Q16.何故元凶から離れたはずなのに危険なんですか?

 ちょっとしたトラウマを幼女に与えたら、子供たちの様子を見る。幼女とは違ってリモートで監視できるわけじゃないからいちいち探さないといけないのが面倒なところだね。


 まずは長女のモノちゃん。お母さんみたいに固定の仲間を作るのではなく、その場その場でチームを作って色々な人との繋がりを広げているようだ。お母さんはお友達が少ない子だったけど、その性質は継がなかったみたいだね。ちょっと頑固なところはあるけれど基本的に周りと仲良くできていて、別のところで会ったらまた組みたがる人も多い。リピート率が高いってことだね。


 信用が美味い話に繋がる業界だから、とてもいい事だ。ところで何故かたまにテロリストと間違われるんだけど、まあ、シーちゃん叔母さんにそっくりだから仕方がないだろう。街中で突然襲われてその後誤解が解けて仲良くなるところまでで一セット。恨みを引きずるとかってないんですか?なさそうですね。


 人当たりはいいしいい子なんだけど、いかんせん名前が名前だね。幼女のネーミングセンスは育ての親である私に似たようだ。


 お次は二番君、長男のジエンくんだ。モノちゃんが迷惑をこうむっているシーちゃん叔母さんとは違う方のエフちゃん叔母さんの元で騎士団の見習いから頑張っている。かなりマザコンをこじらせているせいで直属の上司からは扱いにくい子として見られているようだね。扱いずらいのは王妃様の甥っ子だからというのも大きいだろうが。


 血縁の理由と、賢者様に稽古をつけてもらっていたという経緯から色々な人に気にかけてもらっているので、それなりに過ごしやすいそうだ。直接あったので最近どうかと聞いてみたら、エフちゃんに王様、側近くんがとても良くしてくれると教えてくれた。側近くんは居候させてくれているらしい。なんでも、ジエンくんの身元保証人も兼ねているのだとか。


 かつて好きだった人の子供のお世話までしているのは、まだ未練があっていい所を見せたがっているのか、それとも未練は残っていなくて素敵な思い出に落とし込めたのか。うん、後者であることを祈っておこう。ところで側近くんの奥さんはとても小柄で金髪の人だった。バッチリ性癖壊されてるね。


 三番ちゃんこと次女のトリーナちゃんは元気に学園でお勉強をしているね。どこぞの幼女とは違ってお友達も沢山できて、悪い虫も沢山寄っているようだ。楽しいエピソードを沢山聞かせてくれたから、今度お母さんにも聞かせてあげるように伝えておいた。きっと内心苦虫を噛み潰したような気持ちになりながら、表面上は嬉しそうに聞いてくれるだろう。灰色の青春を送ってきた人間にとってたのしい学生生活の話は特効だ。


 さて、ようやく最後のテトラちゃんだな。この子に関しては、いつも家にいるから特に変わったことは無い。せいぜいが思春期を迎えて少しはしたない子になってしまったくらいだろうか。それでも従順だから扱いやすいことに変わりはない。それにしてもきょうだい揃って酷い名前だね。合わせて1234って、やる気のないパスワードかよ。


 かわいい育て子たちの様子を見て、もう少ししたら収穫のタイミングだなと一人納得する。あの子たちの様子を見に行ったのは別に、元気でやっているか心配になったとか、そんな理由ではないからね。


 たぶん、最初に収穫するのはジエンくんになるな。素材としての伸びしろがもうほとんど残っていないし、不慮の事故にも合わせやすい。これ以上熟しても悪くなるだけだし、早めに収穫しないとな。恨むのなら一番濃く継いでしまった父親の血を恨むといい。


 親子の最後の会話を確保するために、適当な理由をつけて幼女をエフちゃんの元に送る。甥っ子の収穫時期を教えると、相も変わらず人の心というものに欠けているエフちゃんは大喜びでシチュエーションを考えてくれた。こんなのが普段は心優しく美しい王妃様として国民に慕われているのだから、人間は信じられないな。


 ジェンくんが久しぶりのお母さんにテンションぶち上げて、王都の案内という名目でエスコートする。周囲からの目は、最初微笑ましいものを見るものになり、次に幼女を口説いているようにしか見えない騎士にドン引きしたものになり、最後にそれが母親に向けているものだと知って理解を諦めたものになった。


 こんな短い時間でロリコンとマザコンの風評が王都中のあらゆるところへ拡がったな。以前は美形エルフ騎士に熱い声援を上げていたお嬢さんたちも今はすっかり冷たい視線だ。中身がバレた途端変わり身早いなぁ。人間ってこわい。


 マザコンエルフへの当たりがきつくなるのはおいておくとして、エフちゃんの計画に話を移そうか。計画、と言っても、特に難しいことをする訳ではない。やろうと思えば大体のことはできるけど、やる必要がなかったらやらないからね。


 単純に、幼女の前でジエンくんを簡単な任務と言って働きに行かせて、そのまま帰って来なくさせるだけ。もちろん幼女がちゃんと諦められるように、翌日くらいに魔王のしもべが出たと幼女を向かわせて、処理させる。


