてくる。
他に誰か同居人がいるのか、それかわたし以外の来客があるのかと思って、三人の顔を伺ってみると聞こえているはずなのに特に反応はない。つまりそれはこの家に、特に何も言わず入ってきてもおかしくない人がいるということだ。
一言二言くらい挨拶しておかなくてはと思って、居住まいを正して待っていると、聞こえてきたのはまたもや聞き覚えのある声。少なくとも今聞きたかったものではない、懐かしい声。
お邪魔しまーすと言いながら入ってきたのは、今どこにいるのかもわからなかった、わたしの一番上の子のモノだった。家から出たいと言って、親子喧嘩をした時のまま、ずっと会うことのできなかったモノ。きっと大丈夫と、無事だと信じていながら、やっぱり心配だったモノ。
「なんでお母さんがここに」
目が合って、わたしがすぐにわかったのと同様、直ぐにわたしがわたしであることに気がついたモノが、小さい声でこぼすようにつぶやく。その言葉を言いたいのはわたしも同じであったのだけれど、久しぶりに会うモノの前で、わたしは自分がどう振る舞えばいいのかわからなかった。
心配していたと、素直に言うべきなのだろうか。心配をかけて、と叱るべきなのだろうか。無事でよかったと、喜ぶべきだろうか。今まで何をしていたの?と質問するべきなのだろうか。
どれもしたかったし、思っていたことだったのだけれど、そのどれもが正しくない気がした。どう言っても、わたしの気持ちは正確に伝わらない気がした。
わたしが考え込んでいるのと同様、モノも何か考え込んでいるようで、わたしたちの間には沈黙が流れる。それを吹き飛ばすように、きっかけをくれたのは、ずっとタンクをしてくれていたマイクだった。
「アリウム、モノから大体の経緯は聞いているが、また言葉が足りなかったんじゃないか?気持ちは言葉にしないと伝わらないというのは、お前の師匠の言葉だろう。それに、過保護すぎるのはかえって子供の反発を招くことになるぞ」
昔からの知り合いの、わたしのことをよく知った相手からの鋭い言葉が胸に刺さる。最もで、言い返すことも出来ない言葉。
「モノもだ。この
わたしのことを見ていたモノの視線の質が、納得したような、可哀想なものを見るようなものに変わる。いろいろと言いたいことがないわけではないが、ほとんど事情を話していないはずのマイクから、ここまで心に刺さることを言われてしまうと、言い返す気力も起きない。
ちゃんと話し合いなさい!と言われて、膝を突き合わせて話し合う。わたしの過去のことを話して、やらなくてはいけないことを話して、仲間たちにもちゃんとは伝えたことがなかった、里の出来事も隠さずに話す。そこまで話した上で、わたしの守れる場所から離れてほしくなかったのだと、当時の気持ちを改めて伝えた。もちろん、今もそう思っていることは、伝えない。今伝えたとしても下手したら反感を買うだけだとわかっているからだ。
そこまで話したら、わたしが伝えられることはもう終わり。今度はモノが、どんな理由でどんなことを考えていたのか、わたしのことをどう思っていたのか、別れてから何を経験してきたのかを話してくれる。
幼い頃から留守にすることが多かったけれど、家にいる時はそれ以上に愛情を注いでくれた
「昔のお母さんは、私がお母さんみたいになりたいって言ったら、それじゃあお勉強を頑張らないとねって言ってくれたの。私の夢を応援してくれたの」
なのにあの後のわたしは、モノがわたしみたいに、冒険者になりたいと言ったら、そんなの危ないから
その事に今更気が付いて、謝る。もう過ぎたことだし、私もお母さんの気持ちを考えてなかったからお互い様だと、モノはわたしを許してくれた。
「私だって、今ならお母さんの気持ちもわかるもん。子どもが自分の仕事に憧れてくれたらって考えると嬉しいけど、
それに、と続けて、モノが教えてくれたのは、モノに子供が出来たのだと言う事実。想像もしていなかったことだからびっくりしたけれど、考えてみればわたしも同じくらいの歳の頃にはもう子供がいたのだから、おかしなことではないのだ。
一体いつの間にと聞くと、ここに3年のことだと教えてくれた。ずっと会っていなかったわたしがいつの間にも何もないのだけれど、わたしの知っている最後の姿は、まだ20くらいの頃のものなのだ。そんな歳のイメージが残っていた子供が、もう親になっている。そう聞かされると、やっぱり驚くのだ。
「そんなに驚くこと?そうだ、ちょっと出かけたいからマイクおじさんたちに預かって貰えないか聞きに来たんだけど、良かったらお母さんが面倒見てくれる?4人も育てたんだし、お母さんならもう慣れっこでしょ?」
そう言って、わたしが返事をするよりも先に部屋を飛び出していったモノ。そのまますぐに子供を連れてくるのかと思いきや、少し時間が経ってから戻ってきた時には見知らぬ青年も連れていた。
ちょっと拗ねた様子のモノに、紹介されたのは二人。一人は赤ん坊で、昔の我が子達によく似た赤ん坊。心做しかあの子たちと比べると耳が短い気がするのは、
アイリスと紹介された赤ん坊は、今は寝ているけれども元気な女の子らしい。ハイハイが早くて、目を離すのが心配なのだとか。
そんなアイリスを抱っこしているのは、全体的に印象が薄いけれど、優しそうな青年。モノのお婿さんで、名前はピーターというらしい。動きを見たところ、鍛えている様子はないし、何かを嗜んでいるということもなさそうだ。これでモノのことを守れるのかと一瞬考えて、十分な実力があるモノであれば守ってもらうどころかむしろ守る側だと思い直す。
そうだ。モノはもう、守ってもらわないといけない存在では無いのだ。わたしが守ってあげないといけないほど弱い子供ではないし、家計を支える柱にもなっている。そんなモノなら、優しく包み込んでくれるような、家を守ってくれるようなお婿さんがいれば安心だ。わたしみたいなちんちくりんがお義母さんになっても動揺した様子を見せず、丁寧に挨拶をしてくれるような好青年であれば、相手として不満もない。
そんなことを考えながらピーターの紹介を聞いていたのだけれど、その腕の中の小さいものが動き始めたのを見てからは、正直なところ話の内容はほとんど頭に入っていなかった。
小さい小さい命。透き通った真ん丸な目が、わたしのことを見つめるのだ。むちっとした小さくて短い手が、わたしの方に伸ばされるのだ。
話には聞いたことがあった。子供はかわいい。我が子はもっとかわいい。でも、孫は格別なのだと。子供に対して厳しく接してきたような頑固オヤジであっても、孫の前には無力なのだと。孫という生き物はそれだけの力を持っているのだと、話としては聞いたことがあって、けれどもわたしは、そんなことを言っても我が子よりかわいいものなんているわけがないとタカをくくっていた。
大間違いだった。かわいさの方向性が違うのだ。子供たちのかわいさは、守るべきかわいさ。導いて、大切に育てたいかわいさ。孫は、愛でるものだ。その行動の一つ一つに一喜一喜して、脳みそをかわいい漬けにするものだったのだ。
この日、わたしのハートは撃ち抜かれた。
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