Q17.なぜ思い出の場所は壊れるのでしょうか?

 ジエンくんの後処理が終わったのを見届けたら、早速次の準備だ。テトラちゃんはいつでもいいから後回しにして、そうすると次に収穫するのは長女のモノちゃんと次女のトリーナちゃん。どちらももう少し熟成した方がいいのだが、トリーナちゃんの方は学園に入り浸っているせいで、そろそろ成長が泊まってきた。


 これがもし、何もしなくなるのが幼女だつたりすれば私は激おこで学園を壊しに行くのだけれども、いかんせんサボっているのは幼女の娘だ。素材としての価値はそれなりに高いけれど、それでも純血種ほどのものではないし、それほど大切にしないといけないものではない。


 一体どうしたものかと熟考すること3秒。塵も積もればと言うし、やっぱり食べさせておくことに決めて、食べるに至るまでのストーリーを考える。ジエンくんの時は頼りになるエフちゃんが全部請け負ってくれたけれども、それ以外の時はここにいないので大して役に立たない。使えないなぁと思いながら一人で考え続けて、ようやく思いついたのは、幼女に母校訪問をさせて、その数日後に学園をしーちゃんに襲わせるというシンプルなもの。


 私はエフちゃんとは違って、劇的な状況を作ることにこだわりがないから、どうしてもシンプルになってしまう。会った直後に失ってしまうとか、二番煎じもいいところだ。オリジナリティーがなければやる気もない。そんな適当な動機で命を落とすことになるトリーナちゃんは大変可哀想だが、まあ、私のためだから仕方がない。


 それに、これからも似たようなことを何度かやることになるのだから、一々ちゃんと考えるのは面倒なのだ。使いまわせるなら使い回した方がいいし、どうせ幼女が気付く頃にはもう何もかも手遅れになっている。


 というわけで、ジエンくんから2年くらい待って、幼女におつかいを頼む。名目は学園から頼まれた論文の添削が済んだから届けて欲しいというもの。普段はテトラちゃんにやらせているんだけど、今回はテトラちゃんが外出中なので代わりにお願いする。私が直接行けばいいのではという意見には、私を崇めている集団の前に姿を現したら大変なことになるじゃないかと言えば、幼女は納得したように頷いていた。


 ついでに今頃学園で先生になっている娘ちゃんにも会っておいでと言えば、幼女は生えていないしっぽをぶんぶん振りながらやる気を見せる。君のような単純で扱いやすい子は大好きだよ。


 さて、幼女の次女、トリーナちゃんだが、お友達が欲しい!とうちを出ていったあとは、沢山お友達を作りながら学業に励んでいた。幼女とは違って勉強以外にもやることがあったから、主席ではなかったけれども、それなりに優秀な成績で卒業もしている。なんでも、お母さんが首席だったのに自分が落ちこぼれでは面目が立たないとかで、こっそりしっかり勉強をしていたらしい。まあ、学園に伝説を残している幼女の娘が劣等生では、居心地も悪いだろうからね。


 誰よりもストイックに自分を追い詰めて、学園の危機には我が身を顧みずに事態の収束に勤しんで、その後冒険者という職に進んだ幼女エルフさんは学園の中でも有名な存在だ。その勉学に対する姿勢や人のために動く精神性など、学園生の模範であるとして語り継がれている。ただ一緒におしゃべりできる友達がいないから勉強しかすることがなくって、私怨八割くらいで魔王のしもべに特攻かましただけの幼女が、学園の模範。面白い冗談だな。本人が聞いたらきっとなんとも言えない表情をするだろう。楽しみだ。


 そんなことが待っているとは欠片ほども想像していない幼女が、ししょーはやくはやく!と幼児がえりしつつ私を急かす。その姿はまるで遊園地に父親を急かす子供のようだ。君さ、ちょっと自分の年齢考えた方がいいんじゃない?


 今すぐこの場にテトラちゃんを呼びつけて、ママのかわいい()姿を見せてあげたい衝動に駆られたが、そうしてしまうと幼女は家出をしてしまうかもしれない。それだと無駄に時間を浪費することになるので、今回は我慢だ。今回しか我慢しないから、次同じ状態になったら絶対にやろう。


 幼女を辱める予定を立てながら、棚から紙の束を引っ張り出す。10冊ほどある論文たちはどれもこの数年書かれた中で特に優秀だったものたちだが、悲しいことに半分くらいは見当違いとしてバツ印。読み物としては面白いんだけど、魔法の理論としては間違っているから仕方がないね。わかりやすく言うならば、フロギストン説の論文が届いたようなものだ。面白いけど違うから赤ペンでバツ。だからといって、答えを教えてあげるわけではない。だってそんなことをしたら、試行錯誤の歴史が作れないからね。人類の発展には度重なる試行錯誤が大事なのだ。その試行錯誤の結果をサクッといただいて、作られた歴史を無へと帰したのが私なのだが。


