Q18.なぜ会いたくないと思っている時に限って、かつて会いたかった人に会ってしまうのでしょうか?

 幼女が帰ってくるのを待つ間に、採れたてほやほやのトリーナ肉を料理する。文字通りまだ温かいので、鮮度だけは最高だ。もしかすると新鮮すぎて生食でもいけるんじゃないかな?私はエルフ肉なんて食べるのはごめんだが。


 きっと傷付いて帰ってくるであろう幼女のために温かいご飯を用意して、慰める準備が出来たらあとは素知らぬ顔で迎えるだけだ。私がトリーナちゃんの死を知っていては不自然だからね。豪華なご飯の名目は、私にとってやりたくない仕事を代わりにやってくれたお礼とでもしておこうか。


 適当な理由を作って待っていると、予想通り凹んだ様子の幼女が帰ってくる。それにしてもまあ、酷い顔だな。立て続け、と言うには間が空いているものの、それほど長くない期間で二人も子供を失ったらそうなるか。


 そのことに一人で納得しながら幼女に声をかけると、幼女から告げられたのはトリーナちゃんが死んでしまったということ。まるで初耳かのようにリアクションして、少し黙り込んでから、とりあえず料理を食べるように勧める。本当は知っているどころか、私が殺したんだけどね。そんなことは幼女にはわかりっこないからどうでもいいのだ。


「ねぇ、師匠。おかしいと思うの」


 料理を食べながら、幼女がおもむろに話しだす。なんか大事そうな話だけど、聞かなきゃダメだろうか、ダメだな。何がおかしいのかいと聞き返す。


「ジエンも、トリーナも、二人ともわたしと会ったすぐあとに死んじゃった。これまでずっと元気にしていたはずのふたりが、襲われる素振りもなかったはずの二人が、突然魔王のしもべに殺されちゃったの。そんなの、あんまりにも不自然だよ」


 言われてみればごもっとも。いくら幼女がチョロくて頭の弱い子であったとしても、ここまで露骨にやられて気付かないはずがない。気付くのが当たり前で、幼女の言葉じゃないけど気付かない方が不自然だ。


 すこし、やってしまったかなと心配する。会った直後に死んでしまった二人の子供に、狙ったかのように現れた魔王のしもべ。そして、その場に向かうように指示を出した私。普通に考えれば、こんな状況は私が怪しすぎる。


 やってしまったなと、内心思った。まだもう少し幼女の一番信頼出来る相手としていろいろとやっておきたかったのだけれども、一度疑われてしまったらもう、今までみたいに見逃されたりはしないだろう。こんなことになるのであれば、横着したり面倒くさがったりせずに、本物の下衆であるエフちゃんを頼って計画立案してもらうべきだった。


「絶対、何かおかしいの。それこそ、わたしの行動を把握出来ていないといけないし、わたしが何をされたら嫌がるのか、誰を大事にしているのかを知っていないとこんなことは出来ない。ねえ師匠、わたしの動きってひょっとして、全部魔王の信奉者に筒抜けなのかな」


 考えたくないといった様子で、もしもの可能性に思い至ったという表情の幼女。うーん、この子が頭の弱い子でよかった。私のミスで台無しになってしまうかと思ってヒヤヒヤしたじゃないか。やっぱり相手を甘くみるべきではないな。


 ひとまず今回は幼女の発言に乗っかっておくために、神妙な顔をしてありえなくはないと答えておく。と言うよりも、犯人が私だということを除けば、幼女の推理は全く間違っていなかったね。頭の弱い子弱い子と思っていたけれども、この子は私の思っているほど弱い子ではないのかもしれない。ただ私が信頼されすぎているだけか。いやー、人望があるって辛いなぁー。


 とりあえずなんとかして話をまとめて、家以外で子供に会わない方がいいかもしれないねと伝える。私もなにかないか探ってみることを約束すれば、この話は終わりだ。まあ、幼女の子供でまだ無事なのは、どこにいるのかわからないモノちゃんと、今頃エルフ養殖場でたくさんのエルフをパクパクしているテトラちゃんだけなのだけど。


 そもそもモノちゃんとはいつ会えるかもわからないし、テトラちゃんは家でしか会いようがない。対策は立てたけれど、全く意味の無いものなんだよね。そういうところがとっても幼女らしい。