 それだけの簡単なことさ。私だって一々細かいところにまで拘っていられるわけじゃないからね。ただ、息子の仇だと思って処理したモノが、息子の成れの果てで、前日の夜に食べていた肉が我が子の一部だとあとから判明するくらいさ。ネタばらしにはエフちゃんが立候補してくれました。ここで決めなきゃ女がすたる!との事だけど、そんな下衆なものならすたらせておけばいいと思うのは私だけだろうか。


 元王子くんの知らないところでこの国の王妃の死が決まった瞬間である。エフちゃんの夢はアリウムちゃんのことをぐちゃぐちゃにして殺されることだからね。しかたがない、しかたがない。恨むならこんなのを選んだ自分を恨むといい。幼女ならこんなことにはなっていなかったんだからね、代わりに国は滅んでたかもだけど。


 どちらにしてもクソみたいな未来しかなかった元王子くんの境遇に涙が出そうになるが、私の目的のためだからコラテラルダメージだ。幼女の犠牲も、その他もろもろのことも全部コラテラルなのだから、国の一つや二つ気にしない。


 というわけで、久しぶりに姉妹で食事でも……と幼女が招待される。幼女にとっての初恋の彼も一緒にいるけれど、これにはもう特に未練が残っていないようだね。まあ、何年もたっているし幼女は幼女で立派な未亡人にまでなっているのだから、未練タラタラな方が問題かもしれないが。


 一緒に招待されていたマザコンエルフは予定通りエフちゃんの仕込みによって既に放り出されている。息子ちゃんがいないならまた今度の機会にしないかという幼女の提案は、私がとびっきりの高級食材を手配したという事実によってねじ伏せられた。尊敬する師匠が飛びっきりのものを用意してくれたとなれば幼女も断りにくいだろうからね。もちろんジエンくんは心底悔しそうに任務に赴いて行ったが、大丈夫、その高級食材って君のことだから。


 マザコンを抑えられるくらいには騎士団で上下関係を叩き込まれた育て子の成長にうるっときながら、私をみつけて忠犬のように駆け寄った育て子の四肢を撥ねる。実は魔王のしもべにするのって、脳みそと心臓が繋がっていれば十分なんだよね。可食部を確保しないといけないから、心臓より下は先に切り離しておかないといけないのだ。


 すっかり壊れた子ジャンクになったジエンくんが、私ほうを見ながらいきなりは酷いと言う。これまで何度も修行の名目でバラしてきたから、すっかり慣れたものだね。普通は混乱どころではないのに、この子はすぐに治して貰えると信じきっているのだ。子供の純粋な信頼、ここまで育てあげるのには眠れない夜もあった。


 いつまでも私が治さないので、早く治してくださいと、このままじゃ死んじゃいますと催促するジエンくんに近寄り、手から赤黒い何かを出して止血をしてあげる。何か、とは言ったけど私の血だね。ジエンくんはきょうだいの中では一番許容量が少なく、才能がないからそのまま変えてもそこまで強いものにはなれない。そうなると、私が直々に手を加えてあげなくてはならないわけだ。


 ここに至ってようやく私の様子がおかしいことに、表情にいつもの笑顔が欠片もないことに気付いたらしいジエンくんが、私に何かを言いながら命乞いをしているが、そんなことをされたくらいで心変わりするくらいなら最初からしないのさ。たくさんの後悔を超えて、私は成長したのだ。


 与えた調整は、いつもの触手の代わりに土の魔法で剣を生やせるようにしたこと。ジエンくんは土魔法に極振りして、ほかの魔法がほとんど使えない、固有魔法にまで至っているのだ。それならその特徴を活かしてあげないと勿体ないからね。というより、通常規格のものに収めようとしたらゴミみたいな仕上がりになってしまう。ピーキーすぎるのも考えものだな。


 ジエンくんだったものには辺りを破壊して貰わないといけないから、その場に放置して食材だけ回収する。こうやって生態系って壊れていくんだね。なんて儚いのだろうか。


 これまでのエルフの中でもトップクラスに筋肉の多いジエン肉は、ステーキとかにするとちょっと硬そうなので、ミンチにしてハンバーグにする。奇しくも幼女の叔父さんと同じメニューだね。しかしどこぞの叔父さんとは違って、ジエン肉は脂肪を混ぜるのが大変だった。体脂肪がほとんどないせいで、全身からこそげ集めなくてはならなかったからね。まさか尻まで筋肉でガッチガチだとは思わなかった。見たことはなかったけれども、もしかしたら脳みそまで筋肉だったのかもしれないな。


 ハンバーグを完成させて、骨をスープにする。余ったクズ肉は芋と一緒にコロッケだ。とても手の込んだ料理だから、きっと幼女も大満足だろう。固有魔法持ちのエルフ肉は食べさせるのが初めてだから、きっと沢山染み込むだろうね。しかも肉親補正で吸収率アップ!完璧じゃあないか。元王子くんには食べないように伝えないと、負荷に耐えられず弾けてしまうかもしれないな。


 ここまでしたら今回の私の仕事は終了。自分にしかできないことが多いと、いつも忙しくて大変だな。

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