 それらを幼女に渡したら、いつも通り観察の時間だ。幼女に持たせた中にはトリーナちゃんの書いた論文も入っていたので、きっとお母さんが持ってきてくれたことに大喜びして、大きなバツを見てしょげるだろう。そこを慰めるのは幼女の仕事だな。ただ、それよりも先に始まるのは学園の洗礼。幼女の同期で先生になっている人に見つかって、そこから人が集まって軽いカオスが生まれる。突然有名人が来て全校生徒がキャーキャー言ってるあれだね。


 学生たちから様々な“伝説”の話を知らされて、自分がどのように伝わっているのかを知る幼女。ただのぼっちを孤高だなんて言われて、たいそう気まずそうにしているね。自分の黒歴史が知らないところで知らない広がり方をしていたのだから、仕方がないことかもしれないが。


 そんな幼女のことを眺めることしばらく。ようやく何をしに来たのか聞かれた幼女が、私こと賢者様から論文を預かってきたのだと伝えると、先程まで群がっていた生徒たちは文字通り蹴散らされる。犯人は論文を出した教師陣で、その中にはトリーナちゃんもいた。


 あまりに乱暴な蹴散らし方に、怪我をしてしまった生徒も沢山いたが、文句を言われても教師陣は、そんなのどうでもいいから後にしなさい!という始末。向上心があるのはいいことなんだけど、あまりにもそれが前面に出すぎていてちょっと怖いんだよね、あそこ。なんなら私にとっては、この世界のほとんどの場所があそこまでではなくても自分の信者の巣窟だ。面倒だからやっぱりおうちから出たくない。


 やっぱり引きこもりが一番と思いつつ、論文を返却していく幼女を見る。一人ずつ順番に集まって、表紙のバツの有無で喜び叫んだり、嘆き叫んだりしている様子は、大袈裟なリアクションをする子しかいない小学校の通知表配布みたいだね。


 ひと仕事終えた幼女は、血眼になって返却された論文とにらめっこしているトリーナちゃんに声をかけて、今忙しいからあとにしてとつっけんどんに言われてしょぼくれる。しばらく見ない間に、トリーナちゃんは随分と成長したようだ。以前までならお勉強のことなんてそっちのけでお母さんとの大事な時間を過ごしていただろうに、今はもうこっちの方が大事らしい。


 娘に構って貰えなくて凹んでいる幼女に学園の生徒が塩を塗り込んで、追い打ちをかける。本人たちはそんな酷いことをしているつもりは無いのだろうけど、さすがに可哀想だね。私も同情してしまう。


 しばらく相手をしていて心が死にかけている幼女に、トリーナちゃんが気付いたのは30分もたった頃。他の先生方は、酷ければ3日くらいは飲まず食わずで添削されたものとにらめっこするから、こんな短い時間で済んだのは意外だね。昔はそれで餓死したものもいたとか。私の知ったことではないけれど。


 トリーナちゃんが幼女のことを食事に誘って、自分の書いた論文の何が良くなかったのかを相談する。最後に勉強したのがずっと前な幼女に相談しても、全く参考にならなさそうだと私は思ったのだが、そんな予想に反して幼女はところどころ穴はあるもののちゃんと意見を話せていた。学園の伝説(笑)は伊達じゃないということか、親としての意地を見せたのか。


 お母さんって凄かったんだねと、自分で相談したくせに失礼なことを言うトリーナちゃん。ならなんで相談したんだと思わないでもないが、全く知らない人にわかりやすく説明しようとすると、自分の中で整理されて勝手に解決することもあるので、それを目的にしていたのかもしれない。


 お母さんありがとうと言って、食事も途中に自分の部屋に帰っていくトリーナちゃん。研究者っていつもそうですよね。家族のことをなんだと思ってるんですか。


 もっと沢山お話したかったと、食べかけの料理の前でしょんぼりする幼女。よもやこれが今生の別れになるなんて考えてもいないのだろう。最後の記憶がこんなものなんて、かわいそうだね。


 幼女が頑張ってもきゅもきゅしている間に、トリーナちゃんを訪ねる。ちょっと前に渾身の論文にバツをつけて返した相手に対して、トリーナちゃんは歓迎の空気を出していた。新しい理論を思いついたのだけれど、論文にする前に私の意見を聞かせて欲しいのだと。身内の特権をフル活用しているね。思いの外強かだな、君。