 またしばらく間を開けるために幼女にどうでもいいおつかいを頼んで、モノちゃんとテトラちゃんの収穫時を待つ。テトラちゃん以外は放牧しているから仕方がないけれど、やっぱりこうして自然に育つのを待っていると育ち方にムラがあっていけないね。とはいえシステム的に育てるとどうしても画一的になってしまうし、それだと一品ものはなかなか生まれない。シーちゃんとかエフちゃんが異常なだけで、天然物は普通に育てるのが一番なのだ。


 数年開けて、モノちゃんが収穫時になった。いつかの幼女みたいに、自分のささやかな幸せを見つけて、生まれ育った街で幸せになっていたので、幼女とシーちゃんを少し時間差をつけて送り出す。幼女の方の理由はいつも通りの適当なもの。今までの二人みたいに、ついでに会ってこいとか言わないのがポイントだね。モノちゃんの居場所は私も知らないことになっているのだ。普通に街の噂とか集めてれば知れることだけど。


 情弱な幼女をかわいそうに思いながら見守っていれば、かつての仲間たちと再会する。モノちゃんの生まれ育った場所ということは幼女の子育ての場所であり、幼女が仲間を守れなかった場所なのだから、体の不自由になった仲間たちが残っていても不思議ではないよね。


 久しぶりの再会にもかかわらず全く変わっていない幼女にすぐ気付いた元仲間たちが、心配していたのだとか色々声をかけるけれど、それを無視しようとする幼女。自分の行動が筒抜けかもしれないなんてことをまだ本気で気にしているらしく、わたしといたら危険だからなんて抜かして、そんなの一緒にいない理由にはならない!と言われて涙をほろり。仲間ってあたたかいね。バランスをとるために体は冷たくしてあげようか。


 あたたかい仲間に囲まれて、別れて以降のことを話す幼女。そして、そんな団欒の場に一人の来客が。一体誰だろうなぁ、突然来るなんて不思議だなぁと白々しく考えていると、やってきたのは耳の長い成人女性。幼女のママの、レアさんにそっくりだね。そう、モノちゃんだ。シーちゃんは残念ながらまだ到着していないからね。


 目と目が合って感じるのはもちろん素敵な恋の予感なんかではなく、お互いに気不味い気持ち。そりゃあ何年も前に喧嘩別れした親子が、突然思いもよらないところで遭遇したらこんな状況にもなるだろうね。お互いに相手のことを嫌っていないどころか、内心では大好きなので尚更面白い。早く仲直りしちゃいなよ。


 先程までの和やかな団欒は、気不味い二人のせいで一気にお通夜みたいな空気に変わる。それを変えたのは、幼女の元仲間のタンクくんだ。幼女に対して、またお前は言葉足らずだったんじゃないかと聞いて、モノちゃんに対して、こいつはなんだかんだで馬鹿だから素直にぶつからないと伝わらないぞと説得。


 そのまま二人は気持ちをぶつけ合って、わだかまりは解けたみたいだね。モノちゃんが幼女の過去の話を元仲間たちから聞かされていたことや、モノちゃん自身にも心境の変化があったこともいい方向に働いたのだろう。長い時を経て、ようやく親子は笑い合えるようになったのだ。感動的だね。


 そうして仲直りしたら、幼女はモノちゃんの家族を紹介される。うちのお母さん見た目めちゃくちゃ幼女だけど大丈夫?とでも話していたのか、幼女を見てもそれほど驚いた様子は見えない。理解のある彼くんだね。もちろん私もモノちゃんが家庭を持っていることは知っていた。だってこうなるタイミングを待っていたのだからね。


 彼くんとの挨拶もそぞろに、幼女の視線を奪うのはその腕の中にあったもの。幼女よりもさらに小さく、幼女でも抱えられるくらいの大きさの子供。初めて見るはず幼女に何かを感じているのか、パパの腕の中からちっちゃな手を伸ばしている幼子。


 もちろん、モノちゃんが橋の下で拾ってきた子供、なんてオチではなく、正真正銘の幼女の孫だ。やったねおばあちゃん、初孫だよ!掛け合わせて作った養殖物なら孫どころか玄孫までいる幼女だが、天然物の孫は初めてだし、他の子は認知されていないからね。その感動はなかなかのものだろう。これまで倒してきた魔王のしもべの半分以上はあなたの子よ。認知してあげて。


 自分に孫がいるなんて知らなかった幼女がとってもびっくりして、おっかなびっくりと言った様子で孫ちゃんに触れる。傍から見ている分には初めての弟妹を壊さないように優しく触れるお姉ちゃんだな。四人も産んだんだから子供なんて触れ慣れているだろうに。


 そのあとは孫にデレデレしている幼女と、やっぱり幼女がお義母さんというのは慣れないのか少し居心地が悪そうにしている彼くん、何もわかっていない孫ちゃんの三人を置いて、軽い宅飲みのようなものが始まる。これから起きることも知らず、平和なことだ。一番話の中心にいるべき幼女が放置されているのはどういう冗談なのだろうか。


 一晩が経って、二晩が経って、平和な時間は終わる。そう、シーちゃんの到着だ。一部ではテロリストとして有名にもなっているシーちゃん、何の因果か、モノちゃんにそっくりなシーちゃんだ。


 ますます戦闘能力に磨きがかかっているシーちゃんに、今回私が伝えたミッションは二つ。少ないからシーちゃんでも忘れる心配がなくて安心だね。あの子なら私が命令すれば100桁の円周率でもすぐに覚えそうだけれど。


 まず1つ目は、久しぶりにこんにちはした幼女の元仲間たちを魔王のしもべに作りかえること。これはシーちゃんであれば間違いなく簡単にやれることだね。現存する中での最高傑作は伊達じゃない。過去を含めればもっと強いのはゴロゴロいるけど、まあ、そんなのはどうでもいいことだ。いくら強くなっても、私を殺してはくれないのだからね。


 二つ目は、きっと元仲間の成れの果てを相手に戦うであろう幼女とモノちゃんを相手に立ち回って、モノちゃんにトドメを刺すこと。こっちは少し難易度が高いかもしれない。普通にバラバラにするだけだったら、幼女の回復魔法で回復されてしまうからね。あえて不完全に回復させることで回復を阻害するくらいしか方法はないのだが、果たしてシーちゃんにそんな器用なことが出来るだろうか。いや、不器用な方が逆に上手くいくかもしれないな。


 あとはなるべく街を壊さないように伝えたくらいだろうか。20年弱前にボロボロになって、そこから頑張って復興した街並みが見る影もなくなったら可哀想だからね。本音は孫ちゃんの身柄を確保したいからなんだけれど。


 まあ、そちらは上手くいかなくてもいい。どちらに運んだとしてもどうとでもなるように、チャートは綿密に組んである。RTAとかしたことないから上手く進むかは知らないけど、最悪記憶をこう、いちにのぽかん!でどうにかできるだろう。


 細かいところはシーちゃんに任せているのであと私ができることは見守るだけ。さてお手並み拝見と思っていたら、シーちゃんは以前私が作った、魔王のしもべの種を取りだした。使い方はとっても簡単で、植えて放置するだけで魔王のしもべができるというもの。夏休みの観察日記にピッタリだね。植木鉢じゃなくて人間を用意しないといけないのが難点だけれど。


 こっそりとバレないように元仲間たちの家に忍び込んだシーちゃんは、眠っている彼らに種を植え付ける。ちょっと心臓の近くに落としてやると、すぐに皮膚を食い破って自分から埋まってくれるから便利だね。


 胸に違和感を覚えた彼らが、昔の習慣なのかすぐに目を覚ますけれど、そこにはもうシーちゃんの姿はない。そのままその日は終わって、自体が動き出したのは次の日の昼過ぎ。


 朝から少し体調が悪そうにしていた元仲間の三人が、食事中に急に苦しみ出したのだ。揃って胸を抑えて、幼女が何とか回復させようとしても効果はなく発芽。全身のが静脈から黒く染っていき、身体が膨れて魔王のしもべに生まれ変わる。


 突然生まれ変わった仲間たちに驚きを隠せず、けれど躊躇うことなくすぐに攻撃を始める幼女と、小さい頃からお世話になってきたおじさんおばさんが突然化け物になったことにも、自分のお母さんがそれを攻撃しだしたことにも理解が追いついていない様子のモノちゃん。やっぱりこう言う時に経験の差って出るんだよね。


 それでも、すぐに事態を受け入れて子供と彼くんを逃がせるのは、モノちゃんもそれなりに修羅場をくぐりぬけてきた証だろうね。


 さてさてこれからどうなるのかなぁと思いながら続きを観察していると、ひっくり返った食器でお昼ご飯を食べていないことを思い出した。ご飯を取るか、観察を取るか。どちらにするべきか迷いに迷って、私は自分の食欲を優先させる。


 そうして戻ってきた時、無事だったのは幼女と孫ちゃんだけだった。なんだかうん、大事なところを見逃してしまったね。後で再生機能を使ってゆっくり見よう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る