 ゆっくり聞いている暇はないから簡潔にまとめたものだけを聞いて、私の知識と同じで正しいものだったのでそれで大丈夫だよと伝えると、それじゃあ早速描き始めますねと机に向かい始める。とても活き活きしていて楽しそうだ。ざんねんながらその論文が完成することはないのだけれど。


 鳩尾から下をスパッと切り分けて、両腕も飛ばす。大事な可食部だからね。ズルりと床に落ちた胴体が、先生、なんでと問いかけてくる。直前まで談笑していた家族に突然だるまにされたのだから、当然の反応だな。少し鈍すぎる気はするが。


 横になった上半身を優しく起こしてやりながら、アリウムちゃんを完成させるためには君たちきょうだいの犠牲が必要なんだと説明してあげて、血を流し込んで化け物に生まれ変わらせる。自分がどうなるのか、何になるのか、賢いこの子ならわかるはずなのに、わからないふりをしていたのは信じたくなかったからだろうか。家族のことを信じる優しい子だね。おかげで楽だった。


 ジエンくんとは違って、極端な調整は必要ないので、ほどほどにいじって生まれ変わらせる。ただ、ちょっとインパクトは欲しいからいつものものよりもだいぶ大きなサイズにしようか。ブチュブチュ音を立てながら、質量保存の法則を無視して膨れ上がっていくトリーナちゃんを放置して家に帰り、幼女ウォッチングを再開する。


 突然ガラガラ崩れ始めた建物にびっくりする幼女。幼女じゃなくてもびっくりで、周囲は先程の幼女ショックがかわいく見えるくらいにはパニックだ。自称世界一安全な場所である学園で、突然崩落騒ぎが起きたのだからそれも当然だね。ちなみに真に世界一安全なのは、当然ながら私の家だ。あらゆる外敵の介入を許さないず、代わりに外敵以外もなかなか入って来れない。私が敵対する場合は世界一危険な場所になるが、その時は世界中どこにいても対して変わらないので考える必要はないだろう。


 学園の教師でもなければ警備員でも職員でもないのに、何かあったら直ぐに首を突っ込まずにはいられない幼女が、騒ぎの中心に向かう。もちろん、そこにいるのはかわいいかわいいトリーナちゃん……だったものだが、今の幼女はまだその事を知らない。


 近付くにつれて増えてきた負傷者のひとりを捕まえて治療しながら、何があったのかを確認して、聞けた言葉はトリーナ先生の部屋が突然……というもの。かわいい娘ちゃん、少し前に別れたばかりなのに、こんな騒ぎの中心にいるだなんて、幼女は思いもしなかったのだろう。先程までとは比べられないほど焦ったように続きを聞き出そうとして、何も話さずに気を失ってしまった役立ずを優しくその場に寝かせて先に進む。安全な場所に運ぶ手間を惜しむあたり、幼女がいかに家族を大切にしているのかがわかるね。


 そうして少し進んで、幼女の目に映ったものは、これまでとは桁違いに大きい魔王のしもべ。もし幼女が魔王を見た事がなければ、これこそが魔王のしもべの親玉だと思いかねないスペシャルサイズ。まさかここまで大きくなるとは、私としても予想外だ。


 しかし、そんな飛び切りのものが相手だったとしても、魔王絶対許さないマンな幼女には関係ない。どちらかと言えばウーマンだし、見た目だけならガールだけれど、ここは語感を大切にしよう。


 そんなどうでもいい話は置いておいて、頑張って戦う幼女の話だ。魔王のしもべの姿を見るやいなや、獲物を見つけた獣のような目で襲いかかる。いや、どちらかと言えば親の仇でも見るような目だな。親の仇どころかその子は君の娘なのにね。


 いつもよりも多少苦戦しながら、幼女が魔王のしもべを倒して、トリーナちゃんを探す幼女。けれど見つかるのは全く知らない死人とか、壊れたものばっかり。悲しいね、でも君が今殺したんだから、見つかるわけがないじゃない。そんな中で、一つだけ見つけたのは、崩れた建物の真ん中、瓦礫がほとんど落ちていない場所にある、内側から破れたような衣服たち。そこに混ざったひとつのペンダントを見つけて、幼女の動きが止まる。


 そのペンダントは、トリーナちゃんがいつも身につけていた、家族の写真が入ったものだった。また死んじゃったね、君の子供。



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 燃え尽きて帰ってきました(╹◡╹)


 立派な灰です(╹◡╹)